上 下
14 / 102
第一章【異世界出会い掲示板始めました】

第13話―はじめての運命

しおりを挟む
 次の日の勤務は少しイレギュラーな事が起きた。

「隣接区画のパトロールだって?」

 そんなのは地理を覚えるための新人の仕事だろうと文句を言いたかったが、どうやら若手が揃って出掛けた飯屋で集団食中毒が起きたらしい。

 幸い死者は出ず、全員回復傾向らしい。不幸中の幸いだ。食中毒の中には、区画中に猛威を振るうような種類もある。

 マッシュはため息を吐いて、隣接区画の一つ91区画をパトロールし始めた。

 本来は2人から3人一緒に行動するのが基本なのだが、とにかく今は手が足りない。しかたなくベテランは一人でパトロールする事になった。

 久々に回る地区は所々店代わりしていた。もともと密集建築の多い都市なので、建物が入れ替わっていることは無かったが、道に面した数々の店は、昔よりもさらに活気を溢れさせていた。

 元気な人々を見ると、元気になるのがマッシュという男の良い所だ。沈んでいた気分を持ち直して、持ち前の正義感で道行くトラブルを解決していく。

 ようやく普段のペースを取り戻したマッシュにはいつもの笑顔が戻っていた。

「仕事は……良いもんだな」

 ちょっと夕焼けを見たい気分になった。たしかこの先に古い教会があったはずだ。

 ズキン。

 心に痛みと共に、彼女の書き込みの一文が過ぎった。

『えりかは教会の治療院でお手伝いをしています』

 まさか……な。

 そう思いつつもマッシュの足は教会に向いていた。

 ごちゃごちゃと建物が密集する中に、唐突に開けた場所が現れる。そこだけこんもりと丘になっていて、てっぺんに小さな教会がちょこんと乗っていた。古いが由緒があるらしく、区画開発の難を逃れた、都心のオアシスのような場所だった。

 今も子供たちが走り回っている。

「おーい。そろそろ暗くなる! 家に帰れよ!」

 マッシュが笑顔で声を掛けると、じゃリン子どもがそれぞれの反応を見せた。

「えー! もうちょっとだけ!」
「あ! 兵士さんだ! ちょっとその槍貸してくれよ!」
「もう帰ろうよぅー」

 子供はどこでも変わらんな。

「ダメだダメだ。夜になると街中にも魔物が紛れ込んだりするんだぞ。そしたらお前たち、頭から食べられちゃうぞ?」

「ええ?! そんなの俺たちを大人しくさせるための嘘さ!」
「ボクは怖いよ! 帰ろうよ!」
「槍! 槍!」

 マッシュは苦笑して、子供たちの頭に手を置いた。

「魔物の話は本当だ。大げさに言う奴もいるが、何度か死体を見たこともある」

 そこで子供たちはピタリと動きを止める。

「ま……マジかよ」

「ああ。なに、昼間に王都に潜り込んでくる奴はいないから安心しろ。そしてすぐにお家に帰るんだ」

 子供たちはお互いの顔を見合わせると、頷いて一斉に駆け出した。どうやら教会の敷地内にある小屋に向かっているらしい。

 そう言えば孤児院があった気がするが……。

 マッシュはゆっくりとそちらに歩きながら昔を思い出す。たしか老夫婦が私財を投げ打って経営していたはずだが、いつも資金繰りに苦労していたはずだ。人格者だった老夫婦の顔を思い出す。

 挨拶くらいしていこうと、玄関前に立った。

 マッシュが扉にノックをしようと手を伸ばした時、予想外に扉が強く開け放たれて、慌ててマッシュは手を引っ込めた。

「コラ! リューロ! またおかずをつまみ食……い」

 出てきたのはぼろぼろのエプロンを掛けた、若い女性だった。

 俺と彼女は呆然とお互いを見やるしかなった。

「え、えりか……さん」

「マ……マッシュさん?」

 細い腕に細い腰つき。幼い表情だが、あの日よりも生気に満ちているように見えた。

 これが運命の出会いで無かったら、何を運命と呼ぶのであろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

その最弱冒険者、実は査定不能の規格外~カースト最底辺のG級冒険者ですが、実力を知った周りの人たちが俺を放っておいてくれません~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
※おかげさまでコミカライズが決定致しました!  時は魔法適正を査定することによって冒険者ランクが決まっていた時代。  冒険者である少年ランスはたった一人の魔法適正Gの最弱冒険者としてギルドでは逆の意味で有名人だった。なのでランスはパーティーにも誘われず、常に一人でクエストをこなし、ひっそりと冒険者をやっていた。    実はあまりの魔力数値に測定不可能だったということを知らずに。  しかしある日のこと。ランスはある少女を偶然助けたことで、魔法を教えてほしいと頼まれる。自分の力に無自覚だったランスは困惑するが、この出来事こそ彼の伝説の始まりだった。 「是非とも我がパーティーに!」 「我が貴族家の護衛魔術師にならぬか!?」  彼の真の実力を知り、次第にランスの周りには色々な人たちが。  そしてどんどんと広がっている波紋。  もちろん、ランスにはそれを止められるわけもなく……。  彼はG級冒険者でありながらいつしかとんでもない地位になっていく。

住所不定の引きこもりダンジョン配信者はのんびりと暮らしたい〜双子の人気アイドル配信者を助けたら、目立ちまくってしまった件〜

タジリユウ
ファンタジー
外の世界で仕事やお金や家すらも奪われた主人公。 自暴自棄になり、ダンジョンへ引きこもってひたすら攻略を進めていたある日、孤独に耐えられずにリスナーとコメントで会話ができるダンジョン配信というものを始めた。 数少ないリスナー達へ向けて配信をしながら、ダンジョンに引きこもって生活をしていたのだが、双子の人気アイドル配信者やリスナーを助けることによってだんだんと… ※掲示板回は少なめで、しばらくあとになります。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

世の令嬢が羨む公爵子息に一目惚れされて婚約したのですが、私の一番は中々変わりありません

珠宮さくら
恋愛
ヴィティカ国というところの伯爵家にエステファンア・クエンカという小柄な令嬢がいた。彼女は、世の令嬢たちと同じように物事を見ることが、ほぼない令嬢だった。 そんな令嬢に一目惚れしたのが、何もかもが恵まれ、世の令嬢の誰もが彼の婚約者になりたがるような子息だった。 そんな中でも例外中のようなエステファンアに懐いたのが、婚約者の妹だ。彼女は、負けず嫌いらしく、何でもできる兄を超えることに躍起になり、その上をいく王太子に負けたくないのだと思っていたのだが、どうも違っていたようだ。

聖女に殺される悪役貴族に転生した私ですが、なぜか聖女と一緒に魔王ライフが始まりました

下城米雪
ファンタジー
【短い紹介文】  王道の勘違い物 【長い紹介文】  聖女に殺される運命を背負った悪役貴族に転生した主人公は、「目立たない・関わらない・生き延びる」という言葉を胸に行動するも、なぜか聖女に好かれ、王子と決闘することになった。  主人公は亡命を決意する。  彼は生き延びることだけを考えて行動するのだが、周囲が彼の発言を勝手に深読みし、気付けば魔王になっていた。 「ノエル、陰謀論とか大好きだからな……」  世界の闇が動き出し、それに立ち向かう集団が生まれる。  そのトップに君臨する主人公なのだが……彼だけが、何も知らないのだった。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

処理中です...