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第七章
約束の夜(四)
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言葉通り、レオンハルトは角度を変え何度も触れるだけのキスをしてくれる。
「……あのっ」
何度目かわからない口付けを避けるように頭を引くと、澄んだ空のような瞳を見下ろす。
「あ、あの……と、特別なキスも、していただきたい、です」
顔に熱が集まるの感じながらそう伝えれば、レオンハルトがわずかに目を見開いた。
(やっぱり、外で……というのははしたなかったかしら)
レオンハルトを直視するのが恥ずかしくなり、思わず視線を下げると、少しして、ふ、という笑い声が聞こえた。
(え……)
驚くルシアナをよそに、レオンハルトはルシアナの肩口に顔を埋めるとその肩を震わせる。
(ま、まあ……レオンハルト様がこのように笑っていらっしゃる姿は初めて見るわ。お顔……お顔を……)
レオンハルトがどのような顔をしているのか見ようと試みるものの、背中を支える腕にがっちりと固定され、覗き見ることができない。そもそも何故笑い出したのかわからず、ルシアナは困惑したように、さらりとしたレオンハルトの髪を梳く。
「あの、わたくし何かおかしなことを言ったでしょうか? と、特別なキス、はやっぱり外でするものではありませんか?」
「……いや」
笑いを逃がすように深く息を吐き出したレオンハルトが顔を上げる。その口元には、いまだ笑みが湛えられていた。
「ただ、堪らないなと思っただけだ」
何が、と問う暇なく口を塞がれ、口腔内を舐られる。
「ン、ふ……」
厚い舌は勝手知ったるように、歯列を辿り、上顎を舐め、舌を絡めとる。レオンハルトの動きを真似ようにも、縦横無尽に動くそれに合わせることができず、ただ舌を差し出し、舌が絡み合ったときだけ動きに沿った。
「は……ンん」
(前も、思ったけれど……レオンハルト様との特別なキスは、とても心地がいいわ……)
触れるだけのキスも、多幸感に包まれ好きだ。しかし、この深く混じり合うようなキスは、多幸感以外の感覚も呼び起こされ、体の芯が熱くなるような気持ちよさがあった。
舌先を吸われると体が痺れたようになり、力が抜けそうになる。
「は、ぁ……ふ」
思考が停滞し、何も考えられなくなる。舌も動かせなくなったルシアナを誘うように、レオンハルトは舌の裏を舐めた。
「っぁ……」
ぞくりとしたものが背骨を伝って腰のほうまで降りていき、思わずレオンハルトにしがみつく。
反動で口が離れ、開いた口の隙間からぽたりと落ちた唾液が、レオンハルトの口の横につく。ぼうっとする頭で、ルシアナはそれを無意識のうちに舐め取っていた。そのまま、ちゅ、と口付ければ、レオンハルトがわずかに身を固くする。
ルシアナはそれに小首を傾げたものの追及することはなく、かつてレオンハルトがしたように、すぐ横にある彼の下唇を食み、軽く吸った。
「レオンハルト様、もっと……」
はしたないとは思う。恥ずかしさもある。しかしそれ以上に、愛し合っているという喜びや、離れていた間の寂しさが勝り、抱き締めるよりもっと深く、レオンハルトの存在を感じたかった。
もう一度特別なキスがしたくて、舌先でレオンハルトの唇を舐め、ちゅう、ちゅう、と吸い付く。
「……ルシアナ」
絞り出すような声とともに、痛いくらいに抱き締められ、ルシアナは顔を離してレオンハルトの相貌を見下ろした。彼の眉間には、昼間会ったときのような深い皺が刻まれていた。
「一度……背中の手を離す。だからしっかり首に掴まっていてくれ」
そうしたらキスをしてくれるのか聞こうとして、やめる。
ルシアナは大人しく首に抱き着くと、髪の隙間から覗く耳を見て、愛おしそうな笑みを浮かべる。
(ふふ、赤い)
レオンハルトが眉間に皺を寄せながらルシアナを見るときは、大抵耳が赤い。おそらくそれは照れが原因だろう、とルシアナは考えていた。
(可愛い……そう思うのと同時に、好きだという気持ちも溢れてくる……。レオンハルト様を可愛らしいと思うのは、彼を好いているからなのね)
気付くとどんどん愛おしいという感情が湧いてきて、その横顔に頬ずりする。
「……目を瞑って」
何かを堪えるように呟かれた言葉に、言われた通り目を瞑る。
パキンという音と一瞬の浮遊感ののち、匂いの違う場所に来たことに気付き、目を開ける。
そこは狩猟大会の会場の中心部で、幕舎が立ち並ぶ場所の入り口だった。
戻って来たのか、と思っていると、レオンハルトはルシアナを抱えたまま歩き始める。夜ということもあり、大体の人は幕舎内にいるようだったが、見張りや警備の騎士たちはそこかしこにおり、ルシアナを抱えたレオンハルトを見ては目を見張った。
(そういえばわたくしも、挙式のあと、パレードに向かう途中で抱き上げられたときは、とても驚いたわ)
これまで接してきたレオンハルトからは想像もできなかった行動だったため、とても動揺したのを覚えている。
(あのときは理由がわからなくて、移動が大変そうだと思ったから、とか、進行を気にして、とか、そのようなことを考えたわね)
あの時点ではまだ自分がレオンハルトを意識していることにも気付いておらず、レオンハルトが自分に対し義務以上の何かを持っている可能性も考えていなかった。しかし、今考えてみれば、移動とか進行とか、本当にそんなことのためにあのような行動をしたのだろうか、と思えてくる。
(自惚れかしら。レオンハルト様と想い合える関係になって、いいように解釈しているのかも)
目の前で揺れるシルバーグレイの髪を見ながらそんなことを考えていると、だんだんと視界の端に見覚えのある景色が増えてくる。顔を進行方向に向ければ、白い騎士服を着た二人が警備する幕舎が目に入った。
白い騎士服を着た二人は、ルシアナたちの姿を確認すると、胸に手を当て敬礼した。
「お疲れ様、ソラナ、カリサ」
「はっ」
短く答えた二人にルシアナは笑みを向け、レオンハルトは二人の間を通って幕舎内へと入った。
なんとなく、幕舎の前でお別れではないだろう、と思っていたが、実際そうなったことにドキリと胸が鳴った。
レオンハルトは入り口横の魔法石を撫でると、幕舎内を見渡した。
幕舎はたった三日間だけ使う仮の住まいとは思えないほどしっかりした造りで、普段使っている寝室よりは狭いが、寝泊まりするだけなら十分な広さと設備だった。レオンハルトは右端にベッドがあることを確認すると、そちらへと向かう。床は板張りになっているため、コツ、コツ、という靴の音が静かな幕舎内に響いた。
立ち止まると、衣擦れの音しか聞こえない。レオンハルトはルシアナをそっとベッドの上に下ろすと、ベッドサイドのランプを点け、ルシアナの体をゆっくり後ろに押し倒す。覆い被さり見下ろすその瞳には、確かな熱が籠っており、ルシアナの胸は静かに高鳴った。
「……あのっ」
何度目かわからない口付けを避けるように頭を引くと、澄んだ空のような瞳を見下ろす。
「あ、あの……と、特別なキスも、していただきたい、です」
顔に熱が集まるの感じながらそう伝えれば、レオンハルトがわずかに目を見開いた。
(やっぱり、外で……というのははしたなかったかしら)
レオンハルトを直視するのが恥ずかしくなり、思わず視線を下げると、少しして、ふ、という笑い声が聞こえた。
(え……)
驚くルシアナをよそに、レオンハルトはルシアナの肩口に顔を埋めるとその肩を震わせる。
(ま、まあ……レオンハルト様がこのように笑っていらっしゃる姿は初めて見るわ。お顔……お顔を……)
レオンハルトがどのような顔をしているのか見ようと試みるものの、背中を支える腕にがっちりと固定され、覗き見ることができない。そもそも何故笑い出したのかわからず、ルシアナは困惑したように、さらりとしたレオンハルトの髪を梳く。
「あの、わたくし何かおかしなことを言ったでしょうか? と、特別なキス、はやっぱり外でするものではありませんか?」
「……いや」
笑いを逃がすように深く息を吐き出したレオンハルトが顔を上げる。その口元には、いまだ笑みが湛えられていた。
「ただ、堪らないなと思っただけだ」
何が、と問う暇なく口を塞がれ、口腔内を舐られる。
「ン、ふ……」
厚い舌は勝手知ったるように、歯列を辿り、上顎を舐め、舌を絡めとる。レオンハルトの動きを真似ようにも、縦横無尽に動くそれに合わせることができず、ただ舌を差し出し、舌が絡み合ったときだけ動きに沿った。
「は……ンん」
(前も、思ったけれど……レオンハルト様との特別なキスは、とても心地がいいわ……)
触れるだけのキスも、多幸感に包まれ好きだ。しかし、この深く混じり合うようなキスは、多幸感以外の感覚も呼び起こされ、体の芯が熱くなるような気持ちよさがあった。
舌先を吸われると体が痺れたようになり、力が抜けそうになる。
「は、ぁ……ふ」
思考が停滞し、何も考えられなくなる。舌も動かせなくなったルシアナを誘うように、レオンハルトは舌の裏を舐めた。
「っぁ……」
ぞくりとしたものが背骨を伝って腰のほうまで降りていき、思わずレオンハルトにしがみつく。
反動で口が離れ、開いた口の隙間からぽたりと落ちた唾液が、レオンハルトの口の横につく。ぼうっとする頭で、ルシアナはそれを無意識のうちに舐め取っていた。そのまま、ちゅ、と口付ければ、レオンハルトがわずかに身を固くする。
ルシアナはそれに小首を傾げたものの追及することはなく、かつてレオンハルトがしたように、すぐ横にある彼の下唇を食み、軽く吸った。
「レオンハルト様、もっと……」
はしたないとは思う。恥ずかしさもある。しかしそれ以上に、愛し合っているという喜びや、離れていた間の寂しさが勝り、抱き締めるよりもっと深く、レオンハルトの存在を感じたかった。
もう一度特別なキスがしたくて、舌先でレオンハルトの唇を舐め、ちゅう、ちゅう、と吸い付く。
「……ルシアナ」
絞り出すような声とともに、痛いくらいに抱き締められ、ルシアナは顔を離してレオンハルトの相貌を見下ろした。彼の眉間には、昼間会ったときのような深い皺が刻まれていた。
「一度……背中の手を離す。だからしっかり首に掴まっていてくれ」
そうしたらキスをしてくれるのか聞こうとして、やめる。
ルシアナは大人しく首に抱き着くと、髪の隙間から覗く耳を見て、愛おしそうな笑みを浮かべる。
(ふふ、赤い)
レオンハルトが眉間に皺を寄せながらルシアナを見るときは、大抵耳が赤い。おそらくそれは照れが原因だろう、とルシアナは考えていた。
(可愛い……そう思うのと同時に、好きだという気持ちも溢れてくる……。レオンハルト様を可愛らしいと思うのは、彼を好いているからなのね)
気付くとどんどん愛おしいという感情が湧いてきて、その横顔に頬ずりする。
「……目を瞑って」
何かを堪えるように呟かれた言葉に、言われた通り目を瞑る。
パキンという音と一瞬の浮遊感ののち、匂いの違う場所に来たことに気付き、目を開ける。
そこは狩猟大会の会場の中心部で、幕舎が立ち並ぶ場所の入り口だった。
戻って来たのか、と思っていると、レオンハルトはルシアナを抱えたまま歩き始める。夜ということもあり、大体の人は幕舎内にいるようだったが、見張りや警備の騎士たちはそこかしこにおり、ルシアナを抱えたレオンハルトを見ては目を見張った。
(そういえばわたくしも、挙式のあと、パレードに向かう途中で抱き上げられたときは、とても驚いたわ)
これまで接してきたレオンハルトからは想像もできなかった行動だったため、とても動揺したのを覚えている。
(あのときは理由がわからなくて、移動が大変そうだと思ったから、とか、進行を気にして、とか、そのようなことを考えたわね)
あの時点ではまだ自分がレオンハルトを意識していることにも気付いておらず、レオンハルトが自分に対し義務以上の何かを持っている可能性も考えていなかった。しかし、今考えてみれば、移動とか進行とか、本当にそんなことのためにあのような行動をしたのだろうか、と思えてくる。
(自惚れかしら。レオンハルト様と想い合える関係になって、いいように解釈しているのかも)
目の前で揺れるシルバーグレイの髪を見ながらそんなことを考えていると、だんだんと視界の端に見覚えのある景色が増えてくる。顔を進行方向に向ければ、白い騎士服を着た二人が警備する幕舎が目に入った。
白い騎士服を着た二人は、ルシアナたちの姿を確認すると、胸に手を当て敬礼した。
「お疲れ様、ソラナ、カリサ」
「はっ」
短く答えた二人にルシアナは笑みを向け、レオンハルトは二人の間を通って幕舎内へと入った。
なんとなく、幕舎の前でお別れではないだろう、と思っていたが、実際そうなったことにドキリと胸が鳴った。
レオンハルトは入り口横の魔法石を撫でると、幕舎内を見渡した。
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