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第1章 魔犬
7.痛み
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イタタタタ…
ユウトは腰の痛みに耐えながら起き上がった
リオルドに襲われてから今日で4日が経っていた
気を失ったあと、目を開けると部屋はもう薄明るかった
気を失っていたのが数十分だったのか、数時間だったのかはユウトにはわからない
メイがパタパタとお湯やタオルを沢山持ってきて身体を拭いてくれたのを覚えている
いつものメイド服ではなく、寝巻きにガウンを羽織っていたから突然呼び出されたのだろう
翌日の朝は起き上がることすら出来なかった
メイが食堂からおかゆを貰ってきてくれて、ベッドの上でゆっくり食べた
風呂にも入ることも出来ず、メイが蒸しタオルで拭いてくれたのだが、上着を脱ぐと身体中に押さえつけられて出来た打撲の跡や、吸い付かれたことによる内出血の痣が沢山あって痛々しかった
「ユウトさま…」僕の体をみたメイが泣いてしまい、今まで放心状態で固まったままだった僕の心も崩壊し、二人で一緒に号泣した
トイレだけはメイに介助して貰い何とか歩いた
やっとの思いで立ち上がると、下半身の感覚なんて殆どないのに、尻から出た液体がドロリと太ももを伝わるのを感じてトイレの中で一人悔し泣きした
三日も経つと何とか歩いたり自分のことはこなせるほどには元気になった
体が元気になると気持ちも上向いてくる
ただ、夜が怖くて仕方がない
メイからは「リオルド様はもう勝手にこちらの部屋には入りませんので安心してください」と言われたが、夕方になり隣の部屋でガタッと音がするともう駄目だ
体が恐怖で固まってしまう
布団を頭からずっぽり被り体を丸めて夜が明けるのをひたすら待つ
朝になり、リオルドが部屋を出ていく音が確認できるとウトウトと少し眠る
ここ数日はそんな風に過ごしていた
ーーーでも、いつまでもこうはしていられない
ユウトは立ち上がると窓の外に目をやった
庭園で庭師が花の手入れをしている
ユウトが窓に手をあてると、窓の外側にシュルルルと蔦が伸びてきて窓を全て覆い目の前が緑一色になった
「魔法か」ユウトが窓から手を離すと蔦はシュルルルと窓から離れ、また花壇作りに勤しむ庭師の姿を確認できた
リオルドは何故あんなことをしたのだろう…
パーティーの時、キースに僕がクリスの身代わり品だと皆の前でバラされて恥をかいたからだろうか
それとも、直接クリスに出来ないから代替品として抱いたのだろうか
正直、リオルドに抱かれることは無いと思っていた
リオルドはクリスを愛している
クリスと似ても似つかない僕にそんな気は起こさないだろう
こうも思っていた
もし抱かれるとしてもそれは子作りの時だけだろう
王家の責務を果たすためだけの行為になるはずだ
しかし、ユウトは信じてもいたのだ
二人の間に愛は無くとも最低限の思いやりは見せてくれるだろうと。
あんな風に前戯も無く、ただ突っ込まれて性の道具のように扱われるなんて思いもしなかったのだ
ーーー考えていても仕方がない。僕はここにいるしかないのだから。クリスも心配しているだろう、でもこんなに痕だらけの体では会うことも叶わない
メイがユウトの夕飯を載せたワゴンを押して扉を開けると
中には疲れた顔をしたリオルドが立っていた
「リオルド様…いらっしゃったんですか?」
リオルドは横目でメイを確認するとユウトのいる白いドアに向かって手をかざした
ドアは白く光り、術式が浮かびあがりすぐに消えた
「防音魔法ですか。相変わらず見事ですね」
「聞かれたくはないからな」
「この広いカナーディルでも、リオルド様だけですよ。魔法を復唱しなくても発動出来るのは」
「あぁ…そんなことより、アレの体調はどうだ?」
「アレ…とはなんです?」
リオルドは少しイライラして右手で髪を掻きあげた
「わかるだろう、ユウトだ」
「あぁ、ユウト様。元気は無いですね」
「そうか」
リオルドの瞳が曇るのを確認したメイはユウトの代わりに少しだけ意地悪がしたくなった
「一日目は立ち上がれず。お粥を食べてさめざめ泣いていらっしゃいました」
「そうか」
「最近は起き上がれるようになりましたが、夜眠れていないようです。目の下の隈も酷いですし、お食事もあまり召し上がりません」
「あぁ」
「その内倒れてしまうのではないかと心配しております」
リオルドは黙っていた
ちょっと苛めすぎたかしら…でも大体は本当の事だし...
メイはリオルドにユウトをもっと大事に扱って欲しいと思っていた
「明後日、教会で【夜露の儀】を執り行う」
「もうですか?」
「儀式が終わり次第別邸に移る」
「予定より早いですね、わかりました」
「問題は【夜露の儀】の衣装だ…」
【夜露の儀】は教会にて行われる神聖な儀式である
王子と妃は同じ絹の衣装を纏い儀式にのぞむが、その衣装には袖がなく腕は丸出しとなる
「腕が…出るだろう?腕にも色々した気がするんだ」
メイは二日前にユウトの体を拭いた時のことを思い出した
「お言葉ですが、腕もですが胸元もですね。あの衣装は白い絹を肩からかけて交差させて腰で結ぶので、胸元が広く出ます。今のユウト様は腕どころか、首筋から胸、肩だけでも数十個の内出血の跡が確認できます」
はぁー
リオルドにしては珍しく溜め息をついた
「俺は何をしてるんだ。そのままでは儀式に出れない。回復魔法で消すことは出来るんだが…」
「城の回復系の魔術師に頼みますか?」
メイは答えは分かっているけれど敢えて聞いてみた
「いや、妃のそんな姿を見せるわけには行かない」
「ふふっ。リオルド様が処置なさるのですね」
「本人が嫌じゃなければ…」
「そりゃ嫌でしょう。自分を襲って跡をつけた男が魔法で跡を消してあげましょうか?なんて、私ならぶん殴りますね」
リオルドは絶句した。返す言葉も無い。
「まぁまぁ、ユウト様は私と違ってお優しいですからね。何とかお話してみますよ」
「頼んだ…」
じゃあ!と言うとメイは鼻唄を歌いながらユウトの部屋に入っていった
リオルドはソファーに腰をかけた
さすがにここ最近は疲れた
毎日のようにクリスにユウトに会わせろと責め立てられ、連日続く王と王妃との面会
通常の業務に加えて、西の森に魔物が出て討伐にも行った
早く儀式を終えてユウトを別邸に移動させたい
ユウトが別邸に移れば動きやすい
メイは上手くやってくれるだろうか?
上手くいったその時は、俺も詫びをいれなくてはならないだろう
ユウトは腰の痛みに耐えながら起き上がった
リオルドに襲われてから今日で4日が経っていた
気を失ったあと、目を開けると部屋はもう薄明るかった
気を失っていたのが数十分だったのか、数時間だったのかはユウトにはわからない
メイがパタパタとお湯やタオルを沢山持ってきて身体を拭いてくれたのを覚えている
いつものメイド服ではなく、寝巻きにガウンを羽織っていたから突然呼び出されたのだろう
翌日の朝は起き上がることすら出来なかった
メイが食堂からおかゆを貰ってきてくれて、ベッドの上でゆっくり食べた
風呂にも入ることも出来ず、メイが蒸しタオルで拭いてくれたのだが、上着を脱ぐと身体中に押さえつけられて出来た打撲の跡や、吸い付かれたことによる内出血の痣が沢山あって痛々しかった
「ユウトさま…」僕の体をみたメイが泣いてしまい、今まで放心状態で固まったままだった僕の心も崩壊し、二人で一緒に号泣した
トイレだけはメイに介助して貰い何とか歩いた
やっとの思いで立ち上がると、下半身の感覚なんて殆どないのに、尻から出た液体がドロリと太ももを伝わるのを感じてトイレの中で一人悔し泣きした
三日も経つと何とか歩いたり自分のことはこなせるほどには元気になった
体が元気になると気持ちも上向いてくる
ただ、夜が怖くて仕方がない
メイからは「リオルド様はもう勝手にこちらの部屋には入りませんので安心してください」と言われたが、夕方になり隣の部屋でガタッと音がするともう駄目だ
体が恐怖で固まってしまう
布団を頭からずっぽり被り体を丸めて夜が明けるのをひたすら待つ
朝になり、リオルドが部屋を出ていく音が確認できるとウトウトと少し眠る
ここ数日はそんな風に過ごしていた
ーーーでも、いつまでもこうはしていられない
ユウトは立ち上がると窓の外に目をやった
庭園で庭師が花の手入れをしている
ユウトが窓に手をあてると、窓の外側にシュルルルと蔦が伸びてきて窓を全て覆い目の前が緑一色になった
「魔法か」ユウトが窓から手を離すと蔦はシュルルルと窓から離れ、また花壇作りに勤しむ庭師の姿を確認できた
リオルドは何故あんなことをしたのだろう…
パーティーの時、キースに僕がクリスの身代わり品だと皆の前でバラされて恥をかいたからだろうか
それとも、直接クリスに出来ないから代替品として抱いたのだろうか
正直、リオルドに抱かれることは無いと思っていた
リオルドはクリスを愛している
クリスと似ても似つかない僕にそんな気は起こさないだろう
こうも思っていた
もし抱かれるとしてもそれは子作りの時だけだろう
王家の責務を果たすためだけの行為になるはずだ
しかし、ユウトは信じてもいたのだ
二人の間に愛は無くとも最低限の思いやりは見せてくれるだろうと。
あんな風に前戯も無く、ただ突っ込まれて性の道具のように扱われるなんて思いもしなかったのだ
ーーー考えていても仕方がない。僕はここにいるしかないのだから。クリスも心配しているだろう、でもこんなに痕だらけの体では会うことも叶わない
メイがユウトの夕飯を載せたワゴンを押して扉を開けると
中には疲れた顔をしたリオルドが立っていた
「リオルド様…いらっしゃったんですか?」
リオルドは横目でメイを確認するとユウトのいる白いドアに向かって手をかざした
ドアは白く光り、術式が浮かびあがりすぐに消えた
「防音魔法ですか。相変わらず見事ですね」
「聞かれたくはないからな」
「この広いカナーディルでも、リオルド様だけですよ。魔法を復唱しなくても発動出来るのは」
「あぁ…そんなことより、アレの体調はどうだ?」
「アレ…とはなんです?」
リオルドは少しイライラして右手で髪を掻きあげた
「わかるだろう、ユウトだ」
「あぁ、ユウト様。元気は無いですね」
「そうか」
リオルドの瞳が曇るのを確認したメイはユウトの代わりに少しだけ意地悪がしたくなった
「一日目は立ち上がれず。お粥を食べてさめざめ泣いていらっしゃいました」
「そうか」
「最近は起き上がれるようになりましたが、夜眠れていないようです。目の下の隈も酷いですし、お食事もあまり召し上がりません」
「あぁ」
「その内倒れてしまうのではないかと心配しております」
リオルドは黙っていた
ちょっと苛めすぎたかしら…でも大体は本当の事だし...
メイはリオルドにユウトをもっと大事に扱って欲しいと思っていた
「明後日、教会で【夜露の儀】を執り行う」
「もうですか?」
「儀式が終わり次第別邸に移る」
「予定より早いですね、わかりました」
「問題は【夜露の儀】の衣装だ…」
【夜露の儀】は教会にて行われる神聖な儀式である
王子と妃は同じ絹の衣装を纏い儀式にのぞむが、その衣装には袖がなく腕は丸出しとなる
「腕が…出るだろう?腕にも色々した気がするんだ」
メイは二日前にユウトの体を拭いた時のことを思い出した
「お言葉ですが、腕もですが胸元もですね。あの衣装は白い絹を肩からかけて交差させて腰で結ぶので、胸元が広く出ます。今のユウト様は腕どころか、首筋から胸、肩だけでも数十個の内出血の跡が確認できます」
はぁー
リオルドにしては珍しく溜め息をついた
「俺は何をしてるんだ。そのままでは儀式に出れない。回復魔法で消すことは出来るんだが…」
「城の回復系の魔術師に頼みますか?」
メイは答えは分かっているけれど敢えて聞いてみた
「いや、妃のそんな姿を見せるわけには行かない」
「ふふっ。リオルド様が処置なさるのですね」
「本人が嫌じゃなければ…」
「そりゃ嫌でしょう。自分を襲って跡をつけた男が魔法で跡を消してあげましょうか?なんて、私ならぶん殴りますね」
リオルドは絶句した。返す言葉も無い。
「まぁまぁ、ユウト様は私と違ってお優しいですからね。何とかお話してみますよ」
「頼んだ…」
じゃあ!と言うとメイは鼻唄を歌いながらユウトの部屋に入っていった
リオルドはソファーに腰をかけた
さすがにここ最近は疲れた
毎日のようにクリスにユウトに会わせろと責め立てられ、連日続く王と王妃との面会
通常の業務に加えて、西の森に魔物が出て討伐にも行った
早く儀式を終えてユウトを別邸に移動させたい
ユウトが別邸に移れば動きやすい
メイは上手くやってくれるだろうか?
上手くいったその時は、俺も詫びをいれなくてはならないだろう
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