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嵯峨野 樹悠

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次の日カフェに行くと、もう一人のアルバイトの人も来ていて。
「いらっしゃいませ」
って言われちゃった・・・まだ私がアルバイトで来てるって知らないから。

「早いね。もう来てくれたんだ」

「ん?あ、もしかして彼女がもう一人のアルバイトちゃん?」

『えっと・・・』
なんか、あの人達に似てるかも(苦笑)

「匠彌。今日から来てくれることになった伊奈波さん」

「はじめまして。匠彌です。よろしくね。」

『よろしくお願いします。』

「何か硬いな~。敬語じゃなくていいから♪」

『年上の人には、敬語じゃないと(苦笑)』

「え~。匠彌泣いちゃう」
と、泣き真似していた(笑)

伊織は、そんな彼を無視して
『あの弥眞斗さん。何すればいいですか?』

「えっ。ちょっと待って。放置しないで~(泣)」

「(笑)主に、接客業だからお客さんが来たら、注文とったりしてね。まずは、匠彌がお手本見せてくれるから、見てればいいよ」

「ぎゃー。じーって見られるの??恥ずかしい~」

『・・・』

「だから、無視しないで~~(泣)」
無視というか、緊張してるだけなんだけど・・・

「(笑)変だけど、いい奴だから。構ってあげて?」

『はい(苦笑)』
少ししてから、匠彌さんは美容師を目指して頑張ってるんだって教えてもらった。
見た目はチャラチャラしてるように見えたのに、そういう話になったら目が真剣だった。

『えっと・・・・ごめんなさい』

【えっ?】
急にそう言ったもんだから、びっくりしていた。

「えっと、最初チャラチャラした人だなって思ってたから。でも、ちゃんとした夢持ってるんだなって思って。」

「(笑)気にしてないよ。それに、ちゃんと分かってくれたんだもん。ありがと。」
そう言って、頭をぽんぽんされた。

『こ、子供じゃないよ』
そういう風にされると思わなかったから、思わず言ってしまった(笑)

「(笑)そういえば、伊奈波さん。下の名前は?」

『ん?』

「下の名前。なんていうの?伊奈波さんじゃ堅苦しいから、下の名前で呼ばせてよ。」

『伊織』
なぜか小さい声だった(苦笑)

「なに?聞こえなかった」

『伊奈波 伊織』
もう一度、言った。

「ありがと。伊織ちゃんね。これからよろしくね」
そう言って、手を差し伸べたられたから伊織も握手をした。


午前中は、人もまばらで匠彌の見様見真似でなんとかこなした。
「俺のお手本が上手いから~~(笑)ちゃんと出来てるじゃん」

『(苦笑)は、話しかけないで』
こぼさないように集中してるのに、匠彌はすぐにちょっかいをかけてくる。
お客さんもそのやりとりを見て、笑っていた。

ランチ後のコーヒーを飲みに来る人も多いようで、お昼は席が埋まっていた・・・とはいっても、席はそんなに多くはないのだけど(苦笑)

「男ばっかりだから、伊織ちゃんみたいな子がいると、毎日来ちゃうね♪」

『(笑)』
伊織は、どう返していいかよく分かんなくて、ただニコニコするしかなかった。

「入ったばかりなんで、お手柔らかにお願いしますね(苦笑)」

「弥眞斗君の目が光ってるからね~何もしないって(笑)」
そう言うと、そこに居たお客がみんな笑った。

「そんなに怖いですか?(笑)」

「いや、人を大事にするっていう意味でね(笑)」
なんとも、緩やかな時間が流れていた。

★★

ようやく、人が居なくなり。
『はあ~』
こんな感じで、人と接することがなかったからやっと緊張が解けた。

「疲れたでしょ?(笑)」

『あ、大丈夫。』

「若い人も多いけど、きっと伊織ちゃんのお父さんぐらいの人もいるから、大変だね。」

『アルバイトするのも初めてで、緊張したし。パパぐらいの人と接するのも初めてだし、どうしていいか分かんなかった(笑)』

「徐々に慣れるよ。焦らずね」

『うん』

「伊織ちゃん。休憩していいよ。この時間はほとんど人来ないから」

『はい』

「どうぞ。」

『わぁ~美味しそう♪』
弥眞斗が作ったものはどれもおいしそうに見えて、食べてみたいと思っていた。

「(笑)口に合うといいけど」

「弥眞斗さん。俺には~?」

「ないね~」

「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」
伊織は、食べようとした瞬間視線を感じた。
匠彌がじーっと見てて、目が合うとキラキラしてた。

『た、食べる?』

「いいの?」

『うん』

伊織が、匠彌にあげようとした時
「あーん」

『えっ?』

「匠彌。目つむってて?さて、何を入れてあげよっか(笑)」

「ご、ごめんなさい。それだけはっ。」

「伊織ちゃんとまどってるから。ほどほどに。」

「(´・ω・`)はーい」
伊織は、差し出したまま固まってた。

「伊織ちゃん。それは、伊織ちゃんの分だから。食べていいよ。」

『あ、うん』
そう言って、安心して(笑)食べ始めた。

それを見て、弥眞斗は匠彌に出した。
「匠彌のはこっちね。」

「ちゃんとあるじゃないですか~ひーどーいー(笑)」

「それ、啓威君の分だから。後で怒られるね(笑)」

「えっ」
一口食べたところで言われた匠彌

「冗談だよ(苦笑)」
弥眞斗さんは、笑ってた。

「今のは笑えねぇ(-_-;)」

「(笑)」

すると、お店の扉が開いてお客が入ってきた。
「噂をすれば(苦笑)いらっしゃい。」

「ども。」

『・・・』
今度も、伊織は固まってた。
そして、匠彌の後ろに隠れてしまった。

★★

「伊織ちゃん?」
無理もなかった。
グラサンして強面だったし、服装もかなり今まで来てた人達と違ってたから。

「(笑)伊織ちゃん?大丈夫だよ。怖いように見えるだけだから」
弥眞斗は、何か感じたのかそう説明した。

「ん?俺?」

「うん(笑)」
すると、グラサンを外した。

「これで大丈夫かな?」
啓威は、弥眞斗君が昨日言ってた娘だと分かった。
初対面が大事なのに、やっぱり恐がらせてしまったようだ。

すると、匠彌の背後から顔を出した。
「啓威君。彼女は伊織ちゃんね。今日から来てもらってる。伊織ちゃん。彼は啓威君っていうんだ。いつも来てくれる常連さんの一人。」

「始めまして。黒薮 啓威です。よろしくね。」

『伊奈波 伊織です。』
そう言って、握手した。
ほんの一瞬だけど、啓威の手がびくっとなった。

「(ん?あれっ?気のせいかな。)怖がらせてごめんね(苦笑)もういると思わなくってさ」
何事もなかったように振舞った。

『もう大丈夫。目を見たら、怖い人じゃないって分かったから。ごめんなさい』
小さい声だったけど、ちゃんとそう伝えた。

「謝らないで(苦笑)俺が悪いから。」

「なんか、啓威さんが素直って意外」

「あ、匠彌君。いたんだ」

「ひどっ。分かってて言うし」

「うるせっ(苦笑)」
二人のやり取りを、見てた伊織がくすくすと笑っていた。

「あっ。笑った」

『ん?』

「ここ来てから、初めて笑ったね。笑った方が可愛いよ。」

「何?匠彌君だけだと笑わなかったの?」

「Σ(゜Д゜)ガーン」

「あはははははっ。面白い。これからいじれるな(笑)楽しみにしよう」
涙が出るぐらい笑っていた。

「ほらほら。二人とも。食べちゃってよ(苦笑)あ、啓威君はこれどうぞ。」
と、二人と同じものを出した。

「ありがとうございます」

折角だからって、3人で食べさせてもらった。
【ごちそうさまでした】

そう言って、伊織と匠彌がお皿を下げて洗ってる間に、弥眞斗と啓威は話し始めた。
「弥眞斗君。なんで彼女を?」

「ん~。何かほっとけなくてね(苦笑)」

「分かるような気がする(笑)」

「まぁ、今日が初日だし。どんな娘かまだ分かんないからね~。いい意味で化けそうな気もするし」

「??」

「もっと、みんなに慣れてきたら楽しくなると思うよ」

「そうですね。」
きっと、啓威には弥眞斗の意図は伝わってないけど。

すると、啓威は自分の手のひらを見た。
「(でも、あの感触は・・・一体)」

「あれ、啓威さんどうしたの?手のひらなんて見ちゃって。さっきの握手が新鮮すぎたとか?」

「・・・」

「えっ?無視?」

「聞こえてないだけじゃないかな(苦笑)」

『??』

「考えすぎかな」

「何が?」

「ん?いや、何でもない。あれ、もう終わったの?皿洗い。」

「今日は、伊織ちゃんがいたので分担しました。だから早かった。ね~」

『うん(笑)』

「あ、そろそろ戻らないと。」

「あっ。明日は俺いない日だ。啓威さん独り占めしちゃ駄目ですよ??」

「お前じゃあるまいし。あまり構いすぎると嫌われっぞ?」

「大丈夫ですよ~。もう、伊織ちゃん、たー君って呼ぶ仲ですもん」

『ん?たー君って?』
一瞬の間があった。

【(爆笑)】

「伊織ちゃんorz。天然すぎる」

「あ~面白っ。久々に笑ったわ。ナイス匠彌っ。」

「啓威さん。嬉しくないっす」
そういって、いじけた。

すると、まだ涙目な啓威だったけど、お会計を済まして帰る準備をした。
『黒薮さん。ありがとうございました。また、お待ちしてますね』

「(苦笑)伊織ちゃん。黒薮さんはやめて?(笑)啓威でいいよ。俺も、もう呼んじゃったけど。伊織ちゃんって呼ぶし。」

『えっと、啓威さん』

「ごちそうさま。また明日ね。伊織ちゃん。あ・・・」

『ん?』
啓威は、伊織に耳打ちした。

『うん。分かった(笑)』

「じゃっ。弥眞斗君ごちそうさま。」
弥眞斗は、手だけあげて挨拶した。

啓威が出ていくと、伊織は匠彌のそばに行き
『たー君?』

「えっ?」

『たー君って呼ぶね』

「(笑)」

「いや、匠彌でいいや。たー君ってキャラじゃないし(笑)」

『分かった。』

「復活したじゃん(苦笑)匠彌」

「あっ」

「啓威君のおかげだね~」

『(笑)』

「やっぱり嬉しくなーい」
そう言った匠彌を見て、二人で微笑みあった。
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