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012話 厄介

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 「だんだんこの街に馴染めている気がするな」

 清々しい天気だからなの、それとも嬉しかったからなのかは分からないが、そんな事をいつの間にか口に出していた。
 この街と言っても、俺がいつも行っているパン屋、ホープ薬屋、古代迷宮だけだが。
 ホープ薬屋では依頼と報酬が釣り合ったもので、俺が作れる薬で急用の依頼を何10件程こなしていた。すると店からの株も上がり、『腕の良い薬師が居る』と誰かが噂を流しているのかは分かってないが、今では依頼が以前の倍ぐらいまでに増えた。
 だが、その人気と知名度が上がる一方でそれを良しとは思わない人たちがいる。
 同じ薬師の人だ。

 まだ同じ新人の者は嫉妬はすると思うが、それを行動まで移すことは無い。だが長年薬師をやってきた者にとっては次から次へと仕事を奪っていく駆け出し薬師が居たら、それはそれは邪魔で仕方ない。行動に移すのも時間の問題。
 あぁ……また面倒なことが始まってしまうのか。
 周りの人から『これまでに人生で1度も見たことの無い程、嫌な顔しているわ!』といつ言われてもおかしくない嫌な顔をして薬屋へ入る。
 相変わらず、冒険者と薬師が多く。それ以外の利用者は少ない。

 それはそうか。別に頻繁に薬は買うものでもないし。

 今いる薬師の顔と薬の品揃えを見ていると、カウンターから俺の名前を呼ぶ声がした。
 その声は聞き覚えのある声。というか、このホープ薬屋で話したことのある人物はたった1人しかない。
 それに応じ、カウンターまで足を運ぶ。

 「おはようございます、セト。今日は少し薬の売却価格のことでお話が」
 「おはようございます! コウさん。何でしょう? 回復薬の売却価格をもう少し上げてほしいのですか? まあコウさんの作る回復薬は質が良いですからね~。あ! 結構評判良いんですよ?」
 「あ、いや違うんです。今回は栄養薬という物を売りたくて」
 「栄養剤ですか……これまた難しい薬を作ったのですね。本当にコウさんは何者なんですか?」

 おや? そんなに栄養剤は作るのに難しい薬だったかな?
 作る手間は掛かったけど、そこまで複雑な作り方じゃないし、あれくらい誰でも作れるでしょ。
 もしかしたら、本来の作り方だと凄く時間や入手困難の素材が必要とか?

 「そんなに、作るのが難しい薬なんですか?」
 「当たり前ですよ! この薬の効果は回復薬の劣化版とも呼ばれる程の効果で、難しいに決まってます!」

 どうやらこの世界の薬の作る難易度では、1番が回復薬、2番は栄養剤らしいと。
 そして、その両方を作ることが出来る新人の駆け出しの俺は何者かと……
 どう言い訳しよう。
 ここは適当に誤魔化しておこう。

 「ま、まぁ私が例外なだけですし。ハハハ……」

 薬を注入して薬に関する大量の知識を得ました! なんて口が裂けてでも言えない!
 そんな事を言ったら、今でも皆に目を付けられているのに、さらに目立ってしまうではないか! それでは安心して迷宮攻略を出来ないじゃないか!
 と心の中で本心を叫び、セトの顔の表情を確かめる。
 表情は不思議に思った顔ではなく、はっと何かを思い出した顔だった。

 「すみません。あまり深追いしないことも契約の一部でしたね。本当に申し訳ございません」
 「いえ、大丈夫ですよ」

 というか、その契約の条件を差し出した張本人が忘れてた……次からは注意しよう。
 心の中で今一度自分が決めた条件を思い出し、刻み込む。

 「それで、栄養剤の売却価格ですね。1つにつき40シルバですね」
 「そうですか、う~ん少しコストとかを考えて売却するか考えますね」
 「いつでも大丈夫ですよ! 栄養薬は回復薬を買えない冒険者とかで売れていますので、いつでも大歓迎ですよ」
 「そうですか。ではまた明日立ち寄りますね」
 「はい! またお待ちしております!」

 と、薬屋を出る時に目に付いた薬草が丁度少なくなっていた物なので、セトにお会計を頼み購入する。
 その後は、迷宮にもぐるつもりなので、リュックに入れて保管しておく。
 
 薬屋から迷宮まで半分の地点まで歩いたところだろうか。
 迷宮にずっと潜っていたからか、周りに関する勘が冴えていえる。そのお陰で、今日は何か周辺がおかしい事に気がついた。
 囲むように5人程俺の周りをずっと付けている。今までの俺だと分からなかったが、いつもこの道を通り、勘がいつもより鋭いからこそ気がついた事。
 これも、街に馴染めている証拠だろう。

 そして、後を付けている人物達をおびき寄せる為に、わざと裏路地に入る。
 路地には貧困者が居るかと思っていたが、今のところ誰一人居ない。元いた世界がよっぽど格差社会が激しかったのか、それともまだそういう人達がいる集落に入ってないのか。
 いや、今はこんな事を考えている暇は無い。背後をチラリと振り返ると、今視界で見えている範囲で付いてきているのは、2人。

 路地の幅は約3~4メートルぐらい。なので、大人が2人並んで歩いても特に歩きずらという問題は無さそう。
 しばらく歩いても、相手側から仕掛けることはない。
 こういうのは駆け引きが大切とは言うけど、ずっとこのまま歩いているのは、気分が悪い。
 ここは、こちら側から仕掛けるか。

 「さっきから付けているみたいですけど、私に何か用ですか?」
 
 ここは笑顔で相手側を油断させておこう。
 表情では良い印象を作っているが、駆け引きの為目の前に居る人も。周りの方にも神経を尖らせる。
 最悪相手側から手を出してきたら、服の内側にある英雄薬を飲んで戦うか、逃げる。
  
 「何を言っているのかさっぱり解りません。たまたま貴方達と道が同じだっただけですよ?」
 「そうですよ、それだけで尾行しているなんて酷いですよ」

 小汚いフードを深く被っていたから、顔は認識出来なかったが、恐らく声と体格から考えるに10代後半から20代前半。
 俺はそんな若い人達とは関わってはないから、知らない誰かが依頼したしたのだろうな。

 「じゃあ、何であの大通りで俺を囲むなどといった行動をしたんだ? まあお前達はバレてないと思っていたんだろうが」

 ここは少し煽り気味に言って、ぼろを言うチャンスを伺う。
 色々な経験上、煽った相手が怒ると大体の確率でぼろが出る。

 「それなら仕方がないですね」

 そう言うと、不気味な笑みを浮かべながら指を鳴らす。
 すると、背後で足音が聴こえ反射神経で振り返る。
 そこには、3人の若者が居た。年齢はあの2人と同じくらい。小汚いフードを深く被っている。

 逃げ道を失ってしまった。
 
 「実はあなたを殺して欲しいという依頼がきてまして。なので、あなたはここで死んでもらいます」

 俺が言葉を言い返す暇も無く、5人はナイフを構えながら突っ込んでくる。
 1人目を何とか受け流し、英雄薬を全部飲む暇が無いと判断し、口の中にビンの4分の1だけ含み飲む。薬を服の内側に直す暇も当然無いので、入ったままのビンを地面に落とす。
 これでまともに対応出来る。
 そう思い、2人目のナイフを手から離させようと行動に出るが妙に体が遅い。
 だが、この状態でも5人を相手にするには十分。

 2人目はナイフを落とし、すぐさま背後に回り首元にチョップ。
 3人目は右手で相手のナイフを持っている手の手首を曲げ。ナイフを落とさせ、そのまま1本背負いに似たのもで地面に叩きつける。
 4人、5人目は、1人を受け流しバランスを崩れ、そのままもう1人にぶつかる。
 
 忘れていた1人目も倒そうと近づくと、『ヒィィ』と悲鳴を上げて逃げてしまう。
 そして、それに付いて行く様に撃退した4人もいつの間にか逃げていた。

 「やっぱり、面倒ごとは嫌いだな」

 迷宮攻略で使うはずだった英雄薬を1つ無駄使いしてしまったし、この件で誰かに狙われている事も解った。
 嫌な事ばかりかと思っていたが、案外そうでもない。
 今回時間が無く少しだけ英雄薬を飲んだのだが、その時全部飲んだときに対してあまり力は湧いていなかった。全部飲んだ時が100とすれば、4分の1を飲んだときは25ぐらいだった。
 てことはだ。英雄薬を飲んでいる量に比例して、力も上がったり、下がったりするということ。
 これは、あくまで仮説だから試す必要があるな。
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