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「第四章:勇者一人前」
「あと1日」
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~~~フルカワ・ヒロ~~~
ロンヴァー砦まであと1日。
アールの指示下、巡回騎士に見つかることもなく順調に行程をこなしていた俺たちだが……。
「……むむっ? あれはっ?」
遮蔽物の無い小高い丘の上、『鷹の目』の魔法で後方の平野の様子を探っていたアールが、驚きの声を上げたのだ。
「ジャカとベックリンガー……生きていたのかっ!?」
「は? え?」
「ちょっと、何言ってるのアール? あれはボクらが倒したじゃん。万が一を考えて、死んだのも確認したでしょ?」
俺とレインが口々に疑問を発するが……。
「いや、間違いない。間違いなくあれは……そうか、『亡霊騎士』か!」
「アンデッドってあれ? 動く死体的な? ゾンビとかグールとかみたいな?」
「そうだ。『死霊術師』の使うとびきりの外法だ。魔族ならともかく、人間の中に使い手がいるとは思わなかったが……」
「まさか……あの噂はホントだったのかな……?」
ふっと、思い出したようにレインがつぶやいた。
「知っておるのか? レイン」
「ボク、聞いたことがあるんだ。ミトが戦場で、死んだはずの兵士を操って自らの身を護らせていたのを誰かが見たって……さすがにただの噂か、七星の活躍を妬んだ風評だと思ってたんだけど……」
「……それが本当ならば、大変なことだぞ」
アールの顔が、サッと青ざめた。
「心臓を潰さねば、真の意味で奴らを倒すことは出来ん。ということはつまりだ。今まで我らが倒したと思っていた者どもがすべて……」
突然、ヒュッと何かが上から落ちてきて、俺の肩に突き立った。
「痛ってえええええええええー!?」
「勇者様!? 矢が! 矢が刺さってるよ!?」
「痛ってえええええええええー!」
レインがすぐに矢を抜いてくれたし、傷自体は高速で再生していくのだが、痛いものは痛い。
涙目になりながらうずくまっていると、アールが声を震わせながら告げてきた。
「……シャルロットの神弓だ」
遥か先、本気で1キロはあるんじゃないかって遠くを、ベックリンガーの戦闘用馬車がこちらに向かって走って来ている。
「高速で走る戦闘用馬車の上からこの距離を飛ばして来た……だけではなく、当ててきおっただと……?」
「シャルロットはハイエルフの精霊使いだ。風の精霊力を纏わせて飛ばして来たんだよ」
断言したレインは、風啼剣を抜くなり『風よ啼け』と力ある言葉を発した。
風の精霊の祝福を与えられた剣はリィィィンと鈴を鳴らすような音をたてて震動し──
「風の護りを与えたよ。普通の矢なら、これで当たらないと思う」
全員の体を護る、青色の薄い光の膜が貼られた。
レインの言葉通りなら、これでしばらくは大丈夫──
「でも、向こうはおそらく風の精霊王の……より上位の風の精霊力を纏わせてる。だから気休め程度だと思ってね」
──じゃなかった。
みんなの顔に、明らかな緊張の色が走る。
「とにかく動こう! ここにいたら狙い撃ちされるだけだよ! さ、勇者様も立って!」
「……お、おう! わかった!」
慌てて馬に飛び乗る俺。
「聞け! 皆の者!」
アールは動揺から立ち直ると、素早く指示を下した。
「見たところ他に馬の姿は無かった! おそらく最も機動力のあるベックリンガーと遠隔攻撃能力のあるシャルロットだけを先行させたのだろう! ならばまだ勝機はあるぞ!」
キッと目に力を込めながら、みんなの顔を見渡すようにして言った。
「この先にあるデンバーの湿地帯を使って足止めを計る! よいか!? 絶対に後れをとるな!」
『おう!』
怯えている暇も、悩んでいる暇もない。
みんなが口を揃えて声を上げた。
ロンヴァー砦まであと1日。
アールの指示下、巡回騎士に見つかることもなく順調に行程をこなしていた俺たちだが……。
「……むむっ? あれはっ?」
遮蔽物の無い小高い丘の上、『鷹の目』の魔法で後方の平野の様子を探っていたアールが、驚きの声を上げたのだ。
「ジャカとベックリンガー……生きていたのかっ!?」
「は? え?」
「ちょっと、何言ってるのアール? あれはボクらが倒したじゃん。万が一を考えて、死んだのも確認したでしょ?」
俺とレインが口々に疑問を発するが……。
「いや、間違いない。間違いなくあれは……そうか、『亡霊騎士』か!」
「アンデッドってあれ? 動く死体的な? ゾンビとかグールとかみたいな?」
「そうだ。『死霊術師』の使うとびきりの外法だ。魔族ならともかく、人間の中に使い手がいるとは思わなかったが……」
「まさか……あの噂はホントだったのかな……?」
ふっと、思い出したようにレインがつぶやいた。
「知っておるのか? レイン」
「ボク、聞いたことがあるんだ。ミトが戦場で、死んだはずの兵士を操って自らの身を護らせていたのを誰かが見たって……さすがにただの噂か、七星の活躍を妬んだ風評だと思ってたんだけど……」
「……それが本当ならば、大変なことだぞ」
アールの顔が、サッと青ざめた。
「心臓を潰さねば、真の意味で奴らを倒すことは出来ん。ということはつまりだ。今まで我らが倒したと思っていた者どもがすべて……」
突然、ヒュッと何かが上から落ちてきて、俺の肩に突き立った。
「痛ってえええええええええー!?」
「勇者様!? 矢が! 矢が刺さってるよ!?」
「痛ってえええええええええー!」
レインがすぐに矢を抜いてくれたし、傷自体は高速で再生していくのだが、痛いものは痛い。
涙目になりながらうずくまっていると、アールが声を震わせながら告げてきた。
「……シャルロットの神弓だ」
遥か先、本気で1キロはあるんじゃないかって遠くを、ベックリンガーの戦闘用馬車がこちらに向かって走って来ている。
「高速で走る戦闘用馬車の上からこの距離を飛ばして来た……だけではなく、当ててきおっただと……?」
「シャルロットはハイエルフの精霊使いだ。風の精霊力を纏わせて飛ばして来たんだよ」
断言したレインは、風啼剣を抜くなり『風よ啼け』と力ある言葉を発した。
風の精霊の祝福を与えられた剣はリィィィンと鈴を鳴らすような音をたてて震動し──
「風の護りを与えたよ。普通の矢なら、これで当たらないと思う」
全員の体を護る、青色の薄い光の膜が貼られた。
レインの言葉通りなら、これでしばらくは大丈夫──
「でも、向こうはおそらく風の精霊王の……より上位の風の精霊力を纏わせてる。だから気休め程度だと思ってね」
──じゃなかった。
みんなの顔に、明らかな緊張の色が走る。
「とにかく動こう! ここにいたら狙い撃ちされるだけだよ! さ、勇者様も立って!」
「……お、おう! わかった!」
慌てて馬に飛び乗る俺。
「聞け! 皆の者!」
アールは動揺から立ち直ると、素早く指示を下した。
「見たところ他に馬の姿は無かった! おそらく最も機動力のあるベックリンガーと遠隔攻撃能力のあるシャルロットだけを先行させたのだろう! ならばまだ勝機はあるぞ!」
キッと目に力を込めながら、みんなの顔を見渡すようにして言った。
「この先にあるデンバーの湿地帯を使って足止めを計る! よいか!? 絶対に後れをとるな!」
『おう!』
怯えている暇も、悩んでいる暇もない。
みんなが口を揃えて声を上げた。
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