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07話 刷り込む
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魔法陣からあふれる光を全身に受けながら、私は足を踏み入れる。
白いつるんとした壁に、すりガラスの……扉だろうか。やたらと湿度と気温が高く、もしかしたら熱帯か亜熱帯の気候なのかもしれない。低い天井を見上げ、壁を伝って視線を下げる。
黒い塊が見えた。いや、塊ではない、頭だ。肌だ。額だ。顔だ。――何ということだ。
異世界にはまだ一歩しか踏み入っていない。片足などまだ元の世界に置かれたままだった。だと言うのに、なんたることか、私は『癒し』を見つけてしまった。
あれだけ『癒し』に頓着せず、諦めかけていたのが随分と昔の事のように感じられる。白い軽量な陶器――浴槽――の淵に頭を預け居眠りをするこの女性こそが、私の『癒し』である事実を、私は瞬時に察知した。
象牙色の肌とのっぺりとした顔つきは、大陸では見かけない。おそらく南の顔立ちに近い。しかし赤い熟した唇は果実のように私を誘い、細い首の下に付いた大きな乳房――透明な湯に浮かんでいる――と柔らかそうな二の腕は、私の理性を奪うために存在しているかのようである。思わず生唾を飲み込んだ。
魔力値の高い魔導士の癒しとなる者は、反比例するように魔力値の低い相手でなければならないが、目の前の女性から魔力の流れは一切感じられない。魔力値だけなら師団長すら凌駕するだろう私の癒しともなれば、多少魔力値が低い程度では、かつての女性たちの二の舞。
この女性は、ゼロだ。「限りなく近い」などという妥協案すら不要なくらい、明白なゼロ。魔力がないのだ。
もちろん、魔力を持たない事が私の癒しの決定打であったわけではない。顔を見た瞬間。存在に気づいた瞬間。なぜだか私は悟ったのだ。ある種の天啓であった。
癒しの存在する異世界へ私は両足をつけ、一歩進み、湿っぽいその場で膝を曲げた。笑い出しそうなのを必死に堪え、震える手を彼女に伸ばす。
つん、と。指先がほんの少し、彼女の肩に触れただけだった。それなのに、たったのそれだけなのに。
指先から、溜まった毒素が彼女の中へ流れ込むのを感じた。震えが止まった。肩が軽い。どれだけの毒素が出て行ったのか知らないが、私の手の震えが止まるくらいである、膨大な量だと推測する。それを身の内に取り込んだこの女性は、魔力値の低い者に褒め言葉としてよく使われる「鈍感」というやつなのだろう、起きるそぶりも身じろぎも一切ないまま湯に揺蕩っていた。
この女性は、私の癒し。私だけの癒し。他の誰にも奪われないはならない、私の半身とも呼べる存在。
癒しなど不要だと言っていた自分の、なんと稚きことか。魔導師は癒しを得てこそ一人前だと言われる理由がようやく分かった。この安堵感と愉楽を知らずして、何が魔導師か。
私は考えを巡らせた。
おそらく、この無防備に全裸で眠る女性を起こし、私の素性その他諸々を告げたとしても、すんなりと受け入れることなど出来ないだろう。私の世界ですら、異世界へ行くことが容易くないのだから、魔法がないと言われているこちらの平行世界では、異世界――私にとっては元いた世界――の存在すら気づいていない筈だ。
この女性を手に入れるには、私がこちらの世界に溶け込み、出会い、親しくなる必要がある。私に気を許したところを見計らい、素性を打ち明け、そして受け入れてもらえてようやく、私は癒しを得ることが出来るだろう。
まずはこちらの世界の成り立ち、構成、社会、慣習等々、溶け込めるよう学ぶ必要がある。けれど――
私は癒しの顔を見た。
焦燥感が胸を焼く。
――もしかしたら私が準備を整えている間に、他の者にかっさらわれるかもしれない。
私の癒し。私の半身。
言葉の一つも交わしていないが、既になくてはならない存在。
誰にも奪われぬように。
誰にも邪魔をされぬように。
私は立ち上がり、湯の中に両手を突っ込んだ。制服はおろかローブまでも濡れてしまうが、すぐに乾かせば良いだけのこと。女性に浮遊魔法をかけ、気づかれぬよう横抱きにすると、私は再び魔法陣をくぐった。
既に時刻は夜十一時。助手や研究員たちの大半が仕事を終え帰宅しているし、ましてやここは私の研究室なのだ、誰にも見られることなどない。
気温の変化に彼女が風邪を引いてはいけないからと、裸体を乾かしたあと炎魔法を応用して体を包み込んで差し上げた。これなら、湯船に浸かっているのと同等の温もりが得られるはずだ。
抱いた腕から体から、私は彼女に癒される。余剰魔力が彼女に溶け込んでいくように、肩の重みがするすると呆気なく霧散していく。ただの表面的な触れ合いでこの有様なのだから、もしもより深く触れ合った場合、一体どれだけ癒されるのか。邪かつ純粋な欲望を、頭を振って必死に退ける。
空間移転魔法で女性を自室に連れ帰り、ゆっくりベッドにその身を下ろした。
「ん、んー……」
寝言であろうか、初めて聞いた彼女の声は、とてもまろやかで耳障りが良く、胸のうちがじんわり温かくなった。もっと聞きたいと思いながらも、急いてはならぬと自分を律する。
出来るだけ揺らさぬよう自らもベッドに上がり込み、女性をまずは俯瞰した。
細い首、大きな乳房、肉付きの良い腰まわり。弾力のありそうな肌も、全身から立ち上る甘い香りも、すべてが私を誘惑してくる。
魔法を行使し自らの服と眼鏡を取り去る。恥ずかしいことに、股間は既に屹立状態だった。これを女性のヴァギナに差し入れ、揺すり、しどけなく乱して溢れる嬌声を堪能したい。――しかし、それで得られるのは仮初めの癒しなのである。体だけではなく心も繋げたいと、これまでさしたる執着も持たなかった私が初めて思ったのだった。
静かに、息を殺して女性に覆いかぶさった。
素肌の触れている所から、体の緊張がほぐれていく。頭の靄が、波が引いていくように、さああと薄まり消えていく。体が軽くなっていく。憑き物が落ちて生への希望が満ち溢れ――これが『癒し』の力なのだと、私は遂に体験する。
魔力値が高くたって、魔法がどれだけ使えたって。癒しがなければ我々は容易く死を迎える。それも、呆気なく、酷く見苦しく。魔力値の低い者は、高い者を汚染から守り、さらに幸福感まで潤沢に与えてくれるのだ。もしもどちらがより優れているか決を取ることになっても、今の私なら間違い無く「魔力値の低い者」へ票を投ずるだろう。それだけ、癒しの力は強く、清浄で、私の心を掴むのだ。
頭の横に手をついて――黒髪を下に敷かぬよう注意しながら――額を合わせ言語統一の魔法を掛けた。次に掛けるのは、精神魔法。少しだけ意識を混濁させ、夢を見ていると錯覚させる。
「…………起きて。起きてください」
「んー……」
またしても漏れたのは甘い声だった。
観察していると、ほどなく彼女の瞼が開いた。黒い髪、黒い眉、黒い睫毛。瞳の色も黒かった。正確に言えば黒に近い焦げ茶色。その瞳が私を映していると思うと、気持ちの高揚がどうしても抑えきれない。先ほどよりも張り詰めた陰茎を、ついついその肌に押し当ててしまう。
「……ん?」
「初めまして、私はリュカ。貴女は?」
下半身に違和感を感じたのか、一瞬だけ眉をひそめられたのを見て、そこから気を逸らそうと私は名を尋ねてみた。
「八千代」
ヤチヨ。やちよ。八千代。聞きなれない響き。けれどもう覚えた。決して忘れないだろう。
「もう朝なの?」
「いいえ。まだ夜。そして貴女は夢の中」
本当はこれも現実ですが。
心の中で呟きながら、決して女性――八千代――には教えない。これは夢なのであって、準備を整え出会った時に私の事がどこかひっかかるように、潜在意識に残すための触れ合いなのだから。
もちろん、夢だからと言って何かの行為を強いるつもりは一切ない。こうしてただ、肌と肌を擦り合わせているだけでよいのだ。……今は。
八千代がゆるく微笑んだ。「なぁんだ」と言い欠伸をした。そして。
「……や、八千代?」
その腕を、私の首に回したのである。
肌に触れる面積が増し、毒素が一気に抜けていく。
「リュカ」
私の名を呼ぶ。顔がすぐそこにある。
「リュカ。かわいい名前」
八千代が。八千代が私の名を可愛いと。
一瞬で?茲が燃え上がった。
私を棄てた両親に与えられた名には、単なる「名」である以上の意味を見出したことはなかった。けれど、この時ばかりは感謝せずには居られなかった。下半身に熱が集まる。ごくりと唾を飲み込むように、無意識に陰茎がぴくりと動いた。八千代の脚にも伝わったのだろう、彼女の脚もぴくりと動く。
「リュカ……ちゅーしようか」
「…………い、今何と? 八千代?」
「ちゅーしたい。夢だもん。ちゅー。……ね?」
「や、やち――
首に回された腕に力が入る。あっという間に距離は詰まり、唇と唇が重なった。柔らかい。柔らかく、なんと甘美であることか。
本来ならば、ここまでの触れ合いを初日に行う予定などなかった。この女性が私から流れ込む毒素の影響で病むことのないよう、様子を見ながら触れ合いを深めていくべきであった。簡単な自己紹介と、?茲にキスが出来ればそれで十分のはずだった。……のに。
一度その味を知ってしまえば、もう後戻りなど出来なかった。貪るように舌を伸ばせば、彼女の舌が絡まってくる。陰茎からは先走りが溢れ、衝動のまま八千代の大腿に擦り付けた。
「ん、はぁ、……ふ、……リュカぁ……」
どうしたら良いのだろう。漏れる吐息も、甘ったるい声も、そして感じる体温も。頭は沸騰しているというのに、靄が晴れ、鮮明になっていくようだ。十分な休息を取ったあとのような、爽快感。いや、きっと八千代がいなければ体験できなかっただろう。
世に豊胸の手段は数多くあって、肉を切り開き中に異物を詰め込んだり、一日から数時間限りでよければ、魔法によって膨らみを持たせる事も出来る。しかし人工的な豊胸ではやはり不自然なところが残ってしまう。寝そべった時の盛り上がりの不自然さがその際たるものである。
八千代の乳房は小さな体に似合わず大きい。まるで豊胸しているようだ。しかし、私のベッドに横になる様を観察するに、とても自然に垂れて――語弊があるが――いる。手を広げると丁度収まるくらいのサイズで、五本の指で鷲掴むと簡単にその形状を変えた。肉に指が埋まり、吐息交じりの甘い声が上がる。乳房に付いた乳輪は、やや大きいが淡い桃色。口づけだけで先端が立ち上がるとは、なんとも素晴らしいと?茲がどうしても緩んでしまった。
白いつるんとした壁に、すりガラスの……扉だろうか。やたらと湿度と気温が高く、もしかしたら熱帯か亜熱帯の気候なのかもしれない。低い天井を見上げ、壁を伝って視線を下げる。
黒い塊が見えた。いや、塊ではない、頭だ。肌だ。額だ。顔だ。――何ということだ。
異世界にはまだ一歩しか踏み入っていない。片足などまだ元の世界に置かれたままだった。だと言うのに、なんたることか、私は『癒し』を見つけてしまった。
あれだけ『癒し』に頓着せず、諦めかけていたのが随分と昔の事のように感じられる。白い軽量な陶器――浴槽――の淵に頭を預け居眠りをするこの女性こそが、私の『癒し』である事実を、私は瞬時に察知した。
象牙色の肌とのっぺりとした顔つきは、大陸では見かけない。おそらく南の顔立ちに近い。しかし赤い熟した唇は果実のように私を誘い、細い首の下に付いた大きな乳房――透明な湯に浮かんでいる――と柔らかそうな二の腕は、私の理性を奪うために存在しているかのようである。思わず生唾を飲み込んだ。
魔力値の高い魔導士の癒しとなる者は、反比例するように魔力値の低い相手でなければならないが、目の前の女性から魔力の流れは一切感じられない。魔力値だけなら師団長すら凌駕するだろう私の癒しともなれば、多少魔力値が低い程度では、かつての女性たちの二の舞。
この女性は、ゼロだ。「限りなく近い」などという妥協案すら不要なくらい、明白なゼロ。魔力がないのだ。
もちろん、魔力を持たない事が私の癒しの決定打であったわけではない。顔を見た瞬間。存在に気づいた瞬間。なぜだか私は悟ったのだ。ある種の天啓であった。
癒しの存在する異世界へ私は両足をつけ、一歩進み、湿っぽいその場で膝を曲げた。笑い出しそうなのを必死に堪え、震える手を彼女に伸ばす。
つん、と。指先がほんの少し、彼女の肩に触れただけだった。それなのに、たったのそれだけなのに。
指先から、溜まった毒素が彼女の中へ流れ込むのを感じた。震えが止まった。肩が軽い。どれだけの毒素が出て行ったのか知らないが、私の手の震えが止まるくらいである、膨大な量だと推測する。それを身の内に取り込んだこの女性は、魔力値の低い者に褒め言葉としてよく使われる「鈍感」というやつなのだろう、起きるそぶりも身じろぎも一切ないまま湯に揺蕩っていた。
この女性は、私の癒し。私だけの癒し。他の誰にも奪われないはならない、私の半身とも呼べる存在。
癒しなど不要だと言っていた自分の、なんと稚きことか。魔導師は癒しを得てこそ一人前だと言われる理由がようやく分かった。この安堵感と愉楽を知らずして、何が魔導師か。
私は考えを巡らせた。
おそらく、この無防備に全裸で眠る女性を起こし、私の素性その他諸々を告げたとしても、すんなりと受け入れることなど出来ないだろう。私の世界ですら、異世界へ行くことが容易くないのだから、魔法がないと言われているこちらの平行世界では、異世界――私にとっては元いた世界――の存在すら気づいていない筈だ。
この女性を手に入れるには、私がこちらの世界に溶け込み、出会い、親しくなる必要がある。私に気を許したところを見計らい、素性を打ち明け、そして受け入れてもらえてようやく、私は癒しを得ることが出来るだろう。
まずはこちらの世界の成り立ち、構成、社会、慣習等々、溶け込めるよう学ぶ必要がある。けれど――
私は癒しの顔を見た。
焦燥感が胸を焼く。
――もしかしたら私が準備を整えている間に、他の者にかっさらわれるかもしれない。
私の癒し。私の半身。
言葉の一つも交わしていないが、既になくてはならない存在。
誰にも奪われぬように。
誰にも邪魔をされぬように。
私は立ち上がり、湯の中に両手を突っ込んだ。制服はおろかローブまでも濡れてしまうが、すぐに乾かせば良いだけのこと。女性に浮遊魔法をかけ、気づかれぬよう横抱きにすると、私は再び魔法陣をくぐった。
既に時刻は夜十一時。助手や研究員たちの大半が仕事を終え帰宅しているし、ましてやここは私の研究室なのだ、誰にも見られることなどない。
気温の変化に彼女が風邪を引いてはいけないからと、裸体を乾かしたあと炎魔法を応用して体を包み込んで差し上げた。これなら、湯船に浸かっているのと同等の温もりが得られるはずだ。
抱いた腕から体から、私は彼女に癒される。余剰魔力が彼女に溶け込んでいくように、肩の重みがするすると呆気なく霧散していく。ただの表面的な触れ合いでこの有様なのだから、もしもより深く触れ合った場合、一体どれだけ癒されるのか。邪かつ純粋な欲望を、頭を振って必死に退ける。
空間移転魔法で女性を自室に連れ帰り、ゆっくりベッドにその身を下ろした。
「ん、んー……」
寝言であろうか、初めて聞いた彼女の声は、とてもまろやかで耳障りが良く、胸のうちがじんわり温かくなった。もっと聞きたいと思いながらも、急いてはならぬと自分を律する。
出来るだけ揺らさぬよう自らもベッドに上がり込み、女性をまずは俯瞰した。
細い首、大きな乳房、肉付きの良い腰まわり。弾力のありそうな肌も、全身から立ち上る甘い香りも、すべてが私を誘惑してくる。
魔法を行使し自らの服と眼鏡を取り去る。恥ずかしいことに、股間は既に屹立状態だった。これを女性のヴァギナに差し入れ、揺すり、しどけなく乱して溢れる嬌声を堪能したい。――しかし、それで得られるのは仮初めの癒しなのである。体だけではなく心も繋げたいと、これまでさしたる執着も持たなかった私が初めて思ったのだった。
静かに、息を殺して女性に覆いかぶさった。
素肌の触れている所から、体の緊張がほぐれていく。頭の靄が、波が引いていくように、さああと薄まり消えていく。体が軽くなっていく。憑き物が落ちて生への希望が満ち溢れ――これが『癒し』の力なのだと、私は遂に体験する。
魔力値が高くたって、魔法がどれだけ使えたって。癒しがなければ我々は容易く死を迎える。それも、呆気なく、酷く見苦しく。魔力値の低い者は、高い者を汚染から守り、さらに幸福感まで潤沢に与えてくれるのだ。もしもどちらがより優れているか決を取ることになっても、今の私なら間違い無く「魔力値の低い者」へ票を投ずるだろう。それだけ、癒しの力は強く、清浄で、私の心を掴むのだ。
頭の横に手をついて――黒髪を下に敷かぬよう注意しながら――額を合わせ言語統一の魔法を掛けた。次に掛けるのは、精神魔法。少しだけ意識を混濁させ、夢を見ていると錯覚させる。
「…………起きて。起きてください」
「んー……」
またしても漏れたのは甘い声だった。
観察していると、ほどなく彼女の瞼が開いた。黒い髪、黒い眉、黒い睫毛。瞳の色も黒かった。正確に言えば黒に近い焦げ茶色。その瞳が私を映していると思うと、気持ちの高揚がどうしても抑えきれない。先ほどよりも張り詰めた陰茎を、ついついその肌に押し当ててしまう。
「……ん?」
「初めまして、私はリュカ。貴女は?」
下半身に違和感を感じたのか、一瞬だけ眉をひそめられたのを見て、そこから気を逸らそうと私は名を尋ねてみた。
「八千代」
ヤチヨ。やちよ。八千代。聞きなれない響き。けれどもう覚えた。決して忘れないだろう。
「もう朝なの?」
「いいえ。まだ夜。そして貴女は夢の中」
本当はこれも現実ですが。
心の中で呟きながら、決して女性――八千代――には教えない。これは夢なのであって、準備を整え出会った時に私の事がどこかひっかかるように、潜在意識に残すための触れ合いなのだから。
もちろん、夢だからと言って何かの行為を強いるつもりは一切ない。こうしてただ、肌と肌を擦り合わせているだけでよいのだ。……今は。
八千代がゆるく微笑んだ。「なぁんだ」と言い欠伸をした。そして。
「……や、八千代?」
その腕を、私の首に回したのである。
肌に触れる面積が増し、毒素が一気に抜けていく。
「リュカ」
私の名を呼ぶ。顔がすぐそこにある。
「リュカ。かわいい名前」
八千代が。八千代が私の名を可愛いと。
一瞬で?茲が燃え上がった。
私を棄てた両親に与えられた名には、単なる「名」である以上の意味を見出したことはなかった。けれど、この時ばかりは感謝せずには居られなかった。下半身に熱が集まる。ごくりと唾を飲み込むように、無意識に陰茎がぴくりと動いた。八千代の脚にも伝わったのだろう、彼女の脚もぴくりと動く。
「リュカ……ちゅーしようか」
「…………い、今何と? 八千代?」
「ちゅーしたい。夢だもん。ちゅー。……ね?」
「や、やち――
首に回された腕に力が入る。あっという間に距離は詰まり、唇と唇が重なった。柔らかい。柔らかく、なんと甘美であることか。
本来ならば、ここまでの触れ合いを初日に行う予定などなかった。この女性が私から流れ込む毒素の影響で病むことのないよう、様子を見ながら触れ合いを深めていくべきであった。簡単な自己紹介と、?茲にキスが出来ればそれで十分のはずだった。……のに。
一度その味を知ってしまえば、もう後戻りなど出来なかった。貪るように舌を伸ばせば、彼女の舌が絡まってくる。陰茎からは先走りが溢れ、衝動のまま八千代の大腿に擦り付けた。
「ん、はぁ、……ふ、……リュカぁ……」
どうしたら良いのだろう。漏れる吐息も、甘ったるい声も、そして感じる体温も。頭は沸騰しているというのに、靄が晴れ、鮮明になっていくようだ。十分な休息を取ったあとのような、爽快感。いや、きっと八千代がいなければ体験できなかっただろう。
世に豊胸の手段は数多くあって、肉を切り開き中に異物を詰め込んだり、一日から数時間限りでよければ、魔法によって膨らみを持たせる事も出来る。しかし人工的な豊胸ではやはり不自然なところが残ってしまう。寝そべった時の盛り上がりの不自然さがその際たるものである。
八千代の乳房は小さな体に似合わず大きい。まるで豊胸しているようだ。しかし、私のベッドに横になる様を観察するに、とても自然に垂れて――語弊があるが――いる。手を広げると丁度収まるくらいのサイズで、五本の指で鷲掴むと簡単にその形状を変えた。肉に指が埋まり、吐息交じりの甘い声が上がる。乳房に付いた乳輪は、やや大きいが淡い桃色。口づけだけで先端が立ち上がるとは、なんとも素晴らしいと?茲がどうしても緩んでしまった。
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