53 / 63
アーミーナイト 体力テスト 後編
第52話 山中を爆走する
しおりを挟む
「男子生徒側でなくて、女子生徒の方に侵入者がいることはほぼほぼ間違いないだろう。そのことでシルが自分を責めるのも長い付き合いだからな。何となく分かる。でも、考えてみてくれ!
なぜ、侵入者は僕たちにオークをぶつけて足止めを図って、女子生徒の方から手をかけようとしたのかを。単なる偶然だろうか。いや、そうとは思わない。だって、シル。シルは——唯一侵入者の存在に気づいた新入生なんだから」
シルはその刹那悟った。マシュが間を十分にとってまでゆっくりと話してシルに伝えこと。それは、単なる慰めだけではない。ここから早く動き出せという、発破をかける意味もあったのだと。
「デンジュさん。女子たちはどこでテストを行っているんですか!?」
唐突の真剣さに意図せずデンジュは後ずさりしてしまう。シルの目に宿る英気は既に最初の頃のように回復していた。
「こ、この反対側の麓にある同じ様なグラウンドで実施しているはずだよ。僕たちは徒歩だったけど、女子生徒はそこまでバスで向かってるはずだ。そういう手順になっていた。で、でもここから向かうとなると30分は優にかかるよ?」
デンジュの忠告も既にシルの耳には届かない。行かないという選択肢はシルには持ち合わせていなかった。マシュは不敵の笑みを浮かべて、シルの経緯を見守っている。誰一人この場において、シルをこのグラウンドに滞在させられるものは存在していなかった。
「山を横断すればその半分の時間でつきますよ」
言うが否や、シルは先ほどとは比べ物にもならない加速度で二人の前から姿を消し、駆け出していった。取り残された二人は、シルが巻き上げた砂塵が落ち着くまでひたすら耐えると言う動作を行うしかなく、収まった時には当然の様に、シルの姿は影すら見えなくなっていた。驚きのあまり口をぱくぱくとだけさせているデンジュを他所目にマシュはやれやれと言ったように首を横に振った。手間のかかる友達だ、という言葉も呟きながら。
走りながらシルは先ほどまで青かった上空を見上げる。こちら側で瘴気を発生させていた原因は先ほどのオーク。それでいて、シルがそいつの息の根を止めたので、こちら側は明るいが反対側は先ほどよりも濃い紫色の雲で覆われていた。それはつまり、向こう側に瘴気を発生させる闇の一族が存在していることの証明。
「何で気づかなかったんだよ!!」
山に乱雑に生育している葉や、木の枝がシルの肌を度々浅く傷つけるがそんなことには構いもしないで、直進を続けた。すでに彼女と別れてからかなりの時間が経過しているため、命の保証は誰にも出来ない。しかし、シルとマシュの反抗のようにイレギュラーな事態が発生するかもしれない。シルは、そんな淡い一縷の望みにかけながら山中の爆走を継続させるのであった。
なぜ、侵入者は僕たちにオークをぶつけて足止めを図って、女子生徒の方から手をかけようとしたのかを。単なる偶然だろうか。いや、そうとは思わない。だって、シル。シルは——唯一侵入者の存在に気づいた新入生なんだから」
シルはその刹那悟った。マシュが間を十分にとってまでゆっくりと話してシルに伝えこと。それは、単なる慰めだけではない。ここから早く動き出せという、発破をかける意味もあったのだと。
「デンジュさん。女子たちはどこでテストを行っているんですか!?」
唐突の真剣さに意図せずデンジュは後ずさりしてしまう。シルの目に宿る英気は既に最初の頃のように回復していた。
「こ、この反対側の麓にある同じ様なグラウンドで実施しているはずだよ。僕たちは徒歩だったけど、女子生徒はそこまでバスで向かってるはずだ。そういう手順になっていた。で、でもここから向かうとなると30分は優にかかるよ?」
デンジュの忠告も既にシルの耳には届かない。行かないという選択肢はシルには持ち合わせていなかった。マシュは不敵の笑みを浮かべて、シルの経緯を見守っている。誰一人この場において、シルをこのグラウンドに滞在させられるものは存在していなかった。
「山を横断すればその半分の時間でつきますよ」
言うが否や、シルは先ほどとは比べ物にもならない加速度で二人の前から姿を消し、駆け出していった。取り残された二人は、シルが巻き上げた砂塵が落ち着くまでひたすら耐えると言う動作を行うしかなく、収まった時には当然の様に、シルの姿は影すら見えなくなっていた。驚きのあまり口をぱくぱくとだけさせているデンジュを他所目にマシュはやれやれと言ったように首を横に振った。手間のかかる友達だ、という言葉も呟きながら。
走りながらシルは先ほどまで青かった上空を見上げる。こちら側で瘴気を発生させていた原因は先ほどのオーク。それでいて、シルがそいつの息の根を止めたので、こちら側は明るいが反対側は先ほどよりも濃い紫色の雲で覆われていた。それはつまり、向こう側に瘴気を発生させる闇の一族が存在していることの証明。
「何で気づかなかったんだよ!!」
山に乱雑に生育している葉や、木の枝がシルの肌を度々浅く傷つけるがそんなことには構いもしないで、直進を続けた。すでに彼女と別れてからかなりの時間が経過しているため、命の保証は誰にも出来ない。しかし、シルとマシュの反抗のようにイレギュラーな事態が発生するかもしれない。シルは、そんな淡い一縷の望みにかけながら山中の爆走を継続させるのであった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる