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アーミーナイト 初日
第18話 高ぶる心拍数
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満足そうな顔を浮かべると、カヤは用事が終わったと言わんばかりに足早に部屋から出ていく。先程までの後ろからの力に抵抗していたのが嘘のように、何かに納得すると自らドアに向かって歩き出す。最後に、二人仲良くね、という鳥肌が一気に立つような言葉を残して。パタンと扉が閉まる音が部屋に響くと、二人同時に疲れたと言うが如く大きなため息をつくのであった。
再び二人きりになる部屋。静寂に溢れかえりゆっくりと時が進んでいるように錯覚してしまう。先ほどの様に罵声や、悲鳴が飛んでくることは今はない。少しは怒りも冷めてきたっていう感じかなとシルはどこか願う様な心持ちで、彼女の方をじっと見つめる。彼女も視線に気づいたのだろう、一度視線が絡み合いはしたがすぐに逸らされてしまう。
「知らなかったとはいえ、悪かったと思っているわ」
彼女がシルのところまで歩み寄ると、しゃがみながらきつく縛ったロープをテーブルから解く。
「いや、こっちこそごめん。今覚えばノックするの忘れてた気がする。こっちにも落ち度があった」
ロープから解放されて、シルはゆっくりと立ち上がりながら縛られていたところを両手で交互に摩る。強く縛られた、といってもか弱い女の子が結んだものだ。これからの訓練に影響が出るほどではないだろう。幸い、怪我のレベルまで至ってはいない。
思い立ったように、シルはいざこざの間置き去りになっていた自分のカバンを取りに玄関の方へ行こうとそちらに体を向ける。確か、そこに大事な剣も立てかけたままだったと認識している。突然、シルの手首は自分の体温とは異なる温かなものに包まれる。柔らかく、かつ撫でるように包むそれはシルに安心感を与えてくる。ゆっくりと目線を下に向けると、縛られて少し赤くなったところを、目の前に立っていた可憐な少女が両手でぎゅっと包み込んでいた。
「大丈夫?赤くなってるけど痛くない?」
初対面の時とは違う声色と上目遣いに思わず心臓が跳ね上がってしまう。同時に、粟色の髪の毛が窓から入ってくる風に煽られシルの皮膚を僅かに撫でる。それを踏まえて、更に心拍数が上がるのを自覚でき、自然に顔も赤みを帯びる。お風呂上がりの為か、ふわっと香るシャンプーの匂いの追撃の前に理性を保つほうが困難だ。
「い、いや、大丈夫だよ。痛みはそんなに酷くない」
「なんで手だけじゃなくて、顔まで赤くしているのよ。気持ち悪い」
先ほどの声とは全く異なる声色でシルはぼそっと暴言を吐かれる。その態度はあの罵声を浴びせてきた時と同じその感じだ。先程まで昂りを覚えていた心拍数は一気に平常値に戻る。いや、平常値を大きく下回ったかもしれない。それほど、瞬間的に冷静と言われるほどのそれに戻っていた。
「あのね、私はまだ許したわけじゃないから。あなたの様な頼りなさそうな人に私の裸を見られたことは屈辱以外の何者でもないし。部屋にいることは許可してあげるけど、極力私とは関わらない生活を送って。これ、頼みじゃなくて命令だから」
一息に捲くしたてあげてサッと握っていた手を話すとベッドの方へと歩み寄っていく。シルに言葉を挟ませる余地すら持たせない。
「お、おい。ちょっとまっ」
「あと、あまり私に話しかけないでもらえるかしら。気分悪いから」
そう言うとすぐに部屋の電気を落とし、彼女は二段ベッドの上の段に素早く登ると布団を被りスヤスヤと寝息をたて始める。
一人、月明かりにのみ照らされた部屋に放置されたシルは静かにため息をつく。
「これはこれで大変だな」
彼女に聞こえるとまた面倒なので、聞こえない様になるべく低い声で呟いた。
再び二人きりになる部屋。静寂に溢れかえりゆっくりと時が進んでいるように錯覚してしまう。先ほどの様に罵声や、悲鳴が飛んでくることは今はない。少しは怒りも冷めてきたっていう感じかなとシルはどこか願う様な心持ちで、彼女の方をじっと見つめる。彼女も視線に気づいたのだろう、一度視線が絡み合いはしたがすぐに逸らされてしまう。
「知らなかったとはいえ、悪かったと思っているわ」
彼女がシルのところまで歩み寄ると、しゃがみながらきつく縛ったロープをテーブルから解く。
「いや、こっちこそごめん。今覚えばノックするの忘れてた気がする。こっちにも落ち度があった」
ロープから解放されて、シルはゆっくりと立ち上がりながら縛られていたところを両手で交互に摩る。強く縛られた、といってもか弱い女の子が結んだものだ。これからの訓練に影響が出るほどではないだろう。幸い、怪我のレベルまで至ってはいない。
思い立ったように、シルはいざこざの間置き去りになっていた自分のカバンを取りに玄関の方へ行こうとそちらに体を向ける。確か、そこに大事な剣も立てかけたままだったと認識している。突然、シルの手首は自分の体温とは異なる温かなものに包まれる。柔らかく、かつ撫でるように包むそれはシルに安心感を与えてくる。ゆっくりと目線を下に向けると、縛られて少し赤くなったところを、目の前に立っていた可憐な少女が両手でぎゅっと包み込んでいた。
「大丈夫?赤くなってるけど痛くない?」
初対面の時とは違う声色と上目遣いに思わず心臓が跳ね上がってしまう。同時に、粟色の髪の毛が窓から入ってくる風に煽られシルの皮膚を僅かに撫でる。それを踏まえて、更に心拍数が上がるのを自覚でき、自然に顔も赤みを帯びる。お風呂上がりの為か、ふわっと香るシャンプーの匂いの追撃の前に理性を保つほうが困難だ。
「い、いや、大丈夫だよ。痛みはそんなに酷くない」
「なんで手だけじゃなくて、顔まで赤くしているのよ。気持ち悪い」
先ほどの声とは全く異なる声色でシルはぼそっと暴言を吐かれる。その態度はあの罵声を浴びせてきた時と同じその感じだ。先程まで昂りを覚えていた心拍数は一気に平常値に戻る。いや、平常値を大きく下回ったかもしれない。それほど、瞬間的に冷静と言われるほどのそれに戻っていた。
「あのね、私はまだ許したわけじゃないから。あなたの様な頼りなさそうな人に私の裸を見られたことは屈辱以外の何者でもないし。部屋にいることは許可してあげるけど、極力私とは関わらない生活を送って。これ、頼みじゃなくて命令だから」
一息に捲くしたてあげてサッと握っていた手を話すとベッドの方へと歩み寄っていく。シルに言葉を挟ませる余地すら持たせない。
「お、おい。ちょっとまっ」
「あと、あまり私に話しかけないでもらえるかしら。気分悪いから」
そう言うとすぐに部屋の電気を落とし、彼女は二段ベッドの上の段に素早く登ると布団を被りスヤスヤと寝息をたて始める。
一人、月明かりにのみ照らされた部屋に放置されたシルは静かにため息をつく。
「これはこれで大変だな」
彼女に聞こえるとまた面倒なので、聞こえない様になるべく低い声で呟いた。
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