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アーミーナイト 初日
第16話 招かれざる客
しおりを挟む部屋の窓から溢れる月明かりのみが光源となり部屋を薄白く照らしている。それはどこか神秘的でもあり、窓の下の街路時から溢れる人工の煌びやかな光とはまた違った趣が感じられる。
だが、そのような景色、自然を嗜むことをシルはしていなかった。疲れていたから、そうではない。そういう趣味趣向を持ち合わせていなかった空か、否である。
疲れているのに自分は今土下座をしていた。いや、させられていた。部屋に入った時と全く変わらぬ姿でそのまま立っていた姿勢から、床に座り込む姿勢に移り変わったのだ。床から伝わる冷たさが直接シルの心まで凍えらせるように迫りくる感じをひしひしと体感する。
シルは現在進行形で自分の身に降りかかっている災難についてもう一度最初から振り返って見ることにする。一階でカヤさんから鍵を受け取り、疲弊しきった足に鞭を打って4階の自分の部屋だと言われたドアの前に来たところまでは良い。
問題はここからだ。鍵を開けて、部屋に入ってみると何故か見知らぬ女の子がいて、ばったり目が合ってしまう。それも一糸もまとわぬ姿のところに運悪く直面してしまい、その姿を目に焼き付けてしまうという暴挙に思わず出てしまったのが更なる悲劇を招くことに形としてはなってしまったのは言うまでもないだろう。加えて、何をしているのか、という問いに対しても火に油を注ぐ返答を返してしまうし。だが、断じてそれだけだ。彼女の身体にシルの方から触れるようなことは行っていない。だが、彼女の方から強烈な一撃を間髪入れずにもらうことになったが。
今この420号室にはシルしかいない。先ほどまで、変態と大きな声で罵っていたあの女の子は寮母に詳しく聞いてくるといって少し前に部屋から出て行ってしまっている。その時に部屋にあったロープでシルをテーブルの柱にくぐり付けて出て行った為、身動きの一つもとれやしない。
ここで改めて部屋を眺めている。よく見ると部屋の片隅に二段ベッドが設置されているし、見るからに一人で住むには十分すぎるくらいの広さだ。この大きさが部屋と部屋の感覚が極めて広く感じ取れた理由そのもの。
しかし、そのどれもに彼女の私物と思われるものが置かれているのは気のせいではないだろう。折角設置してある二段ベッドも上には散らばって置かれている化粧道具。下には大型の旅行バッグが布団のど真ん中に置かれている。それ以外にも部屋の真ん中に位置しているテーブルー今シルが括り付けられているーにもタオルやら何やらが半乾きで置かれている。散らばっているものの中には赤色の男子が見ない方が良いものも混ざっている様な気がするので軽々しく部屋を見渡すことも一苦労だ。この部屋に今日来たんだよな、という疑問を抱かずにはいられない程の荒れ具合だ。
「さっき別れたばかりなのにもう再会するとはね。それもそんな格好の君と」
ドアが開けられた音が聞こえると、にやけ顔を浮かべながら寮母であるカヤが部屋に入ってくる。その後に続く様に彼女も入ってきたがその顔をカヤとは対照的に未だ冷めやらぬ怒りで満ち溢れていた。
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