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21日目 起きてたんですか!?
しおりを挟む扉の前に立ち尽くし、僕はそこから何もできなくなってしまう。目的の場所には辿り着くことはできた。あとは、目の前にあるドアノブを下に倒し、前に押し倒せばその扉は自ずと開き、部屋の中に入ることができるのだが・・・。僕は、自分の両手が今どのようになっているのか。下に視線を落として、今一度その状況を確認する。
整ったリズムで肩を上下に揺らし、目を閉じた顔を誰にも見られることがないように僕の胸に押し付けている生徒会長。この部屋のもう一人の持ち主が、その部屋に入るのを拒んでいるのか、確かに僕の腕の中で眠っていた。
「この状態じゃあ、部屋を開けることができないんだよな~。どうすれば良いかな」
「そうね、このベッドの寝心地にも少し飽きてきた頃だし。もうそろそろ下ろしてもらっていいかしら?」
「え? って、うわぁぁ!!」
驚きのあまり、僕は思わずその場で彼女の身体を抱え込んだ状態のまま、下に落下させてしまいそうになる。先程まで確かに目を瞑って眠っていたはずだ。だが、今の彼女はどうだろうか。閉ざされていた瞼から、大きな瞳がこちらを吸い込むようにして覗き込んでいる。少し頬を赤らめているように見えるのは気のせいだろうが、今の彼女はすでに目を覚ましていた。そして、よっ、と小さく声を漏らすと僕の腕から器用に身体を捻らせて抜け出し、そのまま立ち上がった。
「お、起きてたんですか?」
「当たり前じゃない。あんなに歩くたびに揺らされると、バカでも起きるわよ。今度するときは、もっと丁寧にお願いね」
「す、すいません。気をつけます」
って、なんで僕は謝らされているんだろう。彼女の言う通り、気をつけてはいたが抱え込んでここまで移動させるのは、多少無作法なところがあったかもしれない。でも、それがなんだって言うんだ!ここまで連れてきてもらってお礼の一つもないのかよ。ここで引っ込んだら、この先の彼女との暮らしは、僕が一方的にこき使われるだけなのではないか。そんな不安が頭をよぎる。ここだ。ここがそんな人生の分岐点なのだ、がんばれ僕!ガツンと言ってやるんだ。
「せ、先輩!!」
すでに部屋の鍵を差し込み、施錠を解除しようとしていた彼女に、後ろから意に反して出た大きな声で呼びかける。すると、彼女は驚いて肩をびくっとさせながら、ゆっくりと首だけをこちら側に回してくる。
「何かしら? びっくりしちゃうから、あまり大きな声を出さないでくれると助かるんだけど」
「それに関してはすいません。思わずっていうか。何か大きな声が出ちゃったって言うか。いや、そんなことはどうでもいいんですけど。一つ言いたいことがあって」
「早く言って。どこかに置いたあなたの荷物、早く取りに行きたくないの?」
「それは取りに行きます! いや、それより。僕が言いたいことって言うのは!」
言え!言うんだ僕!!
「先輩はいつから目を覚ましていたんですか?」
何言ってんだ、僕は。こんなことどうでもいいだろうに。相変わらずの意気地なし加減に自己嫌悪に陥りそうだ。
「そんなこと聞いてどうするのかしら。まぁ、聞きたいんなら答えてあげるけど。——ついさっきよ。あなたが丁度部屋を見つけたタイミングくらいかしら。これで満足? さぁ、早く荷物を取ってきなさいな。何なら手伝ってあげるから」
彼女はそう言うと扉をゆっくりと開けていった。だが、その言葉に少し詰まった箇所があったような気がしたのだが、未知の扉が開かれたことでそんな些細なことは綺麗に忘れ去られていった。
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