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9日目 えっちな夢を見てた?
しおりを挟む外から差し込む夕焼けよりも赤く見える彼女の髪の毛。そして、吐息同士が互いに関り合うようなほどの近距離から漂ってくる彼女の甘美な匂い。まつ毛も長く、大きな二重の瞳に僕が逆向きに映し出されている。そして、僕の右肩に触れている柔らかな感触は一体なんだろうか。まさか、まさかだと思うが、あれじゃないだろうな。女性だけが持つ柔らかなものといえば僕の頭に浮かび上がるのはあれだけだ。二つある全男性を虜にする女性の必殺武器。
だが、名残惜しいことに僕が何も口にしなかったこともあって、その感触はすっと遠のいていった。思わず口から、落胆の声が漏れそうになったがそれは必死に抑え込んだ。ただでさえ、聞かれたくない言葉を一つ聞かれたのだ。これ以上の失態は彼女の中の僕の評価を下げる以外何も果さない。
「ここってどこなのかな?」
「ここはこの学園の保健室。まさか、入学初日にここに足を踏み入れるとは思わなかったけどね」
尋ねる僕に彼女は笑顔を浮かべてそれに応じた。眩しすぎるほどの笑顔に僕は思わず目を逸らしてしまった。熱が顔に籠もっていく感じすらも覚える。
「ねぇ、大丈夫なの? 体育館で急に倒れたのもそうだけど、さっきもかなりうなされていたけど?」
小首を傾げながらそんなこと言われると、僕は本当に彼女の目を見て答えられなくなってしまう。だが、それでは男ではない。と強く心に誓い彼女の顔を真正面から見つめる。
「体育館は本当に分からないんだ。生徒会長が壇上に上がると急に頭が割れるような痛みが起きてさ。そのまま気がついたらここで眠ってた。うなされていたのは、よく見る夢をまた見ていてさ。毎回同じところで夢から覚めてしまうからほんと、飽き飽きしていて」
「ふーん。えっちな夢でも見てたんでしょ? さしずめ、女の子の服でも脱がす夢でも見てたんでしょ。それであと少しで全部脱げちゃうってところで毎回夢から覚めちゃうもんだから、とっとと剥がせよって。キャア~! 男らしいわね。多少乱雑でもいいってもこぼしてたし~」
僕は頭の中にいくつものクエスチョンマークを作った。そして瞬時に察した。これは危機的状況にあると。もし、このまましっかりとした弁明をしなかったら彼女の中の僕のイメージは変態な夢を毎度見る気持ち悪いやつで固定されるだろう。そして、もしそれがこの学園中に広まったら楽しい高校生活どころではない。ぼっちでコミュ障で、女の子となんら接点を持つことすらなかった中学時代よりもひどい時期を過ごすことになる。それだけは絶対に避けなければならない!
「違う!! 断じて違うから!! これは——」
「楽しそうな談笑なことですわね。しかも、そんなに近距離で。是非とも私にも聞かせて欲しい物ですわ」
保健室の扉が開いたかと思うと、そこには僕を失神させた生徒会長が立っていた。それも、怒ったご様子で。
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