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3日目 一目惚れしたのか、僕は

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「静かにしなさいよ。この場所に適さない奇声をあげるなんて・・・。あなたはこの学校が培ってきた伝統と歴史を蔑ろにしているのですよ」

 目線を高級車から移し、前をみるとそこには一人の女子生徒が立っていた。長髪を後ろで編んでいる黒髪の眼鏡の女性。マスクをしているが整えられた容姿をしていることは隠しきれていなかった。だが、そんな綺麗な顔からは尖った鋭い針のような言葉が僕の心を突き刺してくる。だが、それすらもご褒美を下賜されているように思えてくるのは僕だけなのだろうか、いや、きっとすではないはずだ。

「はぁ。だから私は最後まで反対だったのよ。この由緒ある学校に汚らわしい欲望の塊のような男性を招き入れることは。結果、私が危惧した通りのような事態になっているし――。って、私の話を聞いているのかしら?」

 僕は思わず目の前でぷんぷんと怒る彼女の顔を真っ直ぐ見つめながら時が止まったかのように動きを停止させていた。見惚れてしまっていたのだ。一目惚れとはこういうことを言うのだろうか。いや、まだそうと決まったわけではないのだが、今まで体験したことのない衝撃が僕の身体を襲っていることは疑いようがなかった。彼女の髪の毛が風で靡くその姿、そして立ち振る舞い。全てが愛おしく、男の本性を刺激してくる。

「ねぇ、ってば。はぁ、調子でも悪いのかしら?」

「調子は・・・良いよ。すごくいい。うん。本当に。気にしないで」

「返事ができるのなら早くしなさいな。ところで、その大荷物は何なのかしら? 先ほどから気になってまして」

 そう言いながら彼女は僕が持ってきた旅行カバンなどを指さした。少しの間あっけに取られる。僕がなぜ、この重たくて今にも投げ出しそうな荷物を無理をしてでも持ってきたのか。それは、

「え、パンフレットに書いてあったじゃないか。入学した一年目の学生には寮生活を義務付けるって。だから、こんなに重い荷物を僕は必死に汗をかきながら運んできたんじゃ——」

「だから。なんでそれをあなたが運んできているのかしらって私は尋ねているのよ。そんなの使用人に預ければ良いじゃない? わざわざあなた自身が運ばなくても」

 僕は返す言葉を見失うことになった。これから先の高校生活においてどれほどの困難が待ち受けているのか。その片鱗が垣間見られてような気がした。
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