上 下
28 / 70
アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜

X-28話 炎の発生源

しおりを挟む
 汗が額で煌めき、一瞬の間に地に落ちていき、黒いシミを作る。燃えたぎる集落に危険を顧みず走り集落の内部に侵入。そのため、汗は重力に従って真下に落下するわけでもなく、常に慣性の法則に則って自分の後方に流れ落ちていった。だが、そんなことを意識する余裕すら俺にはない。皮膚に紅く揺らめくものが触れるたび、そこからひり付くような痛みが生じるが、痛みに目を細めながらそれでも着実に前進していった。

だが、不思議な現象も、前に突き進むことで俺の目の前で起きていた。今まで炎が迫る集落内を逃げ惑っていた人達はみるみるうちに俺の視界から消えていくのだ。一人、また一人と小さい子供から優先的に姿をあっという間に消滅させる。理由は簡単だ。コルルだ。彼女が天恵を使って俺が一歩進む間に一人を移動させているのだ。

淡々と救われていく命に対し、俺は胸を撫で下さずにはいられなかった。今回の集落全体が焼き討ちになってしまった背景について今は何も事情を知らないが、それでも亡くなっていい命などこの世には一つもない。俺は安心感を糧に更に走る速度を上げて集落の中心を目掛けて進んでいった。

「——ッ!!!!!!」

 ここから比較的離れていない場所にて発生したと思われる、つんざくような奇声が鼓膜を震わせる。俺は進めていた足を止め、どこから声が聞こえてきたのか順次に探る。耳を澄ますと、その声は断続的に発生しており場所はほとんど移動していないように思える。先ほどまで聞こえていた無関係に巻き込まれた集落の人が発する恐怖に任せた叫びはいつの間にか遠くなっていた。それどころか全く聞こえなくなっている。辺りを見渡すと、人影ひとつ見当たりはしなくなっていた。

「コルル・・・やってのけたんだな!」

 そう確信すると、奇声が絶え間なく聞こえてくる場所目掛けて俺は勢いよく駆け出して行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「落ち着け!! 君に今できることはそれしかないんじゃ!! それは既に君の天恵! コントロールするのも全て君の意思次第じゃ!!!」

 俺の耳に届いた誰かが話す声。慌てたその声は当然だが俺が近くまで来ていることに気がついてはいない。ようやく声の主が視界に収まるところまで来ると瞬時に近くの物陰に身を隠す。目の前で起きている現象をより深く探る必要があると、俺の直感が告げていた。

そこには、この集落を包み込み、人々を恐怖のどん底に突き落とした炎の発生源のように見て取れた。二人の会話には何をベースに話しているのか分かるよしもなかったが、彼らが今回の延焼に関わっていることは明白であった。なぜなら、この場から炎が発生して延びていき、触れたもの全てを灰に変える。正にその現場を俺は見てしまったのだ。だが、不思議なことにこの近辺にはない。

その真相はすぐに見て分かった。今、俺の目の前には2人の人影が伸びている。一人は白衣を身に纏った髭も伸びた年老いた医者と思しき人物。もう一人は、若く高身長で肌の白さが特徴的だが、驚異的なことにその好青年。

「僕の支配下にこの炎はあるって言いたいのか!!?? じゃあ、この有様はなんだ、力をコントロールできず医療場どころか、この集落まで炎で燃やし尽くしているじゃないか!!!!」

 好青年が感情を昂らせながら、老いた医者に向かって言葉を飛ばす。彼の感情の高揚によって身に纏う炎は勢いを増し、医者が立っているところまで火を伸ばす。よろめきながら、それを躱した医者は体勢を整えながらじっと好青年の方を睨みつける。

「私たちの努力の方向性は間違っていない。これは自信を持って言えることだ。だが、一つミスを犯した。君にその力を授けたというこの一点が私たちの唯一の汚点だ! この程度の力をコントロールできないなんて、己の意思で行っているとしか——」

 その言葉を医者は飲み込んだ。気づいてしまったのだろう、真の意味に。目の前の好青年の瞳には笑みが溢れていた。それは、さながら悪魔の形相。口元を僅かに歪ませ、さっきまでただ感情のまま暴れていた炎も今では落ち着きを取り戻していた。

「くそ!!」

 老人は後ろを振り返り一瞬俺と目が合う。だが、それも束の間で地面を這うようにして伸びてきた炎が横一線に猛々しく燃え上がり退路を絶った。突然の八日で腰を抜かしたのか、炎の壁の向こう側からどさっという音が聞こえてくる。そして、じゃりじゃりと一歩づつ着実に老人との距離を縮めるべく歩みを進める足音が響く。

「お前達は罰を受けるべきだよ。」 

 好青年の怒りが込められた言葉。だが、その矛先にいる相手は全く聞く耳を持っているようではない。どうにかして逃げれないかと、炎の壁の隙間を探し続けている。

「おい!!そこに誰かいるのは分かってる。今すぐ出てきてコイツを殺せ!! コイツが今回の延焼の元凶。コイツを殺せばそれも全部収まるんだ!!!」

 恐らく、これは俺に向けて発せられた言葉。俺はその言葉に返事を返すことはなく、ただ静かに右手で力拳を作ると、呼吸を整えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

まる
ファンタジー
 樋口康平はそこそこどこにでもいるごく平凡な人間を自負する高校生。  春休みのある日のこと、いつものように母親の経営する喫茶店・ピープルの店番をしていると勇者を名乗る少女が現れた。  手足と胴に鎧を纏い、腰に剣を差した銀髪の美少女セミリア・クルイードは魔王に敗れ、再び魔王に挑むべく仲間を捜しに異世界からやって来たと告げる。  やけに気合の入ったコスプレイヤーが訪れたものだと驚く康平だが、涙ながらに力を貸してくれと懇願するセミリアを突き放すことが出来ずに渋々仲間捜しに協力することに。  結果現れた、ノリと音楽命の現役女子大生西原春乃、自称ニートで自称オタクで自称魔女っ娘なんとかというアニメのファンクラブを作ったと言っても過言ではない人物らしい引き籠もりの高瀬寛太の二人に何故か自分と幼馴染みの草食系女子月野みのりを加えた到底魔王など倒せそうにない四人は勇者一行として異世界に旅立つことになるのだった。  そんな特別な力を持っているわけでもないながらも勇者一行として異世界で魔王を倒し、時には異国の王を救い、いつしか多くの英傑から必要とされ、幾度となく戦争を終わらせるべく人知れず奔走し、気付けば何人もの伴侶に囲まれ、のちに救世主と呼ばれることになる一人の少年の物語。  敢えて王道? を突き進んでみるべし。  スキルもチートも冒険者も追放も奴隷も獣人もアイテムボックスもフェンリルも必要ない!  ……といいなぁ、なんて気持ちで始めた挑戦です。笑 第一幕【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】 第二幕【~五大王国合同サミット~】 第三幕【~ただ一人の反逆者~】 第四幕【~連合軍vs連合軍~】 第五幕【~破滅の三大魔獣神~】

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

処理中です...