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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜
X-25話 天恵の業
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息が切れる。はぁはぁという音が意識していないにも関わらず俺の口から溢れた。走れば走るほど、異臭はより強くなる。それに伴い、異常箇所との距離が縮まっていることに確信を持てた、俺たちは更にその速度を上げた。
最初は異変に気がついていなかったコルルも今となってはその異変に気がついている様子で、半信半疑だった表情から疑いの色は消えて、今は一刻も早くその場に辿り着かなくてはという焦りの色が返って見え始める。
「はぁ、はぁ。私の天恵を使おうか??」
コルルはそう問いかけるが、俺はそれを首を横に振って返事をする。
「天恵はあくまで切り札だ。そいつは使えば使うほど効力が上がる一方で酷く身体を酷使する。こんなところで使ってはもったいない。恐らくだが、コルルの力を振るう場所は今ここではない」
「私の天恵が活躍する場所が今から来るって言いたいわけ?」
前だけを見て走ってきたが、一度その速度を緩める。手を握っているため、コルルもそれにつられて走る足をゆっくりと止めた。俺は彼女の顔を真っ正面から見て捉える。息が上がり、肩で呼吸しているが何分若いのが活きて、俺よりも体力が有り余っているように見える。
「森の中で火がつくのは主に山火事。もしそうであれば近隣の村や集落から協力体制を整えて消化活動に当たるだろう。でも、今はそんな気配全くない。静かなもので、ただ単に何かが燃えている匂いがする。そして・・・、あれを見てくれ」
俺は左斜め上を指差し、コルルに伝えた。そこにあったのは一本の煙。空まで伸びて雲と繋がってしまうのかと疑うくらい上空の風に影響を受けることなく、堂々と煙は上昇していた。だが、その色が問題だった。雲と同色の色をそれはしていなかったのだ。
「黄色の煙——? 救難信号かしら?」
「あれは昔冒険者をしていた頃によく目にしたよ。あれは、襲撃信号。何者かが彼らの集落に襲いかかっているんだ。そして、その攻撃の類で火を放ったのだろうね。さぁ、ここまでで君が今から何をしなければいけないのか分かったかな?」
コルルは頭を重そうに下に向けたまま考え込み、しばらく浮上してこなかった。そして、助けを求めるかのような目線で俺に訴えかけてくる。まだ、分からないということを。
「分かった。言うよ。この先の集落は恐らく多くの怪我人と襲撃をかました奴らがいるだろう。後者の方はもうこの場から立ち去ってくれてたら良いんだろうけど、この場においては最悪の事態を仮定するよ。
そうなった場合、君が怪我人の輸送や近隣の村への呼びかけを行うことになる。そうなった時に何が役に立つのか。そうだ、誰も追いつくことのできない君の天恵だ。その時、へばって途中で力尽きましたじゃ話にならない。だからこそ、今はしんどくても天恵に甘えず、自分の足でアルゴーの集落に辿り着かなくてはいけないんだ」
天恵に甘えない——。もしかしたらこれは今までそれがなかった俺だからこそ言えるセリフなのかもしれない。ないのが当たり前だった時に、羨ましくて人の天恵を何度も目に焼き付けるようにして眺めてきた。その中でそれに依存しきって強力なそれを持っていたにも関わらず命を落としたり、助けられる命をこぼしてきた冒険者を見てきた。そして、彼らがその後背負う業も。
今だからこそ言えるセリフを彼女に伝えると、俺たち二人は再び止まっていた足を動かし始めた。
最初は異変に気がついていなかったコルルも今となってはその異変に気がついている様子で、半信半疑だった表情から疑いの色は消えて、今は一刻も早くその場に辿り着かなくてはという焦りの色が返って見え始める。
「はぁ、はぁ。私の天恵を使おうか??」
コルルはそう問いかけるが、俺はそれを首を横に振って返事をする。
「天恵はあくまで切り札だ。そいつは使えば使うほど効力が上がる一方で酷く身体を酷使する。こんなところで使ってはもったいない。恐らくだが、コルルの力を振るう場所は今ここではない」
「私の天恵が活躍する場所が今から来るって言いたいわけ?」
前だけを見て走ってきたが、一度その速度を緩める。手を握っているため、コルルもそれにつられて走る足をゆっくりと止めた。俺は彼女の顔を真っ正面から見て捉える。息が上がり、肩で呼吸しているが何分若いのが活きて、俺よりも体力が有り余っているように見える。
「森の中で火がつくのは主に山火事。もしそうであれば近隣の村や集落から協力体制を整えて消化活動に当たるだろう。でも、今はそんな気配全くない。静かなもので、ただ単に何かが燃えている匂いがする。そして・・・、あれを見てくれ」
俺は左斜め上を指差し、コルルに伝えた。そこにあったのは一本の煙。空まで伸びて雲と繋がってしまうのかと疑うくらい上空の風に影響を受けることなく、堂々と煙は上昇していた。だが、その色が問題だった。雲と同色の色をそれはしていなかったのだ。
「黄色の煙——? 救難信号かしら?」
「あれは昔冒険者をしていた頃によく目にしたよ。あれは、襲撃信号。何者かが彼らの集落に襲いかかっているんだ。そして、その攻撃の類で火を放ったのだろうね。さぁ、ここまでで君が今から何をしなければいけないのか分かったかな?」
コルルは頭を重そうに下に向けたまま考え込み、しばらく浮上してこなかった。そして、助けを求めるかのような目線で俺に訴えかけてくる。まだ、分からないということを。
「分かった。言うよ。この先の集落は恐らく多くの怪我人と襲撃をかました奴らがいるだろう。後者の方はもうこの場から立ち去ってくれてたら良いんだろうけど、この場においては最悪の事態を仮定するよ。
そうなった場合、君が怪我人の輸送や近隣の村への呼びかけを行うことになる。そうなった時に何が役に立つのか。そうだ、誰も追いつくことのできない君の天恵だ。その時、へばって途中で力尽きましたじゃ話にならない。だからこそ、今はしんどくても天恵に甘えず、自分の足でアルゴーの集落に辿り着かなくてはいけないんだ」
天恵に甘えない——。もしかしたらこれは今までそれがなかった俺だからこそ言えるセリフなのかもしれない。ないのが当たり前だった時に、羨ましくて人の天恵を何度も目に焼き付けるようにして眺めてきた。その中でそれに依存しきって強力なそれを持っていたにも関わらず命を落としたり、助けられる命をこぼしてきた冒険者を見てきた。そして、彼らがその後背負う業も。
今だからこそ言えるセリフを彼女に伝えると、俺たち二人は再び止まっていた足を動かし始めた。
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