きもちいいあな

松田カエン

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群青騎士団入団編

14.白藍魔導団の便利屋とユストゥスの懊悩

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 ユストゥスは私に日に3度、精液をくれる。

 自分の性欲から考えると、ユストゥスの精力は素晴らしいものだと思うが、そもそも選ばれる奴隷は最低限そのぐらいの性欲がなければ、務まらないらしい。ただ他の奴隷も同等程度には精力があるらしいが、それでも慢性的に足りないそうだ。「最低日に2回程度でもいいらしいが、魔力減らしすぎるとだめだ。すぐに誰でも襲いたくなる」とはライマー先輩の言葉で、だからこそ出動時には、奴隷は後方支援として、必ず同伴する必要があるらしい。

 燃費がいいのか悪いのか、悩む話だ。無尽蔵に奴隷を増やせば、秘密が漏れる危険性が上がる上に、管理も大変なのだそうだ。

「なんで、クンツくんのご意見を活かしまして、非常時の栄養補給方法を確立しました!拍手~!!」
「はあ……」

 目の前でぱちぱちと勢いよく手を叩かれて、どう答えていいものやら悩みながら、私は曖昧に頷いた。というか、こいつは誰だろう。

 群青騎士としての初陣を待つ間の私は、日々訓練と身体を鍛えることに腐心していた。
 前回4人で……というか、まあ私だけ精液貰いそこねたあと、アンドレ先輩は私の顔を見るたびに顔を赤くしていたが、ユストゥスには絶対話を蒸し返すなと、散々身体で言い聞かされたので、私はちゃんと我慢した。

 アンドレ先輩にはなにも聞かなかったし、言わなかった。誰か私を褒めるべきだ。そう胸を張っていたら、たまたま通りすがったベッカーに頭を撫でられて、飴をもらってしまった。そういう褒め方とはちょっと違ったんだが……まあいい。
 そんなわけで、疑問を黙殺した私は、それ以上アンドレ先輩とぎくしゃくすることもなく、約束だった手合わせも順調にこなしていた。今日も意気揚々と訓練に繰り出そうとしていたところ、面会があると言われて、寮に設置されている応接室で待っていた私の前に現れたのが、見知らぬ陽気な男だったわけだ。

 薄茶色の前髪は眉当たりで切られてこざっぱりしているが、後は長く、紐で1つにくくっている。糸目で常に口の端を上げ、笑っているような表情が印象的だ。細身につけているのはうっすい水色のローブで、その手には魔道士らしく、宝石をはめ込んだ金属の短いロッドを手にしている。私より年上だとは思うが、それでもそう歳は離れていないように見えた。
 そんな男と顔を合わせた途端、奴隷の性欲の話をされ、最後に拍手をされたのだ。面食らっても仕方ないだろう。

「貴殿は私を知っているようだが……申し訳ないが、貴殿はどなただろうか」

 この寮に立ち入り、こうして私と話をしているということは、おそらく関係者なのだろう。でも研修施設でも一度も会ったことがない。私の意見を活かして、と言われても、なんのことかさっぱりわからなかった。

「このローブ知らん?俺、白藍魔導団所属のザームエル・バルテン。君らの後方支援が主で、趣味は魔淫具まいんぐ作成!よろしく~」
 白藍魔導団は知っている。技術開発を主にしている国直属の魔導団だ。群青魔導騎士団の後方支援もしているとは、知らなかった。だが、それよりも気になった単語がある。

「魔淫具?」
「これとか?はい、お近づきのしるし~」

 にゅっと差し出された物に、私は息を飲んだ。穴に突っ込まれて、疑似精液を吐き出されて、下した腹の痛みは覚えている。その張り型と形がそっくりで……一回り大きかった。

「なん、で私にこれを」
「エリーアスが物足りなさそうだった。って言ってたから大きくしたんだけど、いらん?」
「吐き出す疑似精液に、魔力が籠もっていないならもらってもいいが……完全除去はできていないのだろう、なら不要だ」

 反射的に受け取ってしまったが、魔力で探れば、自分の魔力とは違う反発する感触がある。細かい魔力のコントロールが苦手な私でも、感じる程魔力が入ってしまっているのであれば、今回も腹を下すだろう。

「そか~~まあこれは独り寝が寂しい、紳士淑女の皆様に売り出す予定だから、知り合いにそういうお人がいたら、プレゼントしてもいいよ~」

 そう笑う男に、無理やり押し付けられてしまった。ちなみに疑似精液は数回分は入っているが、充填する場合は別売りを買う必要があるらしい。……まったくもって、私には必要のない情報だ。

「それで、私には何の用件なのだろうか」
「エーゴンにコレの感想と一緒に、すっごい要望出してたじゃないか~」
「エーゴン?」
「……あのね、自分の主治医の名前ぐらい覚えておきなよ」

 ああ、あのちょいハゲで、私と同い年のご子息がいらっしゃる方。私が脳裏に人物像を思い浮かべたのがわかったのか、呆れたようにため息を吐かれた。

「で、そのエーゴンから聞いたんだけど、公衆トイレ的な扱いを所望してたっしょ~」
「ああ。確かに」
 期待もなにもしていなかったから、すっかり忘れていた。

「実は平民の衛生状態向上の一環で、各地に共同浴場を作ることになったんだって~。んで、平民で構成されてる、警邏兵隊けいらへいたいの詰め所にも浴場作るらしくて、それに便乗しようって話になり」
「うん?」
「まあお金のない平民兵士の皆様方に協力してもらって、魔淫具の試作を兼ねてという建前を用意して、君等を配置することになった」
「ほう」

 話半分に聞いていたが、俄然興味がある方向に転がった。思わず身を乗り出す。その丸わかりな態度に、ザームエルはにやりと笑みを深くした。

「複数ある警邏兵隊の詰め所は、貴族街と平民街の間にあるから、勝手にこっちで防犯魔法をかける分には問題ないし、移動魔法陣を設置すれば、寮や他の場所からの移動も容易だしね~。脱衣所は小部屋にして区切ってるし、小部屋に入室するタイミングで、兵士には洗浄魔法がかかるようにしてるから、衛生的にも問題ない。それでクンツくんが言ったように、上半身は隠して下半身だけ出してもらって、兵士の皆様方には、魔法でもらうわけ~」

「……最高じゃないか」
「兵士の方々は、清潔保てて性欲処理も出来て~、群青騎士はお腹いっぱい精液貰えて~、国は政策の1つを予算抑えて達成できて~、俺は新しい魔具の実験場所をもらえる!皆幸せだよね~。それで、素晴らしい着想を与えてくれたクンツくんには、金一封が出てんのよ、はいこれ」
「そんなものは不要だ。代わりに、優先的にその兵士たちのにしてもらうことはできないのか?」

 是非私の穴を使って欲しい。締まらないほどに注ぎ込まれたらどれほど幸せか。めったにない幸福を脳裏に描いた私は、差し出された封筒を断った。
 そのまま勢いで彼の手を握り込んで、目を見つめながら頼み込む。だが、ザームエルは肩をすくめて首を横に振った。

「非常時の栄養補給方法って言ったでしょ~?極端に魔力が減ったときにだけ、使用することで話がついてる。通常時は奴隷くんたちがいるし」
「正直、その仕組みがあれば、奴隷などいなくてもいいだろう。警邏兵隊は、確か百数名いたと記憶しているが」

 それだけ棒がいれば十分だろう。……特に私には、奴隷なんていらない。ザームエルは腕を組んでうんうんと頷いた。

「クンツくんはド淫乱派かあ~。ぶっちゃけ、これ反応半々なんだよね~。いっぱい精液貰えてイイって人と、知らない奴に犯されるのはイヤって人と。まあ奴隷くんたちで間に合わなかったら、君等の命が危うくなるから、問答無用で壁尻なんだけど」
「嫌がる魔肛持ちがいるのか?穴のくせに生意気な事を」
「皆が皆、クンツくんみたいに納得してる人ばっかりじゃないからね~。人格形成が上手くいき過ぎちゃうと、結構たいへんみたいだよ~?」

 まあそんなわけで受け取って~と、金一封とやらを押し付けられた。さっきから何かと押し付けられてばかりだ。

「またなんか、いいアイデアあったら教えてね~!」
 ザームエルは言いたいことだけ言うと、あっさりと立ち去っていった。応接室に残された私は、手にした封筒をひらひらと振る。王国の貨幣に紙幣はなく、高額になれば証券が発行される。おそらくこれはその手形だ。
 騎士団に所属している以上、決まった給金は支給されるし、装備も用意されている。他の先輩方とは違って、私には物欲はなかった。実家にでも送ろうか。ああでも、感謝されることはなさそうだ。

 封筒を持て余しながら応接室を出ると、すぐそばの壁にユストゥスが寄りかかっていた。思わず、そっと息を飲んでしまう。

「こんなところでどうした?」
<話を聞いていた>

 ユストゥスがゆっくりと手を動かす。まず応接室を指差して、それから自分の耳を指差した。これは私でも理解出来る。聞かれたのか。迂闊だった。あまり得意ではないが、防音魔法を張ればよかった。なんなら、魔法が得意そうなザームエルに頼めばよかった。
 ユストゥスの様子を見る限り、話をしていた内容に、彼は良い感想を持っていないようである。今夜もまた『やさしいの』でいじめられるのかと思うと、なんとも複雑な心境だ。

 途中まではふわふわして気持ちがいいのだが、自分がコントロールできなくなる絶頂は嫌いだ。なるべく従順にしているから『きもちいいのくるしいの』はあまりされないが、ここのところ、喉奥を舌でコンコンされるだけでも、気持ちよくなってきてしまって、困る。

 私はそっと目を伏せたまま、ザームエルから先ほどもらったばかりの張り型を、ユストゥスに差し出した。少しも受け取る気配がないので見上げれば、彼の困惑が見て取れる。

「今夜も、仕置きをするのだろう?これなら体罰にはならないし、腹を下すから私のダメージは大きいぞ」

 大きくため息を吐かれた。なんなんだ。どうせ私が嫌がることをするくせに。
 ユストゥスは、私と視線を合わせるためにしゃがみ込む。

<どうしてあれがお仕置きになるんだ。この間は……少し酷くしちまったが、昨日も一昨日も、その前だって、お前が好きな、軽い触れ方でしてやってるだろ?うっとりするくせに、なにが駄目なんだ>

 毎日バルタザールとユストゥスに手話を教えてもらっているが、まだ単純な挨拶や言葉しかわからない。ちょっと複雑になると、もう私では無理だった。今も私が理解できないでいると、ユストゥスはまたいつも通り、手のひらに口づけを落としてから、文字を書いた。

「な、に、が、だ……全部だ、全部。私にはいらない」
 私が首を横に振ると、ユストゥスは耳を少しばかり伏せた。

「何度も言うが、私にあんな丁寧な対応は不要だ。他の魔肛持ちは知らないが、私にはしなくていい。だいたい面倒だろう、あんなに全身舐めて、噛んで、キスして……私のペニスなんて、おしっこするだけの飾りだし、あんなに優しくなんて、触らなくていい。それから、あんなすぐに開く穴を丁寧に、指で、舌で、……その、ぐじゅぐじゅに、して……い、入れて良いって言っているのに、ずっと……えっと、その、あんな」

 ああもう。思い出したら尻が。普通だったら口に出すにもはばかられる箇所が、きゅぅうって、収縮して……くそ。溢れそうに、いや、もう溢れてる欲望を、頭を振って散らす。

「入れてからも、なぜ動かない。私のおまんこが、あんなに、あんなにお前のおちんぽに、ちゅうちゅう吸い付いて、動いてと言っているのに。……もしかして、私の穴は、お前にとって気持ちよくないのか?」

 思いつくままに口にしていたが、不意に浮かんだ疑問に、眠そう、と言われる目を見開いてしまう。今まで、それは考えてもいなかった。私は気持ちがいいから、ユストゥスもいいと思っていた。

<いや、きもちいーよ。でもなあ。獣人に対して、伴侶にグルーミングすんなってのは横暴だかんな?大好きな自分の嫁が巣で、色気ムンムンで誘ってくれてんのに、穴以外に触れるなって言われても、厳しいんだって。……人だもんな。子熊にゃわかんないか>

 ユストゥスは首を横に振って、長々となにか言い訳を続けていたが、私が首を傾げた時点で、諦めたのかがっくりと肩を落とした。それから不機嫌そうな眼差しを、私の背後に向ける。

<嬢ちゃんに嫁とか言ってんなよ、このロリコン>
「ベッカー」

 釣られて振り返れば、そこにはこの寮でもう1人の、獣人が立っていた。姿を認めるとこちらに近づいてくる。ユストゥスのようにサボっていたわけではないらしく、外出用の研修騎士服を身に着けていた。真新しい服が窮屈なのか、詰め襟の前部分を開けて、厚い胸板をのぞかせている。
 今日はエリーアス様が外出していたので、それのお供だろう。だが、この場にはエリーアス様もマインラートもいなかった。

 ベッカーの、手話への理解と学習速度は、私とは比べるべくもなく、上達していた。今もややぎこちなさが残るものの、ユストゥスが顔をしかめるぐらいには、なにかわかる嫌味でも言ったのだろう。

<うるせえ。てめえこそ人の嫁に色目使うな>
<俺はいたって普通に、嬢ちゃんを可愛がってるだけだ。なー?>

 身長が高い男に囲まれるという経験は、この歳になると、なかなかなかった。ベッカーは私の頭をくしゃりと優しく撫でると、そのまま引き寄せ、頬を擦り寄せてくる。
 ここに来てからベッカーは短く顎髭を伸ばしており、きちんと手入れされたそれは、私の肌に触れるとつんつんと刺激した。

「じょりじょりはやめてくれと言っただろう、ベッカー」
<そうだな~>

 軽く突っぱねる程度では、ベッカーは離してくれなかった。いつもそうだ。ベッカーは、私を完全に幼女として扱う事を決めたらしく、ちょっとすれ違うたびに、一口サイズの甘味を渡してくるし、なにかと体調を気遣ってくれる。
 性的なものを感じない優しい手を、何度も払うのは悪い気がしてしまい、私も他の騎士や奴隷がいなければ、こうして可愛がられることを、あまり嫌がらなくなってしまった。

 ……いや、まあなんというか。ベッカーに子供扱いされるのは、実は少し楽しい。私の家では貴族としての付き合いも学ばないし、平民が行うらしい、家族の触れ合いもなかった。ここの寮では先輩方も構ってくれるし、奴隷たちも私に優しい。
 あと欲を言うなら、皆もう少し精液を、私にくれれば言うことはないのだが。あとユストゥスは、私にしつこくしないでくれれば。

「もう。……ふふ」

 頬を擦り合わせられて、くすぐったくてむずむずする。思わず声が漏れた。途端に、逆側から引っ張られて、私は狼の腕の中にすっぽりと収まっていた。ぎゅうぎゅう抱きついてきて、暑苦しい。

<こんっだけ匂い付けしてんのに、手ぇ出すなって言ってんだろ!!>
「ユストゥス、痛い」
<お前じゃあるまいし、手なんて出してねえだろ。こんなの軽いスキンシップじゃねえか。……余裕ねえなあユストゥス>

 ベッカーにへっと鼻で笑われ、ユストゥスは悔しげに唸る。暴れても、ユストゥスが離してくれないことはわかっているので、私は諦めて、腕の中で様子を伺った。

<嫁だ幼妻だ伴侶だって言っても、嬢ちゃん、全然理解してねえじゃねえか。ほんっと悪い大人だなあお前>
<てめえこそ、クンツが人族なの忘れてんのか?成人してる>
<ロリコンはみぃんな、自分に都合のいいことだけ言うんだよ。はー……よく見ろよ。まだ未成熟じゃねえか、

 ベッカーが両手を伸ばしてきて、わしゃわしゃと私の頭を撫で回す。また声を出して笑ってしまって、慌てて口を閉じた。ユストゥスは、私がベッカーと仲良くするのが嫌いなのだ。
 手話の練習で、2人で絵本を見ながら、一文字ずつ手で物語を追っていたときなど、ユストゥスにバレたときはすぐさま拉致られた。
 私の手話の学習がはかどらないのは、ユストゥスにも責任があると思うぞ。

<まあ、気長にやんな>

 ベッカーはぽんとユストゥスの肩を叩くと、私に紙に包まれた、錠剤のような小さなラムネを渡して立ち去ってしまった。この程度なら食べても問題はないので、包みを開けて口に運ぶ。
 飴もラムネも、あとグミも、私はこの寮に来てから初めて食べた。甘くて美味しい。

 食べ終わっても、ユストゥスは私を抱いたまま動かなかった。軽く息を吐いて、私はユストゥスの耳の付け根から首筋、胸板にゆっくりと手を滑らす。

「どうした、大丈夫か?おまんこする?」

 ぐりぐりと首筋に頬を寄せて抱きつきながら誘うと、私の下肢にユストゥスのペニスが、存在を主張してきた。……勃つのだから、私の穴は嫌いではないのだ。なんですぐに入れてくれなくて、それでいて、ようやく入れてくれても、すぐに動いてくれないのか。悩ましい。

 ユストゥスの懊悩は、私にはまったく理解ができなかった。


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