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6『一緒に、気持ちよくなろうね……?』
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夜――
自室のパソコンから、動画配信サイトを開く。ASMRとか深夜0時とか、覚えていた単語で検索すると、すぐ拓斗のページに行き着いた。
拓斗のパソコンから見たってだけで、それが本当に拓斗のページかどうかはわからないけど。
プロフィール画像はイラストで、拓斗とわかる情報はなにもない。拓斗のパソコンから見た投稿一覧は見られなくなっていた。あれは投稿者本人だけが見られるページだったのかもしれない。もしそうなら、投稿者が拓斗だというのはほぼ確定だ。録画は残さないみたいだし、いま声を確認することはできないけど、この後、配信が始まれば、おそらく確認できる。
0時まであと5分。さっきから何度時計を確認したことか。拓斗次第だって思っていたけど、いまの俺は配信を待ち望んでいた。
5分後――
0時を迎えた瞬間、プロフィール画像のキャラクターが大きく映し出される。
『起きてる?』
セットしていたイヤホンを通して、俺の耳に音が届いた。
『こんばんはー。あ、初見さん、いらっしゃい。サクラって言います。よろしくね』
配信者は、自分をサクラと名乗った。拓斗からは連想できない名前だけど、声も口調も話す速度も、かなり拓斗っぽい。
『不定期なんだけど、だいたい0時から配信してます。ただの雑談とか、最近は女性向けセリフとか読ませてもらってるかな』
サクラは、初めて配信を聞きにきた人向けに軽く説明を挟みながら、リアルタイムで流れていくコメントを丁寧に拾っていく。
『昨日はなんで遅い時間だったか……? うーん、実は友達が泊まりに来てたんだ。寝るの待ってたら0時過ぎちゃってたんだよね』
状況も拓斗にぴったり当てはまっていて、もう疑う余地はない。
『お休みしてもよかったんだけど――』
一呼吸おいて、右耳のイヤホンから音が溢れてきた。
『そういう気分になっちゃった』
「……!」
吐息混じりの囁き声が、耳の奥の方まで入り込んでくる。柔らかい羽根で、頭の中を優しく撫でられているみたい。
「なんだよ……これ……」
『どういう気分かって……? 好きな子を撫でたり、舐めたりしたい気分……かな』
いまもそういう気分なのか、サクラの口調は、いつの間にか誘うようなものへと変化していた。俺の耳元で吐息を漏らした直後、ちゅ……と、口づけられる。
「……っ」
反射的に声が漏れそうになった俺は、慌てて自分の唇に手の甲を押し当てた。もちろん本当に口づけられたわけじゃない。俺の耳はイヤホンで塞がったまま。なのに、まるで耳の中を弄られているみたいな振動が伝わってくる。
『ちゅう……ちゅ……くちゅ……ちゅ……』
濡れた舌が絡みつくような、いやらしい音を聞かされて、俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。昨日もキスをしているかのようなリップ音は聞いたけど、あれとは全然違う。こんなにも、耳の奥で感じることはなかった。サクラが出している小さな音を、マイクが逃さず拾ってくれているんだろうか。
『はぁ……どしたの……? もう、気持ちよくなってきちゃった?』
図星を突かれたような気がして、鼓動が速くなった。まるで俺が言われてるみたい。
ふと画面に目を向けると、閲覧数が表示されていた。
千人以上? そんなにたくさんの人がいま、この配信を聞いているってこと?
『一緒に、気持ちよくなろうね……?』
俺に向けて語っているわけじゃない。けれど、サクラが語りかけている千人のうちの1人は俺。……俺にも言われてる。
『んぅ……ちゅ……はぁっ……ちゅう……耳、もっと舐められたい?』
舐められたい。そんな風に思ってしまうことが、すごく恥ずかしい。
拓斗のやつ、なに考えてんだ。そう思ってたけど、俺こそ、なに考えてんだろう。
拓斗の声で、おかしくなりかけてる……ううん、もうおかしくなってる?
『どうしたの? 恥ずかしい? 大丈夫だから……ね?』
誰かが残したコメントに反応しているだけかもしれないのに、あまりにも俺の心情とリンクしていた。
『ん……好きなとこ教えて。耳舐めたまま、そっちも撫でてあげる』
これ以上は駄目だ。駄目に決まってる。頭ではそう思うのに、俺の右手はほぼ無意識に下半身へと移動していた。
耳に入り込んできた布の擦れる音に合わせて、スウェットのズボンをずらす。下着から取り出したものは、すでに熱を持っていた。
いつもの拓斗とは違うけど、狸寝入りしていたときに聞いていたのはこれで、相手が拓斗だってわかっているのに止められない。
熱い吐息を耳に感じながら、俺は掴んだモノを擦り上げていく。
「ふぅ……ん……はぁ……」
吐息なんてかかるはずないし、ましてや温かさを感じるなんてあるわけないのに、耳から聞こえる振動が、俺の判断能力を低下させていく。まるで催眠術にでもかけられたみたい。
『ここ……好きなんだ?』
耳元で囁かれた俺は、反射的にこくりと頷いた。気持ちいい。自分の手……それよりも拓斗の声が、気持ちいいと感じてしまう。
「ん……はぁ……はぁ……」
超えてはいけない一線だと、それだけはなんとか理解しているはずなのに、意識すればするほど、体は熱を帯びてゆく。
『はぁ……ん……』
「んんっ……ぅん……」
いつしか拓斗の呼吸も荒くなっていた。同調するように、俺の呼吸も荒くなる。
「はぁ……はぁっ……くぅ……んんっ!」
とうとう溜まった欲望を解放させた俺は、脱力状態で、いまだ続くサクラの声を全身で感じた。
『ん……はぁ……気持ちよかった?』
気持ちよかった。こんな快感は、いままで経験したことがない。
『俺も、よかったぁ……。明日もまた、来ちゃおうかな』
明日もまた、気持ちよくなれる。
『それじゃあ、おやすみ』
無音になったイヤホンを外すこともなく、俺はしばらく余韻に浸った。
自室のパソコンから、動画配信サイトを開く。ASMRとか深夜0時とか、覚えていた単語で検索すると、すぐ拓斗のページに行き着いた。
拓斗のパソコンから見たってだけで、それが本当に拓斗のページかどうかはわからないけど。
プロフィール画像はイラストで、拓斗とわかる情報はなにもない。拓斗のパソコンから見た投稿一覧は見られなくなっていた。あれは投稿者本人だけが見られるページだったのかもしれない。もしそうなら、投稿者が拓斗だというのはほぼ確定だ。録画は残さないみたいだし、いま声を確認することはできないけど、この後、配信が始まれば、おそらく確認できる。
0時まであと5分。さっきから何度時計を確認したことか。拓斗次第だって思っていたけど、いまの俺は配信を待ち望んでいた。
5分後――
0時を迎えた瞬間、プロフィール画像のキャラクターが大きく映し出される。
『起きてる?』
セットしていたイヤホンを通して、俺の耳に音が届いた。
『こんばんはー。あ、初見さん、いらっしゃい。サクラって言います。よろしくね』
配信者は、自分をサクラと名乗った。拓斗からは連想できない名前だけど、声も口調も話す速度も、かなり拓斗っぽい。
『不定期なんだけど、だいたい0時から配信してます。ただの雑談とか、最近は女性向けセリフとか読ませてもらってるかな』
サクラは、初めて配信を聞きにきた人向けに軽く説明を挟みながら、リアルタイムで流れていくコメントを丁寧に拾っていく。
『昨日はなんで遅い時間だったか……? うーん、実は友達が泊まりに来てたんだ。寝るの待ってたら0時過ぎちゃってたんだよね』
状況も拓斗にぴったり当てはまっていて、もう疑う余地はない。
『お休みしてもよかったんだけど――』
一呼吸おいて、右耳のイヤホンから音が溢れてきた。
『そういう気分になっちゃった』
「……!」
吐息混じりの囁き声が、耳の奥の方まで入り込んでくる。柔らかい羽根で、頭の中を優しく撫でられているみたい。
「なんだよ……これ……」
『どういう気分かって……? 好きな子を撫でたり、舐めたりしたい気分……かな』
いまもそういう気分なのか、サクラの口調は、いつの間にか誘うようなものへと変化していた。俺の耳元で吐息を漏らした直後、ちゅ……と、口づけられる。
「……っ」
反射的に声が漏れそうになった俺は、慌てて自分の唇に手の甲を押し当てた。もちろん本当に口づけられたわけじゃない。俺の耳はイヤホンで塞がったまま。なのに、まるで耳の中を弄られているみたいな振動が伝わってくる。
『ちゅう……ちゅ……くちゅ……ちゅ……』
濡れた舌が絡みつくような、いやらしい音を聞かされて、俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。昨日もキスをしているかのようなリップ音は聞いたけど、あれとは全然違う。こんなにも、耳の奥で感じることはなかった。サクラが出している小さな音を、マイクが逃さず拾ってくれているんだろうか。
『はぁ……どしたの……? もう、気持ちよくなってきちゃった?』
図星を突かれたような気がして、鼓動が速くなった。まるで俺が言われてるみたい。
ふと画面に目を向けると、閲覧数が表示されていた。
千人以上? そんなにたくさんの人がいま、この配信を聞いているってこと?
『一緒に、気持ちよくなろうね……?』
俺に向けて語っているわけじゃない。けれど、サクラが語りかけている千人のうちの1人は俺。……俺にも言われてる。
『んぅ……ちゅ……はぁっ……ちゅう……耳、もっと舐められたい?』
舐められたい。そんな風に思ってしまうことが、すごく恥ずかしい。
拓斗のやつ、なに考えてんだ。そう思ってたけど、俺こそ、なに考えてんだろう。
拓斗の声で、おかしくなりかけてる……ううん、もうおかしくなってる?
『どうしたの? 恥ずかしい? 大丈夫だから……ね?』
誰かが残したコメントに反応しているだけかもしれないのに、あまりにも俺の心情とリンクしていた。
『ん……好きなとこ教えて。耳舐めたまま、そっちも撫でてあげる』
これ以上は駄目だ。駄目に決まってる。頭ではそう思うのに、俺の右手はほぼ無意識に下半身へと移動していた。
耳に入り込んできた布の擦れる音に合わせて、スウェットのズボンをずらす。下着から取り出したものは、すでに熱を持っていた。
いつもの拓斗とは違うけど、狸寝入りしていたときに聞いていたのはこれで、相手が拓斗だってわかっているのに止められない。
熱い吐息を耳に感じながら、俺は掴んだモノを擦り上げていく。
「ふぅ……ん……はぁ……」
吐息なんてかかるはずないし、ましてや温かさを感じるなんてあるわけないのに、耳から聞こえる振動が、俺の判断能力を低下させていく。まるで催眠術にでもかけられたみたい。
『ここ……好きなんだ?』
耳元で囁かれた俺は、反射的にこくりと頷いた。気持ちいい。自分の手……それよりも拓斗の声が、気持ちいいと感じてしまう。
「ん……はぁ……はぁ……」
超えてはいけない一線だと、それだけはなんとか理解しているはずなのに、意識すればするほど、体は熱を帯びてゆく。
『はぁ……ん……』
「んんっ……ぅん……」
いつしか拓斗の呼吸も荒くなっていた。同調するように、俺の呼吸も荒くなる。
「はぁ……はぁっ……くぅ……んんっ!」
とうとう溜まった欲望を解放させた俺は、脱力状態で、いまだ続くサクラの声を全身で感じた。
『ん……はぁ……気持ちよかった?』
気持ちよかった。こんな快感は、いままで経験したことがない。
『俺も、よかったぁ……。明日もまた、来ちゃおうかな』
明日もまた、気持ちよくなれる。
『それじゃあ、おやすみ』
無音になったイヤホンを外すこともなく、俺はしばらく余韻に浸った。
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