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◎二年目、一二月の章
■ライブっていいな
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桐香はメンバーとともにステージへ立つ。
観覧席のあたりから色とりどりのサイリウムライトの灯りがともる。それは決して広くない。湖とでも言うべきか。
その灯りたちが曲と踊りに合わせて波打ち、かけ声が聞こえる。
ふと桐香が横を見るとメンバーたちは笑顔だ。するとメンバーの一人が自分に表情で呼びかけてくる。
――あなたもでしょ。
そうなのだろうか?
するとその音頭の中心にいるであろう久遠が観覧席から目に入る。
――やっぱり君なんだね。
ファンクラブの開設や物販の企画を持ちこんだだけでなく、実行に移すまでに至ったのは久遠の仕業だ。彼はいったい何者かと訊ねてみたが、どこにでもいる普通の一三歳の少年だとうそぶくだけだ。
そしていまはサイリウムライトとかけ声の先導をやっている。
不思議と目が合った気がした。
何だか胸がぼんやりと暖かくなった気がした。
そこでハッとなる。彼だけを見つめていたことがまわりにバレないようにしなければ。
「キリカちゃんだっけ?」
「いまこっち見なかったか?」
こんな声が会場内で囁かれたことが彼女の耳に届くことはなかった。
「いいっすね、晴先輩!」
「なんか前のときよりも臨場感みたいなのが違うよな!」
賢司と晴は互いに意見を言い合う。
前回の時に人数は東方旅団のメンバーくらいのものであったが、それがいま五〇〇人ほどの観客が入っている。それにしてもどうやってこれだけの人数をわずかの期間で集めたのか。
やはり久遠だろうかとふと晴は久遠がいるところへ視線を向ける。
「あいつは何をやろうっていうんだろうなぁ」
たしかなのは久遠と一緒にいると退屈がないということだ。
東方旅団は可愛い女の子も多い。最近はとうとう可愛いNPCまで寮に居候するようになった。
「晴先輩はちなみにあの中だとどの娘が好みなんですか?」
蘭々が棘のある口調で訊ねてくる。
「……そ、それはだな」
蘭々の横には世里もいる。とても答えにくい環境であった。
「先輩もモテモテっすよねぇ」
ムフフと嫌みな笑みを賢司は浮かべる。
「僕は賢司くんもとってもいいと思うよ」
何を思ったのか伊織がフォローをしてくる。ちなみにあの桐香に伊織は絶賛口説かれている。それに対して伊織は自分は男であると主張し固辞し続けている。
ふと壇上から曲が終わり、演者たちは姿をくらませる。だが、これで終ではない。
晴が最初の一声をあげる。
「アンコール!」
すると東方旅団のメンバーもそれに続き、やがては周囲に伝播していく。
ライブはもう少しだけ続くのだ。
観覧席のあたりから色とりどりのサイリウムライトの灯りがともる。それは決して広くない。湖とでも言うべきか。
その灯りたちが曲と踊りに合わせて波打ち、かけ声が聞こえる。
ふと桐香が横を見るとメンバーたちは笑顔だ。するとメンバーの一人が自分に表情で呼びかけてくる。
――あなたもでしょ。
そうなのだろうか?
するとその音頭の中心にいるであろう久遠が観覧席から目に入る。
――やっぱり君なんだね。
ファンクラブの開設や物販の企画を持ちこんだだけでなく、実行に移すまでに至ったのは久遠の仕業だ。彼はいったい何者かと訊ねてみたが、どこにでもいる普通の一三歳の少年だとうそぶくだけだ。
そしていまはサイリウムライトとかけ声の先導をやっている。
不思議と目が合った気がした。
何だか胸がぼんやりと暖かくなった気がした。
そこでハッとなる。彼だけを見つめていたことがまわりにバレないようにしなければ。
「キリカちゃんだっけ?」
「いまこっち見なかったか?」
こんな声が会場内で囁かれたことが彼女の耳に届くことはなかった。
「いいっすね、晴先輩!」
「なんか前のときよりも臨場感みたいなのが違うよな!」
賢司と晴は互いに意見を言い合う。
前回の時に人数は東方旅団のメンバーくらいのものであったが、それがいま五〇〇人ほどの観客が入っている。それにしてもどうやってこれだけの人数をわずかの期間で集めたのか。
やはり久遠だろうかとふと晴は久遠がいるところへ視線を向ける。
「あいつは何をやろうっていうんだろうなぁ」
たしかなのは久遠と一緒にいると退屈がないということだ。
東方旅団は可愛い女の子も多い。最近はとうとう可愛いNPCまで寮に居候するようになった。
「晴先輩はちなみにあの中だとどの娘が好みなんですか?」
蘭々が棘のある口調で訊ねてくる。
「……そ、それはだな」
蘭々の横には世里もいる。とても答えにくい環境であった。
「先輩もモテモテっすよねぇ」
ムフフと嫌みな笑みを賢司は浮かべる。
「僕は賢司くんもとってもいいと思うよ」
何を思ったのか伊織がフォローをしてくる。ちなみにあの桐香に伊織は絶賛口説かれている。それに対して伊織は自分は男であると主張し固辞し続けている。
ふと壇上から曲が終わり、演者たちは姿をくらませる。だが、これで終ではない。
晴が最初の一声をあげる。
「アンコール!」
すると東方旅団のメンバーもそれに続き、やがては周囲に伝播していく。
ライブはもう少しだけ続くのだ。
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