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◎二年目、一二月の章

■いざ千石荘へ

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 千石荘せんごくそう。現在、東京迷宮とうきょうめいきゅうにおける攻略最前線にいる集団であり、クラン間の問題までもあらゆる機転を利かせて解決させていく東方旅団の拠点とされている。

 今年の四月に結成されたばかりで規模は大きくないものの精鋭が集まっていると言われている。

「……誰もいないようね」

 日中、寒空の中はるばると歩いてきたが、寮に人の気配がなかった。

 長い艶やかな黒髪を揺らしながら久瀬桐香くぜきりかは小さく息をつく。

「たしか日中は学校にいることが多いって聞いた気がします」

 たったいま思い出したとばかり玲美は口に出す。

「……そういうのは早く言いなさいな」

 桐香は玲美を睨む。

「うっ。スミマセン……」

 まあまあ鋭い目つきの桐香に睨まれれば玲美も萎縮してしまう。桐香としてはそんなつもりはなかったので不服そうではあったが。

「前に学園祭があったところでいいのよね」

「そのはずです」

 二人はくるりと反転して学校へ向かうことにした。

「それにしてもどうして学校に通ってるのかしら?」

 義務教育を受けだしたという人の話はそれなりに聞くが、それでも学校に通う必要のないことは誰にでもすぐにわかる話であった。

「それこそ直接聞いてみればわかるのでは?」

「……そういう情報収集含めてあなたにやってほしかったんだけどね。古輪久遠ふるわくおんの妹なんて大した肩書きなんだから」

「それはそうなんですけど……」

 そうは言ってもということで、玲美には玲美の事情があったのだ。

「聞けば大手クランの一部はわざわざ身内を東方旅団のクランメンバーにしてパイプを作っているそうじゃない」

「それって私にもそうしろってことですか?」

「あら、やってくれるの?」

 逆に聞き返される。

 玲美はやられたとばかりにふくれっ面になる。

「でも、そうしてくれるなら考えるわよ」

 何がおかしいのか桐香はクスクスと笑う。してやられた気分である。

 千石荘から学校までは徒歩で五分ほどのところにある。

 こんな話でもやっていれば到着はすぐのことだった。
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