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◎二年目、十一月の章

■夜天に舞う

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 海老瀬瀬名えびせせな芦原宗太郎あしはらそうたろうと思わぬ言い争いをしてしまい、それがたまらなくなって外を飛びだした。

 問題は時間で、すでに夜であったことだ。感情的になっている瀬名を呼び戻すために宗太郎も追いかけた。

 結果的に二人は追いかっけっこをするハメになってしまった。気がつけば学園祭が行われる学校の近くまで来ていたというわけだ。

「お互い何やってんだろうね」

 瀬名は肩で息をしながらぜえぜえ言っている。それは宗太郎も同じだった。

「待てって言っても止まらないからだろ」

 そんな二人が異変を感じたのはそれから間もなくのこと。

 あたりはゾワリとした空気感に包まれるととともに、何かに見張られているような感覚に陥る。

 気がつけば二人は東京迷宮にログイン状態であった。

「これが噂に聞く強制ログインゾーンか?」

 ただでさえステータス減退するというのに魔物のパラメーターも上がっているという話である。

「これってひょっとしなくてもまずい?」

 魔物は襲ってくる気配はない。息を潜めて様子を窺っているとばかりに。

「まずいかも」

 瀬名と宗太郎は背中合わせであたりを警戒しはじめる。

「伏せて!」

 別の方向から男の子の声。二人は咄嗟に指示に従った方がいいと頭を下げる。

 と同時に、何かが頭上をかすめていく。

 それは鋭い牙であった。

ぬえだって!?」

 血のように真っ赤に滴らせた感情を感じさせない瞳がなんとも不気味だった。

「鵺っていつも眠たそうにしている雑魚魔物じゃないの?」

 猿の顔に尻尾は蛇。手足は虎。間違いない特徴は一致する。

「日中と夜では魔物の特性が変わることがあるんです」

 片手に刀を構えた少年が説明をする。

「あなたは?」

「僕は古輪久遠といいます」

 その名を聞いて知らない者がいようか。

「あなたが?」

「おそらくその古輪久遠だと思いますよ」

 久遠は照れくさそうに笑う。

 それから式神を取り出して、目の前の鵺に投げつけると同時に自身も走りだす。

 久遠は信じられない速度で鵺と距離を詰めようとする。

 が、しかしである。久遠の頭上から爪の一閃がきらめくと同時に振りおろされる。

「危ない!」
 
 別のところに違う鵺が潜んでいたようだ。久遠からすれば完全な死角である。

 驚くのは久遠の動きである。その動きを読んでいたとばかりに前宙して刀を一閃。

 切り落とされたのは鵺の片手である。

 そこから着地すると正面の鵺に向かって勢いを殺さずに走りこむ。

 その速度はひょっとしたら先ほどよりも上かもしれない。

 式神が着弾すると封縛ふうばくが発動して鵺の動きは止まる。

 その隙に尻尾を切り、続けて右の前足を切り落としながら、最後に首を撥ねる。

「お二人とも僕についてきてください!」

 余韻に浸ることもなく久遠は呼びかける。一方であまりにも軽やかな早業を見せられて呆然としていた瀬名と宗太郎は我に返る。

久遠についていくと無事に強制ログインゾーンを脱出することに成功できたのであった。



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