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◎二年目、八月の章

■東方旅団は乱入する

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 こうして頼果、里奈、焚きつけた久遠。

 三人はグラウンドの真ん中へ向かう。

「何だ? お前らみたいな弱小が出てくるようなところじゃねぇぞ」

 克馬は鬱陶うっとうしいとばかりに追い払おうとする。

 だが、久遠たちはそこから動かない。

「……ひょっとして、我々に挑もうとでも?」

 水呉はあきらかにせせら笑っている。

グラウンドここでの無用な争いごとはやめてください。やめないというならこちらも実力で排除します」

 久遠は高らかに言い放つ。

「……本気かね?」

 水呉の眉がピクリと動く。

「ええ、ケンカ両成敗です」

「舐めた口を聞きやがって……。覚悟はできてるんだろうな?」

 克馬はドスを効かせて声音に迫力をもたせるも、久遠は涼やかな表情のままだ。

「お二人こそ、そんな位置にいて大丈夫ですか? 最初にやられますよ」


 久遠の堂々とした物言いに、むしろ後ろにいる頼果と里奈が顔を引きつらせている。

 完全に挑発している。

「そこまで言うんだ。参加してもらおうじゃないか、第三勢力としてね」

「ぶっ殺す」

 久遠たちに決闘の招待が届く。内容はクラン同士による合戦。

 ルールは時間内までにメンバーが多く残っていた方が勝利。あるいは相手方を全滅させるかのごく単純な内容のものだ。

「里奈、最初に封印するのはこの二人だ。頼果は里奈を守ってやってほしい」

「あなたはどうするの?」

「僕は――」

 久遠は再度言い直す。

「僕はひたすら暴れるだけの簡単なお仕事です」

 久遠、里奈、頼果はログインすると同時にカウントダウンがはじまる。

 それからカウントダウンが終わると同時、里奈が両手から指で石つぶてを発射する。

 石つぶては克馬と水呉に当たる。

 こんなものダメージにならないだろう。石つぶてとは本来相手の注意を逸らすときにもちいる投擲武器だ。

 だが、二人の動きがあきらかに違う。何というか鈍いのだ。

 その間に久遠は雷光のごとく二人へ棍を振り抜きダメージを与える。

 頼果が驚いたのはさらにそこからだ。二人は何とその一撃でHPが瞬時にゼロとなる。

「……何をしたの?」

 頼果は里奈に訊ねる。たしかに二人を仕留めたのは久遠だが、それより以前に里奈が何かを仕込んだに違いない。

「くるわよ」

 だが、里奈は悠長に話している場合じゃないと頼果に注意を促す。

 いきなりクランリーダーがやられたことで周囲は騒然とする。

 だが、それでも戦いははじまったばかりだ。
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