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◎二年目、八月の章

■一同は学校へ行き、頼果もついて行くことになる

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 朝が明けて頼果は意外な光景を見ることになる。

 寮にいたメンバーは全員学校へ行くと言いだしたのだ。

 いま寮にいるのは久遠と頼果だけだ。

「正気なの?」

 頼果はその行為をもっとも恥ずかしくてダサい行為だと教えられたし、実際にそう信じていた。

 故に頼果の言葉はその観点からすれば、至極真っ当なセリフだと言えた。

「学校に通っていれば、生活するための最低限の保証がもらえるんだよ」

 だったらいいではないかと久遠が言う。

 東京に来たら自分の力で生き抜くことこそが至上のはずではなかったのか。

「考え方とか信念て大事でしょ。そんな簡単に曲げられないわ」

「間違っていると思えば考え方なんて変えていいじゃないか。そういうのはブレるって言わないって思うよ」

 じゃあ、そろそろ自分も行くとばかりに久遠は学校へ向かおうとする。

「どうせなら君も行かないかい?」

 ものは試しと頼果を誘ってくる。

「私も?」

 頼果はどうしてといぶかしむような表情になる。

「忙しそうには見えないけど?」

 実際にその通りだったのだが、それを見透かしたような視線を久遠はむけてける。それは頼果からすれば面白くはない。

「ホイホイついていくのはなんかムカつく」

 頼果は正直に伝えることにする。

「別に強要はしないさ」

 この余裕のある対応も癪ではある。

「あなた、いつもそんな感じなの?」

「何さ」

 久遠の眉がピクリと動く。

「友達いなさそう」

 頼果は思わず鼻で笑う。もちろん久遠は見るからに表情を曇らせる。

「君も大概だろ」

「私は君と違って愛想振りまけるのよ。友達一〇〇人なんてワケないわ」

「そんなに作ってどうするんだよ……」

「モノの例えでしょ。バカなの?」

 頼果はきっぱりと言い切る。久遠には特に遠慮する必要がないと判断したからだ。

「それでどうするの?」

 久遠はそれでもと頭を抱えながら聞いてくる。

「そうね。せっかくだし行こうかな」

「決まりだ。行こうか」

 頼果がなんと言おうが、これからやることがないというのも事実だった。寮の中に閉じこもっているのも嫌だった。

 何より頼果はこの久遠という少年のことが気になってしまうのだった。

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