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◎二年目、八月の章
■頼果の事情
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あれから寮生は自室に戻った。談話室にいるのは頼果。それと久遠だ。
二人とも風呂へ入ったりで何だかんだで一時間ほど経過していた。
「何か用なの? 色男」
頼果が皮肉交じりで訊ねる。
「その呼び方はやめてくれよ。確認さ。明日からどうする気なのか」
「とりあえず出てってあげるわよ。里奈って娘の望み通りにね」
「君さえよければ、ここの寮生になるって選択もあるよ」
布団に入ろうとする頼果の手が止まる。
「どういう風の吹きまわし?」
「どうもこうもないだろ。そういう選択もあるってだけさ」
久遠はコップに注がれたお茶に一口つける。その際に頼果と目線を合わせようとしない。思わせぶりな態度だ。
「何か厄介な事情を抱えているようだけどさ」
そこまで勘付かれていたかと頼果は久遠へ警戒の視線を向ける。
「落ち着きなよ。別に深入りしようとは思ってないからさ」
「わかっていて、ここまで連れてきたの?」
「君が明日の朝にはここを発って、僕らに迷惑をかけないようにしているくらいには」
久遠の視線は頼果の深いところまで探るように鋭い。
「どうして私を助けたの?」
「君に興味があったから」
「え?」
あれだけ女にちやほやされて、それでまだ自分にまで声をかけようと言うのか。信じられない男だ。
「以前、君とパーティーを組んだだろ」
久遠は頼果の誤解を解こうとしてくる。
「ああ」なるほどと頼果は思った。パーティーを組んだのだからさすがにわかるのか。
「経験値均等付与っていうの」
パーティー内で得た経験値をレベル差に関係なく均等に付与するスキルである。
「つまり高レベルのアバターと低レベルのアバターが組んでも経験値が同じだけもらえるというわけだ」
「そうよ。その代わり攻撃力減退なんてスキルも持っているけどね」
それは敵に与える最終ダメージが三分の一に減退するという効果だ。
これが厄介で頼果がいるおかげでパーティー全体の敵に与えるダメージ総量が減退する。
結果的に討伐にかかる時間が増加する。クランイベントでは時間制限のあるものが多くて、致命的になることがあるのだ。
「それで、パーティー内ではあんな扱いを?」
「そうよ。私はレベリングには使えるけど、戦力としては見てもらえないの」
ボス戦なんかではお荷物扱いはいつものことだった。
「君はある日、継承装備を誰かから押しつけられたんじゃないかい?」
たしかにそうだった。
東京へ来て右も左もわからないときに明日でこの街を去らないといけないという男に装備を継承させられた。
その装備を翠烏という。
二人とも風呂へ入ったりで何だかんだで一時間ほど経過していた。
「何か用なの? 色男」
頼果が皮肉交じりで訊ねる。
「その呼び方はやめてくれよ。確認さ。明日からどうする気なのか」
「とりあえず出てってあげるわよ。里奈って娘の望み通りにね」
「君さえよければ、ここの寮生になるって選択もあるよ」
布団に入ろうとする頼果の手が止まる。
「どういう風の吹きまわし?」
「どうもこうもないだろ。そういう選択もあるってだけさ」
久遠はコップに注がれたお茶に一口つける。その際に頼果と目線を合わせようとしない。思わせぶりな態度だ。
「何か厄介な事情を抱えているようだけどさ」
そこまで勘付かれていたかと頼果は久遠へ警戒の視線を向ける。
「落ち着きなよ。別に深入りしようとは思ってないからさ」
「わかっていて、ここまで連れてきたの?」
「君が明日の朝にはここを発って、僕らに迷惑をかけないようにしているくらいには」
久遠の視線は頼果の深いところまで探るように鋭い。
「どうして私を助けたの?」
「君に興味があったから」
「え?」
あれだけ女にちやほやされて、それでまだ自分にまで声をかけようと言うのか。信じられない男だ。
「以前、君とパーティーを組んだだろ」
久遠は頼果の誤解を解こうとしてくる。
「ああ」なるほどと頼果は思った。パーティーを組んだのだからさすがにわかるのか。
「経験値均等付与っていうの」
パーティー内で得た経験値をレベル差に関係なく均等に付与するスキルである。
「つまり高レベルのアバターと低レベルのアバターが組んでも経験値が同じだけもらえるというわけだ」
「そうよ。その代わり攻撃力減退なんてスキルも持っているけどね」
それは敵に与える最終ダメージが三分の一に減退するという効果だ。
これが厄介で頼果がいるおかげでパーティー全体の敵に与えるダメージ総量が減退する。
結果的に討伐にかかる時間が増加する。クランイベントでは時間制限のあるものが多くて、致命的になることがあるのだ。
「それで、パーティー内ではあんな扱いを?」
「そうよ。私はレベリングには使えるけど、戦力としては見てもらえないの」
ボス戦なんかではお荷物扱いはいつものことだった。
「君はある日、継承装備を誰かから押しつけられたんじゃないかい?」
たしかにそうだった。
東京へ来て右も左もわからないときに明日でこの街を去らないといけないという男に装備を継承させられた。
その装備を翠烏という。
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