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◎二年目、七月の章

■思い出作りはダンジョン攻略

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 ビッグサイトの魔物。蜘蛛くもの姿をしていると言われている。かなりの強敵だという。

 浩和はその魔物の姿を伊織と一緒に一目見たいのだという。

 由芽たちもその道中でレベリングをしながらということであればという条件で同行することにした。

 構成としては久遠と浩和がパーティーを組んで、由芽、圭都、伊織が三人で組み、レイドを結成する。

 これは二つ以上のパーティーが共同体として協定を結び結束するという趣旨で作られたシステムで、戦闘で得られる資金や経験値の配分割合なんかも設定ができる。ただし限度があり九対一でゼロにはできない。

 レベルの高い久遠と浩和が経験値を吸い過ぎてしまうため得られる経験値を極限まで下げる。久遠と浩和にほとんど経験値は入らないが、三人のレベル上げをしっかりやろうということだった。

「久遠くんはどうやってそこまでレベルが上げたんだい?」

「まあ、いろいろありまして」

 最上期生の浩和よりも遥かにレベルが高いというのだから驚かれるのも無理はない。

 むしろ久遠が無名のプレイヤーであることが由芽からすれば驚きなのだ。

 浩和も久遠が口を濁したのを見て、それ以上の追求をしなかった。

「ボス戦ではさすがにパーティーを統合したほうがいいかな」

 話題を変えて別の相談を持ちかける。なかなかできた人だと由芽は思った。

「強いんですか?」

「普通は中堅以上で固めて挑むんだ」

 久遠と浩和がいなければとてもではないが挑めたものではないと暗に伝えていた。

「危なくなればログアウトできるんだ。無理はやめよう」

 浩和はニッコリ笑う。そういえば強制ログインゾーンに放りこまれる事が多かったせいか、本来の仕様をあらためて由芽は思い出す。

「そ、そうですよね」

 あははと由芽は白々しく笑った。それの意図するところを浩和は察してくれたのだろうか。

「伊織は新人だから。危なくなったらすぐにログアウトしよう」

 一同は頷きあい施設へ足を踏みこませる。

「久遠くんがいれば問題ないよね」

「そうとも限らないよ。里奈がいないからスキル封印ができない。だから倒すのにも時間がかかる」

 だから慢心しないことだと由芽に注意を促す。レベルが全員バラバラなので決してバランスのとれたパーティーとは言いがたい。

 役割とか以前の問題になるだろう。

 野良パーティーのダンジョン攻略がはじまろうとしていた。

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