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◎二年目、六月の章

■去り行くは少女の跡

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 電車の駅のホームにいたのは真鈴と久遠の二人だけだ。

「もう少し期間はあるんですよね?」

 まだ帰るには時期が早くないかという久遠からの問いである。

「お母さんに連絡しちゃったしね」

 三人がけのベンチの真ん中を空けて二人は座っていた。

「これからどうするんですか?」

「気になるんなら一緒に来る?」

 久遠はその呼びかけに対して真剣に悩んでいる風だった。

 ――かわいいね。

 でも、この少年は来ない。何となくここ数日で確信したことだ。

「冗談だよ。一八歳だからね。いい大人になるってこと。わかってるつもり」

 これで言いたいことは伝わったろうか。久遠の顔を見てもそれはわからない。

「あの……いいですか?」

 久遠は真顔で真鈴を見つめてくる。彼がいままで見せたことのない決意を秘めた目だ。

「なに?」

 男の子がこんな表情をするときは決まっている。

「真鈴さんとはいろいろありましたけど、でも、嫌じゃなかった。不思議と楽しいと思う自分がいます」

 まわりくどいなと真鈴の口元だけが少しあがる。

「唐突かもしれませんけど、僕は真鈴さんが好きです。もちろん一人の女性として、です。だから……」

 久遠は言葉を徐々に詰まらせていく。

 真鈴は昨晩、自分が何をしてきたかを伝えた。それでも彼は真鈴という存在を見てくれる。それだけで胸のつっかえが取れた気分だ。

 さて、そんな自分はそんな彼をどういう表情で見ているだろうか。……笑顔を作れているだろうか。

「よく言えました。君はえらいよ」

 真鈴は久遠の頭を撫でる。

「あのさ。クイーン・ナイツっていう私が以前所属していたクランに山入端圭都やまのはけいとっていう、君と同じ十一期生のがいるんだ。そのに伝えてほしいんだ。私は地元に帰ったって」

 真鈴が立ちあがると同時に電車がやってくる。

 電車が停車して扉が開く。

 真鈴は振り返らない。振り返るわけにはいかない。彼の前ではお姉さんでいようと決めていたからだ。

「……久遠くん、ゴメン」

 真鈴はそれだけ言い残して電車へ乗りこむ。

 電車は久遠の返事も待たずに発車する。

 だだっ広い電車の車内に人気はなく座り放題だ。

 端の席に体を預けると真鈴の頬に絶え間なく涙の粒が流れていく。

「ゴメンね。……ゴメンね、私」

 真鈴はお腹少し押さえた。

 数日前まではさっさと出て行ってやると思っていた東京は久遠との出会いで一気に華やいだ。

 いまはその瞬間ときがあまりに愛おしい。

 だが、少女の時間は間もなく終わるのもわかってしまった。

 彼女の大事なものを東京に置いたまま電車は走り続ける。

 少女である自分と初恋を――。

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