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◎二年目、六月の章

■晴は明里に報告しておくことにした

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 晴に帰ってくると足は談話室へ向かう。そこには明里あかりがソファーに寝そべっている。

 なぜかかなりの確率でこの姿を見ているような気がすると晴は感じていた。

「明里さん、ちょっといいですか?」

 晴が話しかけると明里は起きあがって隣に座るよう促す。

 晴は久遠に出会った話をする。

「宇佐真鈴……聞いたことある名前だね」

 ただすぐには出てこないということだった。

「男連中が休みのときどう過ごしているんだって話になってさ。そしたらクイーン・ナイツってクランが面白いってね」

 ほとんどクランメンバーは女の子らしく、ホテルの一室を女の子に住まわせている。

 女の子のいる部屋にやってきた客を連れて行く。当然、客はその前にお金を払うということだ。

 そこで何をしているのかは敢えて晴は聞かない。

「やたら美人がいるって話でさ。それがその宇佐真鈴だったかな。でも、ちょっと前にクランを抜けたってそいつは残念がってたね」

「クランもいろいろあるんすね」

「東京迷宮のゲーム性が合わないってヤツはいくらでもいるよ」

 明里がしれっと言うのはその光景をいくらでも見てきたということだろう。

「久遠とその真鈴って人どう思います?」

「どう思うったってね……。お互いで決めることだしね」

 こちらがどうこう首を突っこむようなことでもないというのが明里の意見だろう。

 それについては晴も全面的に同意するところだ。

「ま、最悪戻ってこない可能性も出てきたわけだ」

 それは久遠がということだ。

「そのパターンだと久遠が騙されてません?」

「そうかい? 久遠て独特の雰囲気じゃない」

 それに惹かれるという女性が一定数いても不思議でもない。

「というか、あんたの話を聞くかぎり惚れてんのは女のほうじゃないか」

「そりゃまあ……」

 そういう見方もあるというかという返答をついしてしまう。あの美人が久遠に惚れている事実に確証が持てないためだ。

「あたしは晴の見立てをアテにするよ。こういうのは直感的なものを信じた方がいい」

 それで真鈴が久遠を振り向かせた場合どうなるんだ?

 その疑問に答えてくれそうな人はまわりにいなかった。
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