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◎二年目、五月の章

■ゲームは後まわし。いまは人命こそ優先である。

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 里奈たち四人は強制ログインゾーンが消失していることに気がつき一斉にログアウトして停車しているタクシーへ向かう。

「里奈、明里さんたちとタクシーを確認しておいて。僕は先に病院へ入ってるから」

「どうするの?」

「一刻を争うんだからさ」

 そう言って病院の中へ走って入ってしまう。

 もう少し説明してから行けよと言いたくなるが、由芽たちが心配でもあった。

「由芽、大丈夫だった?」

 タクシーの外が無事であると確認した由芽と晴が車外へ出てくる。

「どうしてゾーンが消えているの?」

 由芽は驚いているようだった。

「その話はあとにしようぜ。いまは姉貴を何とかしないと――」

 そうだったと由芽はハッとする。

「光さん、動けそう?」

 里奈はタクシーの中にいる光を覗きこみながら訊ねる。

「ちょっと無理そうかも……」

 額からは脂汗。息もひいひい悶え絶え絶えである。

「どうしよう……」

 このまま抱きあげて行くのがいいのだろうか里奈は判断がつかない。それは年上である明里や晴も同じようだった。

 そうこうしていると病院の玄関自動ドアが開くと、大仰な自動で移動するベッドを久遠が引き連れて現れる。

 ベッドにはカメラ付きのディスプレイがついていて、そこにはメガネをかけた男性の姿があった。

 白衣を着ているので医師と思って間違いないだろう。

『これは大変だ。すぐに連れて行こう』

 ベッドからアームが伸びると光を抱きかかえてベッドに寝かす。

『ここにいる身内は弟さんだけだったね。君は私と一緒に来てくれるかな』

 どう答えてやらと晴は黙って頷くだけだ。

晴は光のあとを追う形で病院へ入っていく。里奈たちを含めた残された五人も病院内で待つことにする。

「とりあえずやれやれってことでいいのかい?」

 明里は久遠に顔を向ける。

「ええ。ここからは僕らにできることはありません」

 五人は病院内の待合にある長椅子に掛ける。一様に体勢は違うものの、ぐったりとしている。

 今日はいろいろあった。里奈はしみじみと感じ入るのである。
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