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◎二年目、五月の章

■由芽と晴は光をタクシーで病院へ連れて行くことになる。しかしそれは……

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 病院へ連絡を入れると答えは単純明快。産気づいた可能性があるから、すぐに病院へ連れてこいとのことだった。

 そこでタクシーを呼ぶと光を連れて、由芽と晴は一足先に病院へ向かうことになった。

「僕たちもすぐに後を追うから」

 久遠はそう言って三人を送りだした。

「晴先輩、こういうときどうすればいいんでしょうか?」

 苦しそうにしている光を横にして、何もできない自分がいる。そんな自分の存在がもどかしかった。

「悪いが、それについては俺も一緒なんだよ」

 だから助言はできないと突っぱねられた。晴も光から目を離そうとしない。どう声をかけていいかわからないのかもしれない。

「……由芽ちゃん、手を握ってもらえるかな?」

 光は脂汗をかきながら朦朧もうろうとした表情になりながらも小声で話しかけてくる。

 本当にこんなことでいいんだろうかと由芽は戸惑いつつ晴の顔を覗く。

 すると晴は真顔で頷く。光の言うとおりにしてやってくれということだった。

「もう少しで病院に着きますから」

 光は弱々しいながらも由芽の手を握りかえしてきた。

 だが、次の瞬間に由芽は悪寒のようなものに襲われることになる。

 それは晴と光も同様のようで、あからさまに凍りついたような表情になっている。

「気のせいじゃないのか?」

 晴は由芽に訊ねてくる。由芽はゆっくり口元を横に結んだまま頷く。

 由芽は知っていた。この空気を。

「久遠くんに連絡を入れます」

 タクシーはもう間もなく病院へ到着しようとしていた。

『由芽、何かあったのかい?』

 久遠くんに繋がる。

「久遠くん、病院のまわりが強制ログインゾーンになってるの!」
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