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◎二年目、五月の章

■晴の話は姉のことで困っているということだった

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 屋内ラウンジの丸テーブルに里奈と晴、それから久遠と由芽もいた。

 お互い自己紹介もそこそこに晴が話をはじめる。

「俺は緑葉士団りょくようしだんのメンバーなんだ」

「ランキング上位の大手クランね」

 それくらい里奈ですら知っているようなクラン名であった。

「そこには俺の姉も所属していてな」

 なるほど。晴が話したいこととは姉のことだったのかと里奈はこれまでの彼の態度に納得する。

「その姉貴が妊娠しててな」

 晴は言いにくそうにしゃべる。だが、内容からも当然とも思えた。

「それを私たちにどうしろと?」

 だからといって助けられるようなことでもない。

「いや、妊娠したことをどうこうしてほしいワケじゃない。問題は妊娠を理由に姉貴がクランを除名されたことなんだよ」

「それはクランの方針ですから、僕らにはどうすることもできないと思うんですが」

 ここで久遠が話に入ってくる。

「その通りだ。だからって姉貴を放っておくこともしたくねぇ。何とかしてやりたいんだ」

 里奈は久遠と顔を見合わせる。そして表情だけで会話をはじめる。

 里奈は久遠に「何とかしなさい」と指示を送る。

 そんな里奈に久遠は「どうして僕が?」という表情になる。

「あなた以外にこの場で提案できる人はいないでしょう」と久遠をきつく睨む。

「緑葉士団のリーダーは女性でしたよね。理解は得られなかったのですか?」

 里奈と久遠が火花を散らしている間に由芽が間を持たせるための質問をした。

「リーダーは姉貴と仲もいいんだが、さすがにかばいきれなかったみたいだ」

 という残念な話を聞かされるだけであった。

「それでどうして僕らに助けを?」

 根負けしたのだろう久遠が渋々といった口調で訊ねる。

「いまは何でもいい。わらにもすがりたい気分ってやつでな。正直どうなんだ? 義務教育を受けるメリットみたいなのはあるのか?」

 なるほどそういうことかと里奈は思った。一方で久遠は別の話題を振った。

「とりあえず、お姉さんを産婦人科へ連れて行きましょうか。詳しい話はそれからで」

 もちろん、以降の授業は中断だ。優先すべき事項が増えたためだ。
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