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◎二年目、四月の章

■夜のとばりが降りるとき、それは逢魔が時を意味している。

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 里奈は背中にぞわりとした悪寒のようなものを感じた。この気配を里奈は知っている。

「古輪くん!」

 久遠の名を思わず呼ぶ。久遠はいわずもなが黙ったまま頷く。

 気づけばあたりは夕闇に包まれていた。うかつとしか言いようがない。

「強制ログインゾーンだ。早くここを離れよう」

「あいつらはどうするの?」

 里奈が言ったのは倉部や小岩のことだ。

「構ってる余裕はないかな」

 それについては同意だ。しかし里奈は思ってしまったのだ。

 強制ログインゾーンでHPがゼロになることは何を意味するのだろうと。以前感じた悪い予感が頭から離れず、ずっと警告音を発している。

 同時に彼らを理由はどうあれ放っておくのはまずい気がするのだ。

 しかし、里奈は倉部や小岩より友人である由芽を守ってやりたかった。

「とりあえず公園から出よう」

久遠を先頭に里奈は由芽の手を握って走りだす。

「二人は何ともないの?」

 走りながら由芽が訊ねてくる。

「どういうこと?」

「さっきから体が少しだるい気がするの」

「園部さんのステータスはどうなってる?」

 久遠が問いかける。

「瘴気干渉って出てる。ステータスおよびスキル効果減退するって」

 それが原因なのは間違いないだろう。かなり凶悪なバッドステータス効果だ。

「僕と片岡さんは継承装備のおかげで瘴気の干渉を受けてなかったのか」

「古輪くんも知らなかったの?」

「白状するけど、パーティーを組んだのは片岡さんがはじめてだったんだ」

 つまり他人のステータスを覗いたり、自身と比較する機会があまりなかったということだろう。

「そうなんだ……」

 なんていうかごめんと里奈は口に出さずに謝った。

「ところでいつまで走るの?」

 全速力で走ったためか由芽のペースは落ちつつある。

「ゾーンの範囲はランダム。最悪一キロくらい走らされるときがある」

「そ、そんなぁ……」

 由芽は嘆くように声をあげた。

「戦闘は最小限に抑えたい。急ごう」
 
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