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◎二年目、四月の章

■彼らはようやく会話をはじめる

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 里奈がトイレから出てくると、例の男の子が立っていた。

 右手に紙片を持っている。里奈は自分に用ではないだろうと決めつけて、その場を去ろうとする。

「待って」

 里奈は自分が話しかけられたことに戸惑った。彼女は半年以上も誰ともロクに会話をしていない。

 不思議とこの声には聞き覚えがあった。

「……何?」

 最後に声を発したのはいつだっただろうか。声がちゃんと出ているのか心配だった。

「君が落とした物じゃないかと思って」

 男の子が紙片を差し出してくる。

「どうして私のだと?」

「ここには君と僕しかいないから」

 つまり自分の物でないから里奈の物だろうと考えたということだろうか。

 その紙片は翔が里奈をクランから追放した際に渡されたものだった。

 まだ、そんな物があったのか。
 まだ、捨てずに持っていたのか。

 我ながら未練がましいことだと里奈は自嘲する。

「……捨ててもらっていいから」

 里奈は男の子の横をすり抜けようとする。それに男の子は里奈の左腕を掴んで制止してくる。

「……離して」

「捨てていいのなら、どうして君は泣いているんだ?」

 その問いに里奈は何も言い返せなかった。その通りだったからだ。

「片岡里奈さんでよかったよね。失礼だと思ったけど、紙片に書かれている内容を読ませてもらった」

 里奈は男の子が自分の名前を知っていることに驚いた。

「いいわよ。私なんか読んですらいないから」

「そうだろうね。君は毎日をつまらなさそうに過ごしているようにある」

「それと紙っぴらに何の関係があるっていうの?」

「それは君が読んで確かめるべきだと思う」

 男の子は紙片を再度差し出してくる。

 里奈はため息を一度ついて、紙片を受け取る。

「そろそろ手を離して。結構、痛いんだから」

 男の子は「ごめん」と言ってから手を離す。

「ちょっと付き合いなさいよ。もちろん、あんたのおごりよ」

「授業は?」

「サボるに決まってるでしょ」
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