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アルの魔法屋

アルの魔法屋

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 はい、いらっしゃいお嬢さん、何を差し上げましょう?
 このアルの店は、何でもある店です。無い物もある店ですがね。

 おや、お嬢さんにはちょっとジョークのランクが高すぎましたか。
 今のは、何でもあると言いつつ、あれも無いこれも無いと言われたら、そりゃ無い物だってありますよと言う……あらら、面白くありませんか?

 そんなに思いつめた顔で探し物では、見つかるものも見つからないってもんですよ。

 え、毒薬ですか。若いお嬢さんが毒薬とは、これまた物騒な。

 あ、いやいや、毒薬を置いてないと言うわけでも、売らないと言うわけでもありませんよ。
 そんな顔でおっしゃる以上は、鼠や虫を殺すと言うわけじゃないんでしょう?

 人を殺そうと言うには、それなりのお覚悟で来られたはず、ウチの店は、どんなお客さんも失望させたことが無いのが自慢なんですよ。

 確実にお相手の息の根を止めるお薬を、ご提供させていただきますとも。

 でも、別に男に袖にされたのを恨みに思って、その男を殺そうなんて陳腐な理由じゃありませんよね?

 よくいらっしゃるんですよ、一時の気の迷いで人生棒に振ってしまう方。

 まあ、ウチの店はそんじょそこらの道具屋じゃありませんから、そういう単純なお客さんには、毒薬よりもこちらの薬をお勧めするんですがね。

 え、これが何かって?

 それがお客さん、驚くなかれ、とある魔法使いが自分のために調合したと言われる、幻の惚れ薬なんですよ。

 齢千歳を越えようって魔法使いが、十六の娘と結ばれて、その後六人の子宝に恵まれたと言うくらいだから、もう買って試してみるしかありませんよねぇ。

 これのお蔭で元のさやに戻ったって方もいれば、もっといい男を捕まえたって方もいますから。

 はぁ?
 私の早とちり?

 人を殺そうなんて気は毛頭なくって、ネコイラズを買いに来られただけですか?

 こりゃ失礼しました。
 ええ、ネコイラズのついでに、この惚れ薬もお買い上げで。はいはい、今すぐお包みしますよ。こっちの粉末が惚れ薬で、丸薬がネコイラズですからお間違いのないように。
 はい、毎度あり。


 おや、ダンナ聞いてらっしゃったんですかい?

 野暮なことは、言いっこなしですよ。あの可愛らしい娘さんだって、人生を棒に振るには、若すぎるってもんでしょう?

 おまけに、あの惚れ薬の方が、毒薬よりも利幅がいいんですよ。私がそんなお人よしに見えますか?

 ホントに効くのかって?
 そんな人聞きの悪いことを、大きな声でおっしゃらないで下さいよ。

 効きますよ。
 効きますとも。
 現に、魔法使いがあの薬のお陰で子供を六人ももうけたのは、ホントの話ですからね。

 あんな可愛い娘の手料理を、差し向かいで食べようなんて男に、そもそもその気がないなんてことが、あるわきゃないでしょう?

 どんな料理も、あの薬を入れた段階で、かなりひどい味になりますからねぇ。それでも平らげることができるんなら、その男は、きっとあの娘を幸せにしてくれるでしょうよ。それを、ちょいとあの薬が、後押しをするだけのことでさぁ。

 そして、その評判を聞いた別の若い娘が、またウチに惚れ薬を買いに来る。

 ね、いい話でござんしょう?

 で、今日はどんなご用で?

 いやですよ。ダンナが黙ったままでニヤニヤする時は、ロクなことになった試しがないんだから。

 当てましょうか?
 前の発掘で出た物をここに売りに来た、と見せかけて私に目利きだけさせようって魂胆でしょ?

 もう同じ手には、ひっかかりませんぜ。

 鑑定なら鑑定だけで、ちゃんとお代をいただかないと、こっちも商売でござんすからねぇ。

 で、値踏みだけなら銀貨十枚、きちんとした鑑定なら銀貨五十枚、もちろんウチで買取させていただけるなら、鑑定料はタダにさせていただきますが、どうなさいます? 

 物も見ない内から高いって、ダンナ、あっしも伊達にこの稼業をやって来た訳じゃござんせんよ。鑑定させたいのは、その腰に佩いたご立派な剣でござんしょう?

 なぜ分ったも何も、前に来られた時と違うお持ち物はその剣だけじゃありませんか。
 それに剣の鞘にまで魔法がかかった品とくれば、遺跡からの発掘品、魔法を帯びた道具か魔法で守られた美術品かのどちらかってのが相場でござんしょう。

 では、拝見しましょうか。

 まだぐずぐず言ってるんですか、ダンナ。

 これでもダンナだから、大負けに負けて差し上げてるんですよ。

 ホントなら、こんなヤバそうな品物は、値踏みだけならお断り、鑑定なら銀貨百枚はいただくところだ。

 何がヤバイってこの魔法の気配、十中八、九は呪いの類いだ。

 常連さんのダンナがこの世からいなくなるとあっしも悲しいから、さっさと鑑定して差し上げようって申し上げてるんでござんすよ。

 あっしがダンナを脅して、何の得があるってんです。

 ふむ、こりゃ年代物だ。

 鞘から抜かない内に、これだけの魔力を出してるところを見ると、まず間違いなく呪いがかかってますね。つかには、直接触らない方が良うござんすよ。あっしやダンナのような魔法の品に慣れた人間ならまだしも、抵抗力のない素人なら、剣の呪いに心を乗っ取られるのがオチってとこですかね。

 おい、フィリエ、奥から黒犬獣ブラックハウンドの革を取っとくれ。

 よいっと、ふむ、錆一つない見事な刀身、象嵌も古代の魔法文字、単なる美術品じゃありませんね。

 で、どうします?

 遺跡からの出物の魔剣、即金で買取なら金貨で五百枚、預けていただけるなら三ヶ月の内に金貨二千枚でいかがでしょ?

 即金と預かりの差がありすぎる?

 いやですよ、ダンナ。これだけ強力な古代の呪い、こいつを解ける魔法使いを手配するだけで金貨二百枚はかかるんですぜ。三ヶ月黙って預けていただけるなら、金貨二千五百枚で売ってごらんにいれましょう。
 金貨二百枚だけの投資で済むなら、ウチの取り分は金貨三百枚で充分、残りの金貨二千枚はダンナのもんだ。

 だけど、買取なら合わせて金貨七百枚の投資でござんすからね、運転資金を考えりゃ一月の内に半値の金貨千三百枚ででも売っ払わなきゃ、こっちが店をたたむ羽目になりかねませんや。
 これで利潤は、なんとか金貨六百枚、トントンってところでさぁ。

 なんならウチでお預かりして呪いを解いて、ダンナが自分で売り込みに行かれちゃいかがです。
 まあ、呪いが解けた後なら、ダンナご自身がお使いになるって手もありますしね。
 金貨二百二十枚で、解呪をお引き受け致しますぜ。えぇ、もちろん仲介料二十枚はうちの取り分で。

 もう一日、考えてみられますか?

 それでもよろしゅうござんすよ。
 ただし、解呪料を惜しんで、『学校』に持ち込むのだけはおよしなさい。これだけの品物だ。まず『学校』は自分で買い取ると言い出して、現物を返しちゃくれませんから。モノを向こうの手元に置かれての交渉じゃ、このあっしだって金貨千枚取れるかどうか。
 明日来られるまで、この革はお貸ししときましょう。つかに巻いて紐で縛っておくとようござんすよ。黒犬獣ブラックハウンドの革は魔法や呪いの効果を通しませんからね。



 さて、客も途切れたことだし、昼飯にするか。
 フィリエ、休憩中の札を表に出して、かんぬきを下ろして来い。
 ゼフ、今日も角の婆さんとこのシチューか。たまには、少し工夫しろよ。
 全く、今日はろくな商売になりそうもないな。

 どうした、フィリエ、さっさと食って、母さんの様子を見て来るがいい。

 何だ? 言いたいことがあるなら、言ってみろ。店の小僧に使っちゃいるが、このアル小父おじさんは、お前の死んだ親父おやじ祖父じいさんの友達だ。お前の親代わりのつもりでいるんだぜ。

 親父の形見を売りたい、だと?

 フィリエ、自分で何を言ってるのかわかってるか?

 お前の親父の形見の品は、お前が十五になったら、このアル小父さんがお前に合わせて仕立て直してやると言っておいただろ。

 今でこそ小父さんの店で目利きを覚えさせちゃいるが、お前が親父と同じに十五になったら、親父の仲間だった名のある冒険者に、弟子入りできるように取り計らってやると前々から言ってあるだろう。お前の親父は、冒険者になった時にお前の祖父さんから、あれを受け継いだ。

 小父さんはな、お前の親父の代わりにお前が冒険者になる時に、きちんと受け継がせてやるつもりなんだ。

 あの武器も防具も、そんじょそこらに転がってるような代物じゃない。この店に並べたって、王侯貴族か『学校』か、名の知れた魔物狩人や冒険者にしか手が届かない値打ち物なんだぞ。

 弟子入りして修業した上で、自分が冒険者に向かないと思うなら、その時はこのアル小父さんが、高値で誰かに売りつけてやる。

 だが、今はダメだ。小父さんは、死んだお前の親父に、お前を一人前にすると約束したんだ。
 お前は、親父や祖父さんを超える冒険者にきっとなれる。なれなかったとしても、小父さんが目利きのできる道具屋にしてやる。

 将来、ゼフの商売敵になるかも知れねえが、お前が道具屋を開けるのは冒険者を引退した後のことにしても十年以上は先の話だ。
 今年の内には、ゼフも店を開くから、その頃にゃ店を大きくしてるだろうし、お前が道具屋になっても、追いつくのはもっと先の話だろうがな。

 小父さんトコで修業した道具屋は、みんな繁盛してるんだぜ。このリンデンの普通の道具屋の半分は小父さんの弟子だし、魔法道具を扱える店は一軒を除いてみんな小父さんの弟子だ。

 ゼフも、一昨年の『学校』の試験に通って魔法使いになれてりゃ、魔法道具も扱えたんだが。まあ、魔法の品の商談が入れば、こっちにまわしてくれりゃいいだけのことだからな。ゼフがここで店を開くなら、一年後にはリンデンで十指に入る店になるだろうし、田舎に帰って開業するなら町一番の店になってるだろうさ。

 なんだ、ゼフ。そんな話聞いてない?
 言ってなかったっけ?
 まあ、横から口を挟むな。

 ええっと、どこまで話したかな。
 母さんの具合が、また悪いのか?
 フィリエ、そういう時は形見をどうこうじゃなくて、金が要るからどうしましょうって話だろう?
 あれを売らなきゃいけないほどの、大金が要るのか?

 あの藪医者め、腕はたいしたこと無いくせに、金にも汚いんじゃ、救いようがないな。
 しょうがない。金の心配はするな、フィリエ。ホントはお前が一人前になるまで教えたくなかったが、お前の親父のコネを使おう。小父さんもお前も金を使わずに、母さんをもっといい医者にみせられるからな。小父さんが手紙を書く間に飯を食っちまえ。

 ゼフ、お前も飯を済ませとけよ。フィリエについて行ってもらうからな。乗り込む先に、後見人が要る。

 フィリエ、お前に冒険者の口上の仕方を、九通り教えたのを覚えてるか。その内の、上流階級になめられないための口上、だ。一番難しいヤツだぞ。

 冒険者が、貴族や魔法使いに自分を高く売り込む時の口上でもある。相手は魔法使い様だが、びびることはねえ。お前の祖父じいさんも親父も、この魔法使いのために働いたことがある。
 ちっとばかり恩を返してもらうだけだし、お前も将来冒険者になって役に立つから、今の内に投資しといた方がいいぞ、と思わせるんだ。いいな?

 ゼフ、フィリエの口上を使用人がまともに取り次がないようなら、アルの店の仲介を軽んじられるなら、今後のお取引はできかねます、とご当主様にお伝えください、と言ってこい。

 主人に叱られるのは、その使用人の方だ。
 
 宮廷魔術師にとって、『学校』に内緒で使える冒険者や魔法道具屋は何より貴重だ。ウチを敵に回したら、リンデンで使える道具屋はいなくなるからな。

 魔法道具屋で、ウチの息のかかってない店があるのかって?
 そんな店がリンデンにあるわきゃねえだろう。さっきもフィリエに言っただろうが、一軒を除いてみんな俺の弟子だって。
 もちろん、除いた一軒はウチのことだよ。俺は、俺の弟子じゃないからな。

 それから、万が一にもありえねえことだが、宮廷魔術師様が援助を渋ったりした時は、フィリエの親父と祖父さんが東マレルの一件でお役に立ったのをお忘れか、と言え。

 意味ありげに、ニッコリと笑えよ。中身は知らなくていい。何を言われても、とぼけとけ。その方が効果的だ。

 魔法使い相手にハッタリが効かせられれば、お前も一人前だぞ、ゼフ。

 うまく行ったら、フィリエは魔法使い様に任せて、今日はお前も店に帰らなくていい。
 どうも、さっきから店の前をチョロチョロしてるヤツが気になる。ヤバイ客かも知れん。俺一人なら、なんとでもなるからな。
 時間が空いたら、角の婆さんの店にでも行って、孫娘を嫁にもらう算段でもつけて来い。

 店を出そうってのに、一人身でってわけにも行くまい。
 まさか、このマズくはないが、大してウマくもないシチューを毎日食わされてて、俺が気づいてないとでも思ってたわけじゃなかろうな?



 よぉ、いらっしゃい。
 おいおい、いい客は、いきなり店主に刃物を突きつけたりしないもんだよ。
 しかも、とても値をつけて引き取れるような代物じゃないときてる。
 お前さんたち、道具屋をバカにしてるだろう?

 『動くな』どうだ? 足が今の位置から動かせないだろう?

 人を斬って、手入れもしなけりゃ、目には見えなくても、すぐに傷むもんだ。剣の値打ちは、下がる一方なんだがなぁ。

 まぁ、三人も若いのが居て、誰一人としてウチの店を襲う計画に異議を唱えなかったのなら、お前さんら三人の知恵をかき集めても、ウチの小僧一人分の知恵にも満たない程度ってことだから、言っても無駄だろうがな。

 ああ、今言ったことがわかりにくかっただろうから、言い直してやるが、お前らバカだろって尋ねたんだよ。

 どうした? 切っ先が俺の喉にちっとも食い込まないぞ、力入れてるか?
 これが『守殻』の呪文だ。魔法使いの肉体は、魔法で守られるが、それを強めると、こうなる。

 そして『燃』だ。
 そんな安物の戦斧の柄など、今見た通り一瞬で消し炭だし、それ、そっちは『燃身』だ。
 刀身にかけただけで柄を握った手が火傷するほど熱かっただろう?
 そして次が『燃増魔』だ。
 おお、素早いな、見直したよ。
 前に私が『燃増魔』を見せてやった奴は、熔けた剣で手首ごと無くしたからな。よく剣が熔けきる前に、つかから手を離せたよ。

 さっきまでの威勢のよさはどこへ行った? 

 大方、魔法の道具は高値だから仕入れの金もたんまりあるし、魔法の品もかっさらって叩き売ろうと思ってのことだろうが、そいつは大当たりだ。

 金貨で千枚はいつでも用意してあるし、奥に並んでる魔法の剣一本でも、お前らが半年は遊んで暮らせる金額だぞ。
 だが、それなのに本職の盗賊がなぜウチを襲わないのか、わかるか?
 ま、わからないからこうなったんだろうがな。

 お前ら、ここで奪ったモノを、どこに売る気だった?
 ウチから盗まれたものを買い取る道具屋は、表だろうと裏だろうと、どこにもないんだよ。ウチを敵に回したい道具屋は、リンデンはおろか、この国中には一軒も、な。

 おまけに、盗みに入る時には、こうして魔法使いを敵に回す羽目にもなる。

 引き合わないんだよ。
 まともな頭の奴なら、そう考えるものなのさ。魔法の道具の目利きは魔法使いにしかできないから、魔法の道具屋の主は、必ず魔法使いだ。
 まともな魔法使いになれなかった奴が、なるものだがな。それでも、一通りの魔法は、充分使えるんだよ。

 魔法使いは、魔法使いにしか殺せない、と聞いたことはないか?
 お前らのような裏稼業の者なら、知っておかなくちゃならないことだ。
 自分の命にかかわることだから、な。

 心から、かわいそうに思うよ。
 だが、こちらも商売だ。舐められては、やって行けない。
 どうせ、盗賊ギルドにも筋を通していない、モグリの類だろう。三つの内から、選ばせてやる。
 このまま盗賊ギルドに引き渡されてギルドから私刑を受けるか、司直の手に委ねられて刑罰を受けるか、私に呪いをかけられて一生を生きるかだ。

 まぁ、どれも選ばずに、ウチの店の床に足が貼り付いたこの状態で、一生過ごすという手もあるが、それはウチに迷惑がかかるからやめてもらおう。

 どうした? 選ばないなら手間がかからないから、私の呪いを受けて、さっさと引き上げてもらおうか。これは一度試してみようと思ってたヤツだ。

『聞け、魔法使いの威を貶めんと試みた者よ。汝らはこれより命令されし時には常にその命に反逆し、懇願されし時には常にその願いを全力でかなえることとなる。汝ら自身をもって、魔法使いの威を示すがよい』

 さあ、次のお客さんが来るんで、速やかにお帰り願えますかな?

 よくもまあ、今日に限って変な客が多いこと 。ヤバイ客が来るかも知れないって時に、チンケな強盗まで来やがるとはな。
 最近の俺の行いが悪い、とでも言うのかねェ、全く。



 いらっしゃい。待ってたよ。
 どうぞ遠慮はいらない、小僧どもは使いに出してあるし、今結界を張ったから、他の客も入って来やしないからね。
 あんた若く見えるが、冒険者かね?

 昼前からずっと、ウチの店に入ろうか入るまいか、迷ってただろう?

 ウチでしか引き取れない品物を持って来たね?

 よその道具屋では、表でも裏でも引き取ってくれない物だろう?

 さあその包みを出しな。手に入れた時からこの長さだったのかい?
 運がよかったね。ウィザードスタッフは自由に大きさが変えられるから、普通に魔法使いが持ってる状態で手に入れると、かさばるし目立つからな。
 仲間に魔法使いはいないのかい? 魔法使いなら、このウィザードスタッフの魔力を自分のものにできるから売りに出す必要は無いからな。
 ふむ、これはかなりの魔力が充填されている。
 なるほど国土の外で探検をしていた魔法使いのものか。
 しかし、惨いことをしたもんだな。騙まし討ちで殺して、身包み剥ぐとは。
 何故わかるのかって? 私だって魔法使いなんだよ。
 ウィザードスタッフに残った、想いの断片くらいはわかる。国土の外を探検する者なら、さぞかし珍しい発掘品をたくさん抱えてたことだろうな。

 魔法使いは魔法使いにしか殺せない、と言うのが正確な表現ではないことは知ってるな?
 正確には、魔法使いは魔法を使うものにしか殺せない、だ。強い魔力を持った魔物に襲われたり、魔法の武器で斬りつけられれば、魔法使いも負傷するし、死ぬ。
 だが、それを一般人に知られるのを『学校』は嫌うんだよ。
 だから、私が、ここにこの国でただ一軒、ウィザードスタッフを買い取る店を開いてるのさ、魔法使いを殺した者たちのためにね。
 魔法使い達の次に世界の秘密に近い者・冒険者達が、魔法使いを軽んじ、世界の秩序を乱さないために。

 すまないが全員『動くな』

 店の外でこっちの様子を窺っているあんたの仲間にも、乱入されたくはないんでね。

 ウィザードスタッフの買い値は、常に金貨で百と一枚だ。ただ、買い取る時は、必ずあんたらの命を付けてもらうことになっている。魔法使いを殺したあんたら三人のために、金貨が三十四枚入った袋を二つと三十三枚入った袋を一つ用意したよ。

 さあ『聞け、魔法使いを殺した者は、これを持ち帰り一旦分配するが、その最後の者が死ぬまで、この金貨を巡って争う』のさ。

 魔法使いを殺せる程の装備を持ったひとかどの冒険者なら、魔法使いは殺すべきでない、と知っておくべきだったな。

 さて、店主の無駄話は『忘れ』てくれ。

 ほら、お代の金貨百一枚だ。気をつけて帰んなよ。




 はい、いらっしゃいお客さん、何を差し上げましょう?
 このアルの店は、何でもある店です。無い物もある店ですがね。
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