Venus And The SAKURA

モカ☆まった〜り

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貴族領地編

0101 ジョアン・リーズ・ハラン

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 レストランミツヤでバレット国王がミルクティーを一口飲んで玲子に話しかける。

「今日ここに来たのは、オウカさんに会わせて欲しいんだ。」
玲子はいつもの笑顔を崩さずに「急にどうされたのですか?」
「最近、各領土で面白い政治体制が行われていると耳にして、その発足人がオウカさんだというじゃないですか。ですので是非とも話を聞きたいと思いまして。」
「それなら、今から行きますか?」
「頼みます。」
「ちょっと待ってくださいね。今、桜花さんと連絡を取りますから。」

玲子はスマホを取り出し、桜花に連絡を取り始める。

「桜花さんの方からこちらに赴くらしいですよ。なんでも桜花さんの方も、元老院・貴族の皆さんに話があるようで。」
 バレットは不思議そうな顔で首を傾げ、「元老院と貴族?何の話なんだろう。」
「さあ、私にも解りかねますが・・・。」

 そんな話をしていると桜花が姿を現した。
「やあ、久しぶりだね。」と桜花はにこやかに挨拶をする。
「オウカさん、久しぶり!どう?ヒガシムラヤマ領の具合は。」
「ああ、その事で、元老院と貴族の皆さんに話があるんだ。」
「何の話なんですか?」
「それは、またの機会に。それよりも俺に聞きたい事ってなんだ?」
「ああ、各領地で行われている政治体制の事を聞きたいと思って来てもらったんです。」
「あの事か・・・。王都では不向きだと思いますよ。」



「どうしてなんですか?」とバレットは理由を聞きたがっているようだ。
「何でって、狭い領地では民が主役でなので、色々な内容を民衆代表が話し合って決めている。だけど、広い王都では無理があるんだよね。」

 続けて桜花は王都の政治体制にも言及する。
「王都は、元老院や貴族の話し合いの上で王が決めるんでしょう?もし、貴族たちや元老院が裏で根回しをする可能性だってあるしね。ましてや、民衆と同じ立場にない貴族たちに民衆の立場が解っているとは考えずらいんだよね。」

「それを言われると耳が痛いよ。」とバレットは苦笑いをする。
「でも、出来なくもないよ。」桜花は何かを思いついたようだ。
「貴族は貴族同士で話し合って、元老院は元老院で話し合って民衆の代表とバレットが話し合う事は出来る。」
「どういうこと?」
「例えば、バレットが何かの法律を思いついたとする。それをそれぞれで話し合って、最終的に代表同士で話し合うという事かな?これなら、それぞれの意見も出やすくなるし、根回しもしにくくなる。デメリットはひとつ決めるのに時間が掛かるという事だけど。」

「民衆代表ってどうやって決めるのですか?」興味津々でバレットは前のめり。
「そりゃ、選挙しかないよね。」
「センキョ?何でしょうか?それは。」ゼノン司祭が初めて声を出した。

「私が民衆代表をやります!って人が声を上げて、その人が本当に代表に相応しいかどうかを民衆全体で決める事だね。」
「勿論、選ばれた人は元老院・貴族と同じだけ、それ以上の権限と発言権を持つという感じが望ましい。」
「それでは、貴族・元老院が必要ないじゃないですか!」
「そう?色々な祭りごとに一番密着しているのは民衆なんだから、それぐらいの特権は必要だろ?」
「それもそうですね。」と半ば諦めたようにバレットは頷く。
「さらに、商人ギルド、冒険者ギルドの代表も参加してもらう。」
「両ギルドは国に属さないと聞いていますが・・・。」ゼノン司祭はため息交じりに声を漏らす。
「両方とも、戦争などには関与しないという事だから、それ以外は参加してくれると思いますよ。何といっても国の持ち物なんだから。実際に俺の領土では、会議に参加してくれていますよ。」
「・・・なるほど。これは一度持ち帰って考えるとします。」


「それで、オウカさんの話ってなんですか?」
「ああ、協議会を開いて欲しいんだ。」
オウカからの協議会。前回三日三晩、寝ずの会議の事を思い出したのか、バレットの顔が引きつる。
バレットは恐る恐る「協議会の議題はなんですか?」
「ああ、ヒガシムラヤマ領も軌道に乗って来たから、新しい領主に引継ぎをしたいとおもってね!」と桜花はあっさりと言う。
「それは困る!」とバレットは強く反対をした。
「なんでさ、そういう約束だろ?今更なしは困るぜ。」
「ヒガシムラヤマ領はオウカさんあっての発展をしたんだ!そこに新しい貴族が入ってみろ、また悪化するかも知れないんだぞ!」バレットは鼻息が荒い。
「大丈夫だって、その為の政治体制なんだから。」
「どういうことですか?」
「領主に権限はない。全ては民衆が決めるようなシステムにしたからさ。」
「そんな事が出来るのですか?」
「小さい領地ならではだね。これで解ったろ?王都では難しいって事が。」
「勿論、新しい領主は俺が決める。その為に貴族たちに集まってもらう必要があるんだ。」
「なるほど。それならば、緊急協議会を開くことにしましょう。大体二ヶ月後ぐらいで全機族族が集まると思うから、それまで待って下さい。」
「ああ、解ったよ。」

 桜花は転移してヒガシムラヤマ領に帰って行った。


ー***-


 二か月後。
 俺は協議会に参加すべく、王都に戻っていた。
 ヒガシムラヤマ領の新しい領主を決めるためだ。

 今回はスーツではなく、戦闘服のままで参加をする。領地にての俺自身を見てもらうためもあるからだ。

 協議会の題目があらかじめ貴族たちに知れ渡っている為に全員の参加。そりゃそうだ、貴族領で一番の収益を誇っている領地の首領になれるかも知れないと守銭奴達が集まっているのだ。

「今日は私の招集に応えて頂き誠にありがとうございます。」まずは一礼。
「本日の議題は、皆さま知っての通りヒガシムラヤマ領の次期首領をして頂く方を募集したいからです。」俺は、全貴族を見まわしながら大声で言った。

「皆様のご存じの通り、ヒガシムラヤマ領は現在の所、他の領地よりも潤い収益も一番を誇っています。この領地を是非とも収めて頂きたいのです。」

「これ以上の回りくどい言い回しは嫌いですので、我こそはと言う方は名乗り出て貰いたいと思います。」

「是非、私を次期領主に!」「いや、私こそふさわしい!」と貴族全員が声を上げる。

「あ、言い忘れていましたけど、領主のお給料は月に金貨2枚で、会議の決定権もありません。それに収入もきちんと領地の皆さんに解るように貼りだして頂きます。」
「き、金貨2枚・・・。」私腹を肥やしたい貴族たちは皆、声を上げようとはしなかった。

「領地の民を一番に思って行動する。これは領主の当たり前の考えだと思うのですが。誰もいないのですか?」場内は静まり返っている。

「ならば仕方ないですね。領地の民から選ぼうと思います・・・。」そう言いかけた時だった。

「あの、私で良ければその領地で働かせて下さいませんか?」と一人の声が上がった。
「申し訳ない、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「私の名はジョアン・リーズ・ハランと申します。」

 彼の見た目は最近、家督を継いだのだろうか、まだ若く大人しく控え目。ひょろっとした体型に、薄金色の髪に薄い緑色の瞳の青年だった。
「失礼いたしました。それで何故、次期首領に名乗りを上げたのでしょう?」
「私は貴族と云えども、この中で一番貧乏な位にいます。なので、質素な暮らしにはなれています。それに算術にも長けていると自負があります。」

「自分の生活よりも民の事を一番に考えてくれると?」
「もちろんです。戦後のレストランミツヤの皆さんの姿勢に私は感動致しまして、お手伝いもさせて頂いております。」

「周辺には獣人族も沢山いるのですよ。メイドも村人がするのですよ。貴方に決定権はないのですよ。それでもやりたいと?」
「もちろんです。レストランミツヤの方々のお陰で獣人族への理解も深まりました。それに私の屋敷にはメイドらしいメイドはいません。」

「そうですか。では数か月の間、実際に体験してみてください。詰めた話はそれからにしましょう。」
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