復讐の甘い罠

慟哭

最低な気分でホテルを飛び出した。　

（拓馬があんな人やったなんて…）
付き合っていた時はしっかりリードしてくれるところを頼もしいと思っていたのに、今や暴君のような傍若無人な要求を振り回す人になってた。

（まるで…獲物や賞品の様な扱いを受けなならへんやなんて…）
愛してるからとか、好きだからとかじゃなく、ただの債権回収だと、モノのように扱われるなんて。
一条へ戻るタクシーの中で溢れてきそうになる涙を堪える。

（泣いてる暇なんかあれへん…明日からは融資先探さんと…）
それでも言いようがないほど惨めな気持ちになる。
どうでもいい女として抱かれるこの惨めさは、どんな理由をつけても拭えそうになかった。

一条についてから、声をかけてくる従業員をやり過ごして何とか自室まではたどり着いた。
けれどもうあとは立っているのも無理だった。
崩れるようにベッドに突っ伏した。

拓馬とは破局して叶わなかったけれど、結婚する人と愛し合い初めてを迎えようと何となく思っていた。
それが、使い捨ての愛人として初めてを迎える。

今は自分を憎んでいる人と。

溢れてくる涙を堪えていたら、またピロン、とスマホが鳴った。
瑠璃がノロノロと起き上がり、バッグを手繰り寄せる。
バッグからスマホを取り出す。　
画面を開くとまたショートメールで拓馬からだった。

「来月のウィーンフィルの公演に同行して欲しい」
と、書かれていた。
「お断りします」
と、すぐに打ち返した。
そしてスマホを投げつけて荒く息をする。

「愛人やて見せびらかしたいとでも言うんか！！絶対嫌や！約束違反やろ！」
と、思わず叫んだ。
そしてまたベッドに突っ伏した。