48 / 51
救急搬送
光代の手術~頑張って~
しおりを挟む
※血が出てきます。
梨花と光輝はいったん別れた。
梨花は更衣室に行って手術着に着替える必要がある。
手早くすませたつもりでいたが、手術室に入ると自分以外の全員が準備万端であった。
謝りたい気分であったが、無駄に口を開くのを許されないような緊張感があった。部屋の隅まで、器具にぶつからないように慎重に歩いた。
光輝に視線を向けると、患者さんを見つめていた。既に集中しているようだ。
患者さんは若い女性で、名前を橘光代という。光輝の母親である。
今の光輝がどんな気持ちなのか、梨花には想像もつかない。
お母さんが死ぬかもしれないと言っていた。
やれる事をやるしかないとも言っていた。
頑張って、光輝君もお母さんも。
梨花は心の中で祈っていた。
院長が手を動かす。いよいよ手術開始のようだ。
看護師さんが院長に指示されて器具を手渡し、五十嵐が照明の位置を調整する。
光代の頭が開かれる。放っておけば生々しい血が流れ落ちるだろう。
しかし、床にはこぼれていない。
光輝が管で血を吸っていた。ジュルゥルルウゥ、という独特の吸収音が手術室に鳴り響いていた。
梨花の心臓はけたたましく波打つが、手術は淡々と進められている。
ここで、何者かに肩を軽く叩かれた。
振り向けば技師長がいた。
「せっかくの機会だ。手術の事を覚えろ。看護師さんから注射器を受け取れ」
技師長が指さす方向を見ると、照明を調整していた五十嵐が小さな注射器を握っていた。
小指と同じくらいに小さい。
指の震えを抑えながら受け取ってみると、注射器には血が充満している。光代のものに間違いない。
光輝君のお母さんの命が掛かっている。
そう思うと、ずっしりと重く感じた。
「血液ガスをはかる。麻酔を加減する重要な指標になる」
技師長に解説されるが、どこか遠い声に聞こえていた。
注射器を渡すと、技師長が歩きだす。
背の低い冷蔵庫を開けて、手のひらサイズの袋を取り出していた。
袋を開けると、四角く平板な道具が出てくる。中央からやや外れたあたりに穴がある。
技師長は注射器の針を外して、穴に血を入れていた。
血が入った平板を、機械に差し込む。技師長がいろいろ入力をすると、英字の書かれたプリントが出てきた。
「今のところ大丈夫か」
技師長は呟きながら、パソコンに数値を入力していた。
今は大丈夫でも、何か異常があれば言わなければならないだろう。
見逃しがあれば患者さんの命に関わるだろう。
途方のない責任の重さに、梨花は魂が抜けそうな感覚を味わっていた。
「それじゃあ梨花さんもやってみようか」
技師長から軽く言われたが、梨花は両足が震えて動かなかった。
梨花と光輝はいったん別れた。
梨花は更衣室に行って手術着に着替える必要がある。
手早くすませたつもりでいたが、手術室に入ると自分以外の全員が準備万端であった。
謝りたい気分であったが、無駄に口を開くのを許されないような緊張感があった。部屋の隅まで、器具にぶつからないように慎重に歩いた。
光輝に視線を向けると、患者さんを見つめていた。既に集中しているようだ。
患者さんは若い女性で、名前を橘光代という。光輝の母親である。
今の光輝がどんな気持ちなのか、梨花には想像もつかない。
お母さんが死ぬかもしれないと言っていた。
やれる事をやるしかないとも言っていた。
頑張って、光輝君もお母さんも。
梨花は心の中で祈っていた。
院長が手を動かす。いよいよ手術開始のようだ。
看護師さんが院長に指示されて器具を手渡し、五十嵐が照明の位置を調整する。
光代の頭が開かれる。放っておけば生々しい血が流れ落ちるだろう。
しかし、床にはこぼれていない。
光輝が管で血を吸っていた。ジュルゥルルウゥ、という独特の吸収音が手術室に鳴り響いていた。
梨花の心臓はけたたましく波打つが、手術は淡々と進められている。
ここで、何者かに肩を軽く叩かれた。
振り向けば技師長がいた。
「せっかくの機会だ。手術の事を覚えろ。看護師さんから注射器を受け取れ」
技師長が指さす方向を見ると、照明を調整していた五十嵐が小さな注射器を握っていた。
小指と同じくらいに小さい。
指の震えを抑えながら受け取ってみると、注射器には血が充満している。光代のものに間違いない。
光輝君のお母さんの命が掛かっている。
そう思うと、ずっしりと重く感じた。
「血液ガスをはかる。麻酔を加減する重要な指標になる」
技師長に解説されるが、どこか遠い声に聞こえていた。
注射器を渡すと、技師長が歩きだす。
背の低い冷蔵庫を開けて、手のひらサイズの袋を取り出していた。
袋を開けると、四角く平板な道具が出てくる。中央からやや外れたあたりに穴がある。
技師長は注射器の針を外して、穴に血を入れていた。
血が入った平板を、機械に差し込む。技師長がいろいろ入力をすると、英字の書かれたプリントが出てきた。
「今のところ大丈夫か」
技師長は呟きながら、パソコンに数値を入力していた。
今は大丈夫でも、何か異常があれば言わなければならないだろう。
見逃しがあれば患者さんの命に関わるだろう。
途方のない責任の重さに、梨花は魂が抜けそうな感覚を味わっていた。
「それじゃあ梨花さんもやってみようか」
技師長から軽く言われたが、梨花は両足が震えて動かなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
魔女っ子になるのはムリそうなので、幼馴染を魔法使いにします!~処女と童貞の焦らしプレイ~
かみゅG
大衆娯楽
魔女っ子に憧れる小さな女の子がいました。
彼女はずっと魔女っ子になるために頑張ります。
けれど、彼女はいつしか現実を知ってしまいます。
自分が魔女っ子になれないと知ってしまいます。
でも、希望はありました。
男の子なら魔法使いになることができるのです。
彼女は自分の夢を幼馴染に託します。
彼を魔法使いにするために頑張ります。
彼を魔法使いにするためなら手段を選びません。
「ソラの童貞は私が護る! 三十歳になるまで!」
彼を魔法使いにするための彼女の戦いが今始まる!
『ハタオト!~働くオトナの保健室~(産業医と保健師のカルテ)』→“走るオトナの保健室、あなたの会社にもお伺いします。”
かまくらはじめ
経済・企業
現代日本で、今日も一生懸命働いている、「働く大人」の皆様へ。
こちらの小説作品は、働く人の健康を守る医療職、「産業保健師」の足立里菜を主人公にしたヒューマンドラマ小説です。
働いている人の「あるある」や、働くうえでお役に立つかもしれない知識、そして何より、健康や命の大切さを知ってほしくて書きました。恋愛要素もちょっとアリ。基本的には各Episodeで読み切りです。
☆★☆★☆【Episode① 産業保健ってなあに】26歳の看護師、足立里菜。勤め先の病院からクビを宣告されて意気消沈していたところで、地下鉄内で急病人に遭遇……! その人を助けたことがきっかけで、エリートサラリーマン風の医師・産業医の鈴木風寿とペアになって働き始める。初めての出動先は『サクラマス化学株式会社』。ところが訪問初日に、労災と社員のクーデターが発生!?
☆★☆★☆【Episode② 港区ラプソディ】友人のトモコに誘われて、六本木の超高級カラオケに行った里菜。そこで出会ったメンズは、国会議員、会社社長、成功した投資家という豪華メンバー。その後、投資ファンド『ジュリー・マリー・キャピタル』社員のメンタル不調について相談依頼を受け、会社に向かうことに……!
☆★☆★☆【Episode③ 魂の居場所】産業保健師足立里菜、初めての保健指導! でも鈴木先生と訪れた『エイチアイ石鹸株式会社』では、過去に何か事件があったようで……??
☆★☆★☆【Episode④ 最後の一滴】ハウスメーカー『シューシンハウス株式会社』で、アルコール依存症の社員に生活指導とサポートを行うことになった新人産業保健師、足立里菜。でも、思わぬ大失敗をしてしまって、鈴木先生と初めてのケンカに……!!?
できるだけ定期的に更新するよう心掛けます。ご意見・ご感想などがございましたら、是非お気軽にコメント下さい。Twitterもやっています(https://twitter.com/@Goto_Kamakura)。もしもこの作品を好きになって下さったら、「ブックマーク」「レビュー」頂けると泣いて喜びます。
※この物語は完全なるフィクションです。
「カクヨム」「小説家になろう」と重複投稿しています。
各Episodeでいったん完結しますが、連作として【Episode⑩】くらいまで書き続ける予定です。
闘技者と演技者
崎田毅駿
大衆娯楽
国内随一のプロレス団体が更なる集客を見込んで、今一度最強幻想を作らんと思い立った。そこで社長兼エースの道山は前座連中全員参加のガチンコ勝負のトーナメントを発表する。あくまでもプロレスのルールに則った真剣勝負で、優勝した選手には将来のエースの座もあり得るという社長の言葉に参加者は燃えた。そんな一人、若手の小石川拓人はライバルと目す長身・巨漢の宇城宙馬を緒戦の相手に希望する。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
わたしの婚約者は学園の王子さま!
久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。
♡ちゅっぽんCITY♡
x頭金x
大衆娯楽
“旅人”が〈広い世界を見る〉ために訪れた【ちゅっぽんCITY】、そこにはちょっと不思議でエッチな人達が住んでいて、交流する度に”旅人”が下半身と共にちゅっぽんする物語です。
(今までに書いてきたショートショート を混ぜ合わせたりかき混ぜたり出したり入れたりくちゅくちゅしたりして作ってイキます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる