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10. 当主に説明を

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 リュシーはもらった爪をウスターシュへと手渡し、屋敷へ共に帰る事となった。
しかし、リュシーはなぜ二人が父に会いに行くのかがよく分かっていなかった。

(お父様に会いに行くっていうより、寄宿舎で泊まる挨拶って事かしら?)

 そう思いながら。



☆★

「お父様に、お会いになるのですよね?でしたら、呼んで参ります。少しだけお待ち下さい。
オーバン、いる?」

「はい、ここに。」


 屋敷の玄関を入ってすぐ、リュシーはオーバンがいないか聞くと屋敷はそう広くもない為、すぐにオーバンが玄関ホールへとやってきた。

 リュシーの後ろに、玄関のすぐ外に若い男性が二人居たために、オーバンはハッと驚いたが、表情を素早く隠し、リュシーへと近づいた。

「こちら、ウスターシュ=セナンクール様と、エタン=マンドルー様よ。外でお会いしたの。お父様にご挨拶したいのですって。あ、馬をお連れなのよ。」

「分かりました。私、アランブール家の家令でございます、オーバンと申します。ではまず、お二人を応接室へお通し致します。…マルゴ、お二人をお通しして。」

「分かりました。ようこそお出で下さいました。ご案内致します。」

「お連れの馬達は、こちらでお預りします。」

 オーバンは素早く動くと、リュシーが帰って来たと玄関ホールに出迎えに来たマルゴにすぐにそう伝え、自身は二頭の馬を厩へ連れていった。



 リュシーは、着替えをしようと部屋へと一度戻り、素早く着替えるとバルテレミーの部屋へ行き、二人が会いに来たと説明をする。

 その間に、マルゴが二人を応接室へ案内した後、お茶を準備し、もてなしていた。


「私に会いたい?挨拶かな?」

「はい。私にも良く分からないのですけれど…。」

 廊下を、話しながら歩いていたから聞こえたようで、部屋からマリエットが出て来た。

「何事かしら?お客様なの?」

「マリエット。君は部屋に居なさい。」

「あら、どうして?お客様なら私も参ります。」

「いや、いい。何故来たのか分からないのだから。」

 そう言っているとすぐに、応接室の前にたどり着いた。
 リュシーは、バルテレミーを案内したからと、自分も喉が渇いたと調理場へと向かった。




 部屋に入ってすぐにお互いの自己紹介をした後、早速バルテレミーは二人へと話の本題に入る。

「この度は、はるばるこの国境近くまでいらしたとの事、お疲れの事でしょう。お泊まりになられますか。」

「ええ。その事で少し、話をしたくて参りました。申し訳ありませんが、ご当主だけに、したいお話がありますのですがよろしいですか?」

 バルテレミーの後ろにいたマリエットへと姿勢を移し、申し訳無さそうな顔をして言うウスターシュ。

「これはこれは、配慮が足りず申し訳ありません。ほら、先ほども言ったろう。マリエット、部屋に戻っていなさい。」


 そう言われたマリエットは、明らかに憮然とした態度になり、挨拶もそこそこに部屋を辞した。

「申し訳ありません…躾がなっておらず……。」

「いえ。…しかし、なるほどね。では……」

 そう言ったウスターシュは、右手の人差し指を天井に向けてからぐるりと円を描くようにしてから、手のひらを広げてからすぐに握った。

 それを見たバルテレミーは、何か魔術を掛けたのかと思ったが、それを口にする前にウスターシュが説明をし出した。

「先ほども説明しましたが俺は、魔術騎士をしております。今は少しだけ、術式を掛けさせていただきました。これで今からの会話は外には漏れません。
その上で伺います。リュシー嬢は、魔力持ちですね?」

「…それを答えましたら、どうなさるおつもりですか。」


 バルテレミーは途端神妙な面持ちになり、言葉重めに口を開く。


「俺は、リュシー嬢を悪いようには致しません。ただ、彼女と会話した時に先ほど聞きました。弟の為に安定した収入が得られたらと。弟さん想いの優しい女性ですね。
けれど、彼女は、自身が魔力持ちだと気づいておられないのでしょうか。」

「リュシーがそんな事を…しかし……。」

 バルテレミーは、リュシーが何か不思議な力を秘めている事はオーバンとマルゴの報告から聞いていた。そして、リュシーを見守って欲しいと伝えてあったのだ。
だが、リュシーの力は、他の人からみたら単に独り言を言っているようにしか見えない為に、このレスキュン領で静かに暮らしていた方がいいのではないかと思ったのだ。


「俺達は、ただ魔力を持っている人ではなく、な魔力を持っている人を探しています。
我こそは魔力持ちだと自負している者は自分から寄宿学校へ通いますが、たいていの生徒は本来オジュレバン国が求めている力とは全く異なる、を極めたいと切磋琢磨してしまうのです。攻撃系の術式なんて、平和な時世ではそうは必要ありません。
対して特殊魔力持ちはたいてい、世間に埋もれ、隠れて生活されている人も多い。バルテレミー伯爵、あなたのように。」


 そう言われたバルテレミーは、ハッとしてばつが悪そうに頭を掻きつつ、答える。

「…お気づきでしたか。いやはや、ウスターシュ殿には隠し事は無理という事ですな。勝手を言いますが娘を、本当に悪いようにはしませんか?あの子には、ずいぶんと肩身の狭い思いをさせてしまって…」

「あなたもずいぶんと、大変なご苦労をされているのではないですか?まぁ、俺は魔力を持っている事が分かるだけでどのような魔力を持っているかまでは分かりませんが、失礼ですがここの暮らしぶりを見るに…」

「おっしゃる通りです。私は、命ある物を触れてしまうと、その者が少しの間眠りについてしまうのです。それを隠して生きてきました。普段は全く使えない魔力ですから。
しかし、本当に金が必要になった時には、高値で売れる野生動物を獲りに森に入っていました。相手が私を食べようと来た時に触れれば、すぐに眠ってくれますからね。」

「それはまた…素晴らしい魔力では?」

「そうでしょうか。愛する娘を撫でる事もしてやれず、影から見守るしか出来ないのは苦しいものです。」

「…そうですね。では、話を戻しますがリュシー嬢をぜひとも、王宮へお連れしたいのです。俺はまだ二十二歳ですが公爵家の人間でもありますから後見人になもなれます、悪いようにはしません。約束します。」

「そうですか…この田舎街から出て、リュシーが果たして生きづらくないか心配ではありますが、ぜひともよろしくお願いします。」

「ありがとうございます。……それでは、少しだけ、お付き合いを。」


 そう話がまとまると、ウスターシュは両手を胸元に持っていき、二度、大きな音を立てて手を叩いた。
それから、ニヤリと笑ったあと、もう一度、言葉を発した。

「では、バルテレミー伯爵。リュシー嬢を王都へ連れていってもよろしいでしょうか。」

「だ、ダメよ!」

 すると、部屋の扉がぶつかるように開き、マリエットが大きな声を出しながら入ってきた。
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