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9. アオ鷹の爪

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「うーん、なにも聞かないでっていうけど、せめて護衛について行ってもいい?リュシー嬢。」

「ていうか、本当に君は魔力持ちって気づいてないの?ここ、一応〝危ない森〟でしょ?お供も無しで、一人で令嬢がいるっておかしくない?」

「……。」


 途端に俯き、哀しそうな顔をしたリュシーを見たウスターシュは、エタンに注意をして、話を変えた。


「おいエタン!…ごめんね、リュシー嬢。まぁそれは今はいいから、じゃあついて行っていいかな?」

「…ごめんなさい。分かりました。」

 リュシーはそれに対して、言えないのは心苦しいとは思いながらも、きっと話したら話したで気持ち悪いとか言われるのも嫌だと思い、謝罪を口にして、歩き出した。




 リュシーは、アオ鷹の居場所を知っているわけではない。よく、リュシーが呼ぶといつの間にか近くの木に止まってこちらを見下ろし、話しかけてくるが今はどうしようかと迷ってとりあえず森の奥に進み出した。


 と、少し先にアナウサギが飛び出してきた。リュシーはすかさず、声を掛けてみた。


「ねぇ、アオ鷹さんを見かけなかった?」

 そう言うと、アナウサギは立ち止まってリュシーをじっと見つめた。すると、周りには聞こえないがリュシーの頭に直接聞こえてきた。

《見てないわ。私達、姿を見かけたら食べられちゃうかもしれないから怖くて隠れちゃうし。あ、でもこの先でさっき野狐がいたから聞いてみたらどうかしら。野狐から、私逃げて来たのよね。》

「それもそうね。ありがとう。またね。」

《はーい。リュシーも気をつけてね。》


 それを見ていたウスターシュとエタンは、驚いていた。が、リュシーに聞こえないようにボソボソと話している。

「あれは…なんだ?」
「動物と会話をしている?いやそんなまさか。」



 さらに先へ進むと、銀狐が木の実を探していた。

「銀狐さん。アオ鷹さん、知らない?」

 そう声を掛けられた銀狐は、顔を上げるとリュシーに視線を移し、頭に直接話し掛けた。

《なんだ、誰かと思ったらリュシーじゃないか。今日は、連れがいるんだな。んー、今日はここいらじゃ見てないな。あのオヤジ怒らせると食べられちまうかもしれないから怖いんだよな-。でも、リュシーの頼みならちょっと呼んでやるよ。》

コンコーン

 と銀狐は鳴いた。すると、少しして、遠くの方から鳥が飛んできた。

《なんだ。我を呼ぶとは良い度胸じゃないか、狐。》

《ち、違います!リュシーに頼まれたからですよ!決してオヤジさんを呼びつけたわけじゃありませんって!では失礼します!リュシー、またな!》


 そう早口に言うと、銀狐は逃げるように去って行く。
銀狐に呼ばれたアオ鷹は、リュシーを見て、話し掛ける。

《どうした?また何かあったか?》

「あ、アオ鷹さん。あのね、こちらのお二人が、アオ鷹さんの爪が欲しいみたいなの。何度もいただいて申し訳ないのだけど、いただけないかとお願いに来たの。」

《彼ら…ふん。またか。もういらんだろ。我の爪なんて。》

「え?いえ、欲しいって…」

《まぁいい。他でもないリュシーの頼みだから聞いてやる。だが、そいつらに言っておけ。何度も来るな、と。ま、爪自体はすぐ生えてくるけども、奴らが爪切りするのは少々下手くそなんじゃ。》

「分かったわ。痛くしないでって言っておくわね。」

《ちが…!まぁ、良いわ。で?少しでいいんだろ?》

 そう言ったアオ鷹は、爪に自らのくちばしを当ててガリガリと傷を付け、近くにあった石にゴンゴンと爪を当てつけると、少しだけ爪が折れた。

《これでいいか?》

「ありがとう!聞いてみるわ。」

 喜び勇んで振り向いたリュシーは、ウスターシュとエタンのぽかんと口を開けてびっくりしている顔を見て、はっと我に返ると、少し俯き加減で聞いた。

「あの…これじゃダメですか?」

 呆けていたウスターシュは、我に返り声を出す。

「い、いや…すごい!ありがとう、驚いたよ。でも、その鷹、大丈夫なのか?そんな無理矢理爪を削って…」

《ふん!我は鷹だ。しかも狩りなんてお手のもの。たかだか爪が一つ削れておっても、どうって事ないわ!》

 ウスターシュにはその声は聞こえないが、アオ鷹はそのように答え、用は済んだかと聞くとすぐに飛び立っていった。

「本当にありがとう!またね!」

《ふん。何かあれば、いつでも呼べ。ではな!》

 リュシーにしか聞こえない声を発しながら。


「ウスターシュ、あれはやはり魔力の一種じゃないかな。」
「あぁ。とんでもない力だと思う。この力はすごくないか?しかしそうすると誰も傍にいないのは危険だろうし……」

 ボソボソと話していたエタンとウスターシュは、これからの事を考えていた。


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