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1. 在る日の午後に
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十歳のリュシーはその日、いつものように屋敷の近くの森へ行き、散策をしていた。
オジュレバン国の西にある、国境沿いの小さな領地レスキュンの、領主バルテレミー=アランブール伯爵の娘である。
背中までの長さの髪は、雲一つない空にある太陽に照らされて明るい茶色ではあるのにキラキラと輝いて金髪にも見えた。
開けた所で花を摘んでいたリュシーは、話し声が聞こえた。
辺りを見渡すと馬を引いて歩いている二人の人影を見つけた。
(誰かしら?この山の向こうは森が続いていて、危ない森らしいから狩人しか来ないって確か…だから、狩人よねきっと。あら?でも、大人ではないみたいだわ。)
レスキュン領は、勾配がきつい山あいにある小さな領地で、草花や木はたくさんあるが、領民も少なく穀物を育てる事をしていない為にかなり貧しい領地だった。
バルテレミーは、それでも伯爵と名乗るのを許されており、屋敷の隣に狩人専用の宿泊施設を作り、そこで収入を得ている。
〝危ない森〟とは、危険な野生動物が数多く生息しており、人間を見かけると襲ってくる。だから、隣国にほど近い場所ではあるのに、ここから隣国へ向かう人はほとんどいない。違う領地からの遠回りをした方が安全に行けるからだ。
危ない森に近づかなければ、野生動物がレスキュンの領地に来る事はない為、その場所には近づかないようにとリュシーは言われている。
狩人は、そんな危ない野生動物を獲り、それを売って生計を立てているのだ。
向こうの人影も、リュシーに気づいたようで、少女が一人で花を摘んでいたのを不審がって近づいてきて声を掛けた。
「こんにちは。ここで、何をしているの?」
二人の内、濃い茶色の髪を無造作に肩ほどまで伸ばした背の高い方が話しかけた。
「こんにちは。花を摘んでいるの。今日は、弟の誕生日なの。」
「そうなんだね。一人で大丈夫?」
「ええ。ここに危険は無いもの。大丈夫よ。お兄さん達こそ、森に行くの?狩人なの?」
「いや…まぁね。」
「そう。気をつけてね。遅くなると雨が降るわ。」
「え、雨!?」
もう一人の、黒髪の方が驚いて口を開いた。
「こんなに雲一つ無い天気なのに?」
「エタン!…お嬢さん、ご忠告ありがとう。じゃあね。」
「あ!待って!ここを左に進んで行くと、小さいけれど沢があるの。澄んだ水でとても美味しいわよ。」
「…!」
「そうか!お嬢さん、助かるよ。」
そう言って、二人は去って行った。
「雨降る事、教えたけれどそれくらい大丈夫よね?」
リュシーは誰も居ない中、そう呟いた。
オジュレバン国の西にある、国境沿いの小さな領地レスキュンの、領主バルテレミー=アランブール伯爵の娘である。
背中までの長さの髪は、雲一つない空にある太陽に照らされて明るい茶色ではあるのにキラキラと輝いて金髪にも見えた。
開けた所で花を摘んでいたリュシーは、話し声が聞こえた。
辺りを見渡すと馬を引いて歩いている二人の人影を見つけた。
(誰かしら?この山の向こうは森が続いていて、危ない森らしいから狩人しか来ないって確か…だから、狩人よねきっと。あら?でも、大人ではないみたいだわ。)
レスキュン領は、勾配がきつい山あいにある小さな領地で、草花や木はたくさんあるが、領民も少なく穀物を育てる事をしていない為にかなり貧しい領地だった。
バルテレミーは、それでも伯爵と名乗るのを許されており、屋敷の隣に狩人専用の宿泊施設を作り、そこで収入を得ている。
〝危ない森〟とは、危険な野生動物が数多く生息しており、人間を見かけると襲ってくる。だから、隣国にほど近い場所ではあるのに、ここから隣国へ向かう人はほとんどいない。違う領地からの遠回りをした方が安全に行けるからだ。
危ない森に近づかなければ、野生動物がレスキュンの領地に来る事はない為、その場所には近づかないようにとリュシーは言われている。
狩人は、そんな危ない野生動物を獲り、それを売って生計を立てているのだ。
向こうの人影も、リュシーに気づいたようで、少女が一人で花を摘んでいたのを不審がって近づいてきて声を掛けた。
「こんにちは。ここで、何をしているの?」
二人の内、濃い茶色の髪を無造作に肩ほどまで伸ばした背の高い方が話しかけた。
「こんにちは。花を摘んでいるの。今日は、弟の誕生日なの。」
「そうなんだね。一人で大丈夫?」
「ええ。ここに危険は無いもの。大丈夫よ。お兄さん達こそ、森に行くの?狩人なの?」
「いや…まぁね。」
「そう。気をつけてね。遅くなると雨が降るわ。」
「え、雨!?」
もう一人の、黒髪の方が驚いて口を開いた。
「こんなに雲一つ無い天気なのに?」
「エタン!…お嬢さん、ご忠告ありがとう。じゃあね。」
「あ!待って!ここを左に進んで行くと、小さいけれど沢があるの。澄んだ水でとても美味しいわよ。」
「…!」
「そうか!お嬢さん、助かるよ。」
そう言って、二人は去って行った。
「雨降る事、教えたけれどそれくらい大丈夫よね?」
リュシーは誰も居ない中、そう呟いた。
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