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1 結婚式当日

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あー緊張する!

日本から異世界へ呼ばれて来て、早4か月程。
以前は雑貨店の販売員をしていたのに、いきなりこの世界へ来てしまった。

亡くなった王妃様のナリアーヌ=ヴァン=ケルンベルト様が、体調の思わしくない国王様と第一王子殿下の事を心配され、私にどうしかしてほしくて連れて来たようだ。どうやったのかは良く分からないんだけど、この世界には魔法が有るらしいから、どうにかなったんだろうな。そして、呼んだはいいけど日本へは帰れないんだって。まぁ、びっくりはしたけど、仕事も辛かったし、こっちで楽しまないと損かなって。


私、マリア・サガワは今日、このケルンベルト国の第二王子殿下である、ルークウェスト=ヴァン=ケルンベルト様の妻になる…って、それは念願叶ったので嬉しいんだけど。
結婚式の内容が…。

ルークと、この部屋から出て王宮内の皆に挨拶して回り、最後に国王様に挨拶。今度は外へ出て、屋根の付いていない馬車で街を1周する。国民にも知らせる為らしい。
きゃー恥ずかしいわ…。

あ、ルーク様と前までは呼んでいたのだけど…やっぱり【〝様〟を無しで呼んで欲しい。家族になるんだから。】って言われちゃった。王子様オーラがキラキラと出ている、金髪青目だからどうしても〝様〟が付いてしまったんだけど…。


「さ、出来上がりましたよ。もう、本当にこんな日が来るとは…嬉しくて…ルーク様とお幸せになって下さいませね」
と、タリアが涙を流して声を掛けてくれる。きっと、ルークが幼くして、国王様の代わりに政務に付いて遊びたい盛りも我慢していた(らしい)事を思い出しているのかしらね。

「タリア…この世界へ来た私のお世話をしてくれてありがとう。タリアが居てくれたから、私は頑張れたわ。」

タリアは、私がこの世界へ来てから初めて、私付きの侍女になってくれた。この国の事、貴族の所作、など本当に沢山指導してくれた。本当は侍女長という偉い立場であるらしいのに、申し訳ないわ。
けれど母親位の年齢だから、この世界でのお母さんだと密かに思っている。

「勿体ないお言葉です…。ルーク様が不甲斐なければ、私に言って下さいませ。懲らしめてやりますゆえ。」
タリアは、ルークの乳母のような役目もされていたみたいだから、本当に懲らしそうで怖いわ…。
「え、ええ…その時はよろしくね。」

「も-。タリアさんったら!マリア様は泣いてはいけませんよぉ!せっかく綺麗に仕上がったのに、直すの大変なんですからね!…でも、幸せそうで本当に良かったですぅ。」
サンディは、14歳。もとは平民だからかとても元気いっぱい。けど、私が毒の入った紅茶を飲まされそうになった時の実行犯。
ただ、自分の意思とは関係なかったみたいで、見るからに挙動がおかしかったので、私は気づいて飲まなくて済んだわけ。正直な娘なんじゃないかと思ったから、ルークに【嘘付けない感じだったもの。罪を軽くは出来ないのかしら…】とそれとなーくお願いしてみたら、どうにかしてくれたみたい。表向きは、毒入り紅茶を飲ませようとしたサンデローズという侍女は処刑され、新しく似ているサンディという娘を雇ったと言う事になっている。

「サンディもありがとう。あなたのその元気さに私はいつも助けられたわ。」
「そんなぁ…マリア様だけですよぉ。言葉遣いもいつも注意されますぅ。でも私はマリア様のおかげで処刑されずに済みました。なので命ある限り尽くす事を決めちゃってますからね!」
「サンディ、私じゃないわ。ルークがお決め下さったのよ。気持ちだけ受け取って置くわね。あなたの人生なんだから好きにすればいいのよ。」
「はい!好きにしますぅ!」

コンコンコン。
と、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「あ、そろそろお迎えですかねぇ。確認してきますねぇ!」
と、サンディが確認しに離れた。

「タリア。第一王子殿下は、どう?」
この国の第一王子殿下のランロット=ヴァン=ケルンベルトは、28歳。
生まれた頃からお付きの侍女に体の動きが鈍る花を嗅がされていたりしたせいで、最近までベッドの上での生活がほとんどだった。
マリアが、それを見抜いて諸悪の根源を処分してもらった。すると第一王子殿下は体力をメキメキ付け、政務などを一生懸命やっていると聞いた。
「よくやっていらっしゃいますよ。今までルーク様がやられていた事の引き継ぎは、もうすでに終わられております。動ける事が楽しいと、暇さえあれば出歩こうとされてます。」
「そう。良かったわ。侍女探しは難しい?」
「そうでございますね。まだ暫く掛かりそうです。」
長年勤めていた侍女が、犯人だった為、しかも懸想していたのが理由なので、そんな心配のない女性というのがなかなか見分けが付かないらしい。
いっその事、侍女を無しでという事でもいいんだけど、侍従もまだ決まっていないみたいで、とにかく適任者を見つけたいらしい。

「もし、もしまだいなければ例えばサンディなんてどう?私たちが出掛けている間だけでも。」

「マリア様!どういう事ですか!私はお払い箱ですか!?」
聞こえたのか、サンディが大きな声を出して戻ってくる。

「違うわ。サンディの事は、私信頼しているのよ。だからよ。ほら、私とルーク、結婚式終わったら…その…。」
「サンディにも言わなかったか?国中を視察しに行くのだ。マリアと二人でな。」
「ルーク…。」
「ルークウェスト様!あんまりです!私はマリア様にどこまでも着いて行くつもりです!」
「んー、俺たちの新婚旅行でもあるのだ。出来れば遠慮してもらえると助かるな。」
「マリア様、そうなのですか!?」
「サンディ…私もサンディと行きたいとも思うわ。でも、サンディには力を発揮出来る所で頑張ってもらいたいの。私が帰って来たら、またよろしくね。」
「うう…マリア様ぁ…。分かりましたよぅ。私はマリア様の言う事しか聞きませんからね!ルークウェスト様、マリア様をくれぐれもよろしく頼みますよぉ!」
「分かっているよ。サンディ、頼まれてくれるか。マリアも喜ぶぞ。」

「さて、マリア。あー俺のマリア!今日からやっと、俺の部屋からマリアの部屋へ行けるな!まぁ、1週間後には視察へ出発だが。」
「良かったねぇルーク!求婚した日に先走って、ルークの部屋の隣の、この部屋を使わせる事に成功したのは良かったわけど。折角廊下を通らなくても内側にマリアちゃんの部屋へ行ける扉があったのに使えなかったもんねー!」
と、後ろから現れたのは側近のロイさん。

そうなのだ。この異世界へ来てなんだかんだあってルークから求婚されて、【今日から俺の隣の部屋を使って。廊下を通らなくてもマリアの部屋に行けるドアがある。】と説明されて、覚悟を決めないとと思ったけれど。
結局、その日は明け方までたくさん愛してもらっちゃったけど、次の日からは、【まだ結婚式挙げてませんから!】とタリアに言われ、ルークなんて【今まで我慢してたんだ!】【だったら結婚式までついでに我慢して下さいませ!】なんてタリアと言い合いしてたっけ。

でも、ロイさんそんなあからさまに言われると照れますから…。
ロイ=カンタルヴィンは、タリアの息子。金髪で緑目。いつも貼り付けたような笑顔なんだけど、最近サンディとロイさん、意外とよく話してるんだよなぁ。

「ロイ様-!そうなんですけど、マリア様が思考停止しちゃいますからあまり言わないで下さ-い!」

あ、ほら。また絡んでる。だからきっと、サンディは第一王子に想いを寄せるなんて心配は無い気がするな。





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