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30. 学院生活

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 それから。
 
 お互いの気持ちをぶつけたライラスとシャーロテは以前にも増して仲良くなった。
朝、今までは教室へ来るとクラーラとシャーロテで話をしていたのだが、ライラスがシャーロテと話し出してしまう。なので、留学は期限があり一緒に過ごすのもあと少しだから仕方ないわね、と譲った。
 ではクラーラは一人でいるのかといえばそうではなく、ラグンフリズがクラーラの元へ話しにいっていた。なので少しずつ生徒の中で、クラーラとラグンフリズも、いい仲なのではないかと思う人が出てきた。
 だからと言ってクラーラにあからさまに言葉を浴びせたり、嫌がらせをしてくる人はいなかった。ラグンフリズの表情が、クラーラと一緒にいる時だけとても柔らかく、優しくなるので一目瞭然だったからだ。



「もう行ってしまわれるのね。」

「あぁ。僕も淋しいよ。でもねシャーロテ、すぐに戻ってくるから。」

「あら、どうして?」

「僕、両親にシャーロテと結婚させてと報告してくるんだ。その後、シャーロテの両親に挨拶をしないといけないだろう?だからだよ。」

「そんな事言って…本当に戻ってくる?一時の戯れなんて事、無いわよね?私に会いに来てくれる?」

「当たり前だよ、シャーロテ。永遠の愛に決まっているじゃないか。あぁ、早く婚約を結びたいよ。今のままじゃぁシャーロテに触れる事も出来ない。」

「まぁ!誠実なのね。私は少しくらいいいのに。」

「何!?いや…止めてよ、僕、鋼の心で我慢しているんだから。シャーロテこそ綺麗で美しいんだから、誰かに目移りしないでよ?お願いだよ。」



 今日は一年生最後の日。最後までそんな甘い話をしていた二人。でも二年生になったらそれも出来ないのだから仕方ないわよねと、クラーラは思っていた。
なんだかんだ行ってお似合いの二人。幸せになるといいなと応援をしていた。


「じゃあね、ラグンフリズ。ちゃんとシャーロテを見張っておいてよ?悪い虫が付きそうだったらすぐに教えてよ?いい?友人Aも、見張っといてよ。」


 そう言ってライラスは帰って行った。


「今度は友人Aだって。全く、あいつは…。」

「まぁ、それがライラス様ね。仕方ないわ、きっとシャーロテ以外は名前も必要ないのよ。」



 シャーロテも、恐る恐る両親に結婚したい人がいるとライラスの事を伝えた。
すると、『そうか、良くやった!』と逆に褒められたのだとか。国交の無かった国であったから、これから国王陛下も交えて話し合いをしないとなと喜々として言われたそうだ。話が前向きに進んでいるようで、クラーラは安心した。
シャーロテは以前、言っていた。結婚は割り切るしかないと。でも、あの調子であれば政略結婚ではなく、心から愛し愛される人と恋愛結婚が出来るのだろうと。


 クラーラは、両親にはまだ自分から気持ちを伝えていない。しかし、年末年始に二度届いたラグンフリズからの手紙に両親は『良かったわね』と優しく微笑んでくれた。両親はクラーラのその、ラグンフリズからの手紙を読んでいた表情を見て、気持ちを理解したのだ。
一度目は学友に言われたからと暫定的に婚約関係を結んでしまった。次こそは、心から信頼し合える者と出会えたらとクラーラの父ティーオドルは娘の幸せを願っているのだ。





☆★

 順調に恋も友情も育みつつ、学院生活は惜しまれつつもとうとう卒業という日を迎えた。

「クラーラ、元気でね。手紙を書くから!」

「当たり前よ、シャーロテ。私だって書くわ。王太子妃は大変でしょうけれど、何かあればいつでも愚痴ってね。」


 シャーロテは卒業し、準備を整えたらチャーバリス国へと嫁入りするのだ。


「あぁ…本当に学院に通えて良かったわ!」

「ええ、私も。友達になってくれてありがとう。」

「ちょっと…私も忘れないでもらえる?」

 クラーラとシャーロテが肩を抱き合いそう話していると、マルグレーテが声を掛けてきた。

「あら!マルグレーテもたまには楽しかったわよ。でもあなた、〝仕事〟が忙しかったでしょう。もう私達とこうやって話してもいいの?」

「ええ!やっと終わりよ!旦那様も、かなり儲かったとものすごく褒めて下さったの!まぁ、どうしても私の誘惑に乗らずうまくいかなかった人もいたけれど、それは仕方ないって許してくれたしそっちは旦那様がどうにかしたみたいでね。これで、晴れて私も自由の身よ!男爵家から抜けさせてもらうの!だから最後に、貴方達ともお別れの言葉を交わさせてよ。たまに、話をさせてくれてありがとう!私の、詰まらない学院生活に彩りを加えてくれて本当に嬉しかった。それがなかったら、私、やり切れなかったと思う。」

 マルグレーテは、あれからも〝仕事〟があるからと他の生徒の前ではクラーラとシャーロテには接していなかった。でもたまに、シャーロテが『暇なら来なさいよ』と誘い、三人でこっそりと会話に花を咲かせていたのだった。


「何言ってるのよ。私もあなたの話、面白く聞かせてもらったわ。庶民になるならさすがにマルグレーテとはもう会えないだろうけれど、あなたも元気でいなさいよ。でも、大丈夫なの?恨まれたり…してない?」

「ええ、ありがとう!大丈夫よ!に解決したと聞いているわ。……シャーロテもお元気でね。王妃なんて、貴族よりもっと大変でしょうけれど、あなたならきっと素敵な王妃になれるでしょうね。影ながら応援しているわ。クラーラもよ?幸せにね!」

「そう。男爵様がどうにかしてに至ったのかしら?……ありがとう、マルグレーテも。何かあったらいつでも会いに来てね。」

 とクラーラが言う。
クラーラも、マルグレーテの〝仕事〟の話を聞いてからはどうも同情的に見ていた。そして、婚約を白紙に戻された後は大丈夫なのかと心配もしていた。
そこはシャーロテも同じく心配していたので、逆恨みしそうな生徒には公爵家の力を使うわ、とも言っていた。しかし、実際どうなったかはクラーラは聞いていなかった。どんな手を使うのだろうとは思ったが、伯爵家のクラーラが聞いてはいけない部分かもしれないと思って尋ねてはいない。
シャーロテもまた、ダークな部分はクラーラにあえて教える必要もないと思い、話してはいない。


「それはないと思うけれど…。心配してくれてありがとう。でも、庶民も自由でいいものなのよ?それに、庶民になればだった人達とは合わなくて済むわ!」


 マルグレーテは、これからは男爵家を出て市井へ下るという。母親は、男爵夫人として留まるのだそうだ。もちろん、母親はマルグレーテが〝仕事〟をしていた事を知らない。それに母親はまだ充分に若い為、これから子供も産まれるだろうからと、男爵はマルグレーテが稼いでくれた代わりに市井へ下る事を許したのだった。
マルグレーテは、元々庶民であり、貴族の振る舞いやなんかには身の丈に合っていなかった。だから庶民でいられればそれで良かったのだ。


 皆、様々な想いを胸に、学院生活を終え、新しい場所へと旅立っていった。
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