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26. 空き屋敷

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 あれから、年末に一度と年始に一度、クラーラにはラグンフリズから手紙が届いた。といっても、何の事はなく何をやって過ごしたかという事が書かれた手紙と、異国のお土産が一緒に。
ティムにも、アスガーから手紙が届くようになった。どうやら意気投合したらしく、楽しく返事を書いている。




 長期休暇が終わり、また学院が始まる。


 しかしクラーラにとって以前と変わった事は、朝教室に入るとラグンフリズが挨拶をしてくれる事。他に生徒がいる時はクラーラへ視線を送り、ペコリと頭を下げ、他の生徒には気づかれないようにしているラグンフリズ。他の生徒が居ない時は、クラーラに向けて声を掛けニコリと優しい笑顔を見せてくれ、それをされるとクラーラは毎朝胸が温かい気持ちになるのだった。




 シャーロテが学院に来て、クラーラの席へとまたいつものように話をしにきた。


「ねぇクラーラ。宮都の空き屋敷にね、最近出入りがあるのですって。知ってる?」

「…?知らないわ。」


 いつもクラーラへと、シャーロテは情報を持ってくる。シャーロテは公爵故の情報網でネタを仕入れ、それをクラーラへと面白おかしく話してくれる。
シャーロテも公爵令嬢である為に心からの友人がなかなか出来なかった。話し掛けてくる人といえば顔色を窺う者やあからさまにごまをすってくる者しか居なかった為、気兼ねなく話せるのがとても嬉しいのだ。だから毎朝始業の時刻より随分前に来てクラーラと他愛も無い話をしているのだ。


「誰なのかしらねぇ。そんな所に…。」

「空き屋敷?」

「ええ。の家が所有していたタウンハウスよ。」

「え?…あぁ、ヘンリク様の…」

「そうよ。それなりに立地もいいし、伯爵家にしては広く立派な屋敷だったのよ。まぁ、だからお金が必要になって早々にそれを売ったのでしょうけれど。随分と高く売れたのでしょうね。」


 ベントナー家のタウンハウスは、クラーラと婚約するより前に売り払われている為に、クラーラはどの辺りにタウンハウスがあったのかを知らなかった。


「へー、そうなのね。私、何処にあるのか知らないけれど、そんなに素敵だったのね。」

「そうねぇ。数代前のベントナー伯爵様が、売りに出されていた公爵邸だったのを購入したみたいなのよ。だから、うちのタウンハウスと同じ並びにあるのよ。庭もそれなりに広く取ってあってねぇ。本当、数代前までは素晴らしい伯爵様だったみたいだけれど、残念よねぇ。」

「そうだったのね…。」

「ねぇ…じゃあ今日見に行ってみる?うちタウンハウスから近いし、帰りにうちに寄って行ってもいいから。」

「うーん、そうね。その空き屋敷には興味がないけれど、シャーロテのタウンハウスに行かせてもらえるのは嬉しいわ!」

「フフッ。だって、あの立地条件だもの、どの爵位の方が購入したのか興味がありますでしょ?それに、クラーラと放課後もお話出来るのはとても嬉しいわ!」

「話し中に割り入るようで申し訳ないけれど、少しいいかな?」

「あら、ラグンフリズ様、どうなされたの?」


 クラーラとシャーロテが話していると、ラグンフリズが席を立ち、こちらへと話し掛けて来たのだった。


「ごめん、盗み聞きしていたわけじゃないんだけど、聞こえてきてね。ベントナー家がタウンハウスにと使っていた屋敷、今している人物が知りたいように聞こえたんだけど、放課後、訪問しに行くつもりかな?」

「いいえ、そこまではしないわ。ただ、屋敷の前まで行こうかと…どうして?」

「いや、今日、俺はその屋敷にお邪魔するからさ。も…もし良かったら、二人も一緒に来るかい?」

「え!?」

「いいんですの!?」

 クラーラは、只でさえラグンフリズから話し掛けられて嬉しく思っているのに、放課後までお誘いを!?とみるみる顔が真っ赤になった。それを横目で見ていたシャーロテだが、あえて話題には出さず、ラグンフリズと話している。

「あぁ。先方もいいと言うはずさ。俺は学院が終わったらそのまま向かうつもりだったんだ。君たちもそうする?」

「ええ!是非に!やったわね、クラーラ!ついでに内覧もさせてくれると嬉しいのだけれど。」

「そんなに興味があるんだね。頼めば、させてくれるかもしれないよ。優しい奴だから。…クラーラ嬢、勝手に決めて済まない。良かっただろうか?」

「え?ええ。もちろんですわ!ラグンフリズ様、わざわざお誘いありがとうございます。シャーロテ、とても喜んでおりますわ。」

「いや…俺の早合点だったようだ。君たちがあの屋敷に訪問しに来るかと思ってしまったからね。俺がその場にいたら驚かれるかなと先に伝えようとしたまでだよ。しかし、内覧まで希望とはね。」

「当たり前よ!数代前とはいえ、同じ公爵家が所有していた屋敷よ?それをベントナー家が買い取った時に改装したかもしれないけれど、うちとどう違うのか興味があるわ。なんなら、うちが買い取りたかったほどよ。」

「え?でも、シャーロテ、今もあるでしょ?二つもタウンハウスを?」

「そうよね、だからお父様も何バカな事言ってるって鼻で笑ったのよ?でも、やっぱり興味があるもの。ラグンフリズ様も良いとこあるわね。良かったわね、クラーラ!」

「え?な、何言ってるのよ…!」

「あら?いいのよ、私には隠さなくて。クラーラも婚約者が今は居ないのだもの。ラグンフリズ様なら、お相手として充分ね。」

「シャーロテったら、変な事言わないで。ごめんなさい、ラグンフリズ様…。」

「いや?シャーロテ嬢にそう言ってもらえるなら嬉しいよ。お眼鏡に適ったって事だろう?クラーラ嬢、ゆっくりでいいんだ。俺との仲を、育んでいこう。」

「まぁ…!ちょ、シャーロテの前で…!」

「いいのよ、私はいつか他国へ嫁ぐんだもの。クラーラが幸せになれるなら私も嬉しいわ。」

「でも…」

(シャーロテは、ラグンフリズ様がお好きなのでは…?)

「何か誤解してるかもしれないから言うけれどね、私は残念ながら、ラグンフリズ様の事はこれっぽっちも好きではないから安心してね?まぁ、スポーツ万能で学業も優秀だし、努力されているんだとは思うけれど。」

(そうだったのね、私シャーロテは、ラグンフリズ様がお好きなのかと思ったわ!いつかのハンドボールを見た時に、格好良いと言ってた気がしたけれど。)

 クラーラはシャーロテがラグンフリズを好きなのかと思っていた。だから、ラグンフリズに花を贈りたいと言われても答えられなかったのだ。せっかくの友人の好きな人を…と。でも、そうじゃないと知れた。クラーラは自分に正直になってもいいのかもしれないと思えた。


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