【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

5. タウンハウスへ出発する前日の夕食

「ああ、明日にはもうタウンハウスへ出発してしまうのですよね。姉上、どうか無理はなさらないようにされて下さいね。」


　クラーラの二歳下の弟、ティムはクラーラへとそう声を掛けた。
　二歳下の弟は、うっかり者の姉が、貴族の荒波に飲まれやしないかヒヤヒヤとしているのだ。見た目は儚げな姉。しかし、実はかなりのお転婆で、家に篭もるよりも外に出掛け、太陽の下で動き回っていた方が好きなのだ。


　今は、夕食時。


　クラーラは、父ティーオドルと母エルセと弟のティムと一緒に食事をしていた。
クラーラは学院に入学する為に、明日宮都にあるタウンハウスへ移動する。

「そうね、クラーラ。もしどうしても辛かったら、学院は辞めて帰ってきてもいいのよ。」


　そのように母エルセもクラーラに声を掛けた。エルセもおっとりとしていて、自然豊かなマグヌッセン領の領土がとても体に合っている。
　夫のティーオドルも、仕事は出来るが、宮廷で私欲が渦巻いている場所よりも緑豊かなマグヌッセン領でゆったりと領地の為に仕事をしていた方が性に合うと、国王からは惜しまれながらも、このカントリーハウスで領主として精を出している。

「おいおい、クラーラは明後日から晴れて学院に通うんだよ。…でもまぁ、そうだな。空気が合わなければ、帰ってこればいい。楽しめなければ、遠慮しないでいつでも言えばいいんだからね。」

　ティーオドルは、貴族同士の空気は好きではない為に、そう言った。

「ありがとうございます。また、長期休暇には帰ってきますから。出来るだけ頑張ってきますわ。」

　クラーラは、幼い頃よりこの自然豊かなマグヌッセン領を駆け回っていた。近くには湖や、池もある。この領地がとても好きだった。
　家の裏にある山には、領地の特産品である陶器の原材料である陶土が取れるので、弟やクラーラの侍女リーセといつも取りに行っていた。手で持って来るのは大変だからと、馬を自ら操り、帰りは馬に土を乗るだけ乗せて帰ってくる事をしていた。だからクラーラはそこらの令嬢らしからぬ、馬を乗りこなせる程お転婆であるのだ。


「ティムこそ、お父様とお母様をよろしくお願いしますね。」

「分かっているよ、姉上。そうだ！姉上の為に、ティーカップを作ったんだ。あとで部屋に持っていくよ。」

「まぁ！ティム、自分で作れるようになったの？」

「当たり前だよ！僕はもう一通り作り方を覚えたんだから！」

「フフフフ。ティムは、クラーラに安心して欲しいからと最近頑張っているのよ？ティーオドルも、ティムと一緒に作れて嬉しいみたいね。」

「ああ。一緒に作れるなんて、感慨深いよ。ティムはもう立派な戦力だ。なぁ？」

「本当！？」

　マグヌッセン家は今日も、家族仲良く、楽しい笑い声が響いていた。