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22. 男だけの昼食 ウカーシュ視点

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「さあ、どうぞ。」

 と、通された食堂で、俺はなんだかとても緊張してきてしまった。
ただ、お礼を言いに来ただけなのだが、なんだかダミアンには突っかってこられるし。ダミアンの父上には、睨まれているような気がする。


「手紙では挨拶をしていましたが、私がこのフォルヒデン領の領主、ヤロスワフ=フォルヒデンと申します。…して、ウカーシュ様。単刀直入に聞きます。なぜうちにまで訪ねて来て下さった?何が目的だ?」

 挨拶もそこそこに言われた。この言葉の節々に、ピリピリとした緊張が感じられる。なにをそんなに警戒しているのか。やはり、可愛い娘を、男に会わせるというのが嫌なのか。
そんな下心なんて、有るわけ無い…と言い切りたいが、果たして無いと言い切れるのか?

 初めは本当に、純粋に、命を助けてもらった感謝を伝えたかった。
リシャルドにも、『あんな雑なお礼じゃ足りませんよ!足もひん曲がってたし、熱もあって意識無かったじゃないですか!彼女が治してくれたのは一目瞭然!…まぁ、隠したかったのか、違うと否定していましたが。とにかく!生きて帰れたのは、あの人達と会えたからです!』と何度も食い付かれる勢いで言われたし。

 だけど…何度手紙で下手にお願いしてみても断られる。
こうなったら、とザルーツ国へ正当に滞在出来るようにして、ゆっくり考えてみよう。時間があれば、訪ねてみよう。と思った。
幸いというか何というか。西湖でいた人物が、彼女の兄で、俺と同じ学年だった。
これは、親交を深めてみようと思った。

 しかし、思わぬ収穫だった。ダミアンは、〝彼女に会わせない〟と言う以外はとてもいい奴という事が分かったのだ。

 それに、暇さえあれば、彼女の日常を教えてくれた。
誰にでも分け隔てなく心優しく、傷付いたものには手を差し伸べるのだ、とか。
幼いながらに領地の事を考え、領民の元へと日々回り、意見を聞いてくるのだ、とか。
領地の見回りには、馬車より馬のが便利だと気づくや習いたいと言い出したのだとか。
そしてダミアンは自分が教師になると名乗りを上げ、彼女はみるみる内に見事に乗りこなすようになったがなかなか一緒に遠乗りに連れて行ってあげられないのだが文句も言わず健気に行ける日を楽しみにしているのだ、とか。

 それを聞いていると、なんだか自分にも妹がいて見守っている気分になるのだから不思議だ。






「こちらこそ、不躾に手紙を何度も送り、申し訳ありませんでした。ダミアンにも伝えていた通り、命を助けてもらった感謝を会って言いたかっただけです。」

 そう、いつもの外面のいい笑顔を貼り付けて言うと、ヤロスワフ伯爵は苦虫を噛みつぶしたような顔で続けて言った。

「本当にそれだけであるのですかな。それであれば、午後、ナタリアが出掛ける時に一緒に出掛ける許可をいたしましょう。そこで話すがいい。しかし、勘繰りがあって、我が娘を探ろうというのであれば即刻立ち去っていただきたい!」

 静かにそう告げたヤロスワフ伯爵は、優しそうな顔をしているのに何故か背筋が凍る思いがした。
それが、貴族としての、また領主としての真の凄みかと思わせる程。

「そ…!もしかしたら、今まで断られていたのは、その思いがあったからでしょうか。私も、少なからず他国の歴史は学んでおります故、ザルーツ国のしきたりなども知識としてあります。けれども、彼女のを探ろうとは決してしておりません。いえ、気にならないと言えば嘘になりますが、それがあっても無くても、感謝の気持ちを伝えたかったのです。ただ、それだけです。」



 俺が淀みなくそう答えると、ヤロスワフ伯爵は少し考え、また口を開いた。

「うむ。では、ナタリアと会い、今までの常識では考えきれない不思議な事が起こったとしても、口外されないと誓えますかな?私は、ナタリアを守りたい。自由に過ごさせてやりたい。ただただ、それだけなのです。ウカーシュ様、あの子と関わるのであれば、あなたにもそう思っていただきたいのです。どうか…!」

 そう言って深々と頭を下げたヤロスワフ伯爵は、俺が返答をするまでずっとそのままの姿勢であった。
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