上 下
18 / 31

18. 舞踏会での謝罪

しおりを挟む
 微笑みを絶やさない侯爵と、笑顔が無かった伯爵令嬢は今、かなりの注目を浴びていたーーー。


 今夜は、舞踏会。


 アルフォンシーナは、ヴァルフレードにエスコートされながら会場へと入った。
 今日初めて、家族とは一緒の馬車に乗らず、ヴァルフレードが迎えに来てその馬車に乗って来たのだ。


 馬車止めでも、ヴァルフレードが初めて馬車から女性を下ろす為にエスコートをする。それが愛想が無かったアルフォンシーナだったから、周囲の人達が一斉にざわついた。しかも、アルフォンシーナが笑顔でヴァルフレードへと視線を送っていたのだ。ヴァルフレードもいつもニコニコと皆に振り撒いていた笑顔とは違い、心から愛おしい誰もが分かるような表情でアルフォンシーナへと視線を向けていた。


 秘かにヴァルフレードを狙っていた女性達はハンカチを握りしめていたり、人目も憚らず地団駄を踏んでいた。

 しかし、絵になるその様子に、ほぅと息を漏らして見惚れるものも多くいた。


(思った以上だ…アルフォンシーナをから守り抜かねば!)


 まだ、公にむけて婚約発表をしたわけではないから、ヴァルフレードは今までもアルフォンシーナへ近づくものへ牽制はしていたが、より一層気を付けなければと新たに思った。





「アルフォンシーナ。テレンツィオ王子が挨拶をされたいと言ってきた。一緒に来てくれるか。」


 ヴァルフレードと共に会場で、話しかけられた友人達に囲まれていた時に、アルフォンシーナは近寄って来たバジーリオにそう言われた。


「はい。お父様。」

「バジーリオ伯爵。私もご一緒してよろしいでしょうか。」


 ヴァルフレードは、バジーリオへとそう堪らず声を掛ける。バジーリオは視線を送り、頷くとすぐに王族が座っている方に向かったので、アルフォンシーナと一緒に向かう事とした。


「挨拶って、謝罪だろうか。」


 ヴァルフレードが、アルフォンシーナへとそう声を掛ける。先日の、パルミーロ第二王子が出来事は、全員が見ていたわけではないが、知っている者は知っている。だが、今回は公の場であるから、形だけの挨拶、という名の謝罪だとヴァルフレードは思った。 


「ええ…。」


 アルフォンシーナも、少し口数が少なく、緊張して向かう。


「大丈夫。俺がいるから。」


 ヴァルフレードは、アルフォンシーナへとそう言葉を掛ける。


(本当は、アルフォンシーナを向かわせたくない。テレンツィオ王子が、アルフォンシーナを見て、どう思うだろうか。いや、逆もしかり、か…アルフォンシーナ、どうか、テレンツィオ王子に心惹かれたりしないでくれ…!)


 ヴァルフレードもまた、緊張して進んだ。




☆★

「私の娘、アルフォンシーナと、その婚約者の、ヴァルフレード=アンドレイニです。」


 バジーリオは、テレンツィオ王子が座っている席に向かうと、そう簡単な挨拶をした。


「やぁ、君が…。私は、フィラハ国のテレンツィオです。この度は…いや。と……。
いえ。我がフィラハ国は、なかなかの後進国であるから、コネリアーノ国から学ぶ事はたくさんあると思っています。これからも、この素晴らしいコネリアーノ国と友好関係を築いていけたらと思っています。ですから、気が向いたらでいいので、ぜひとも我が国に遊びに来て下さい。新婚旅行でもね。」


 テレンツィオは、アルフォンシーナにどうしても謝罪がしたいから会う機会を設けて欲しいとピエトロに伝えた。しかし、ピエトロと一緒にいたアルフォンシーナの義兄のベルトルドは、即答はしなかった。バジーリオだったら、愛娘に謝罪とはいえ、王宮に呼び出して会わせようとするかと思案したのだ。
 否、絶対に断るだろうと見越す。しかし、断っただけではきっとフィラハ国のメンツが立たないだろうとしばらく考え、『舞踏会にピエトロのであるバジーリオの娘を紹介する分には問題ないだろう』と提示した。その際、『アルフォンシーナには婚約者がいるのでそちらも同席する』事をもちろん告げたのだ。なぜ、ヴァルフレードもとそう言ったのかは、なんとなくの牽制である。
 ベルトルドは、以前からヴァルフレードがアルフォンシーナへ求婚の申し込みをしているのを知っていた。家族で話題になっていたからだ。
それにピエトロを迎えに行く際、義実家の部屋にはヴァルフレードとその父ボニートが正装していた為に瞬時に理解したのだ。『あぁ、やっと義父が許したのだ』と。
 バジーリオが三姉妹を溺愛しているのを知っている。そして、末娘には特に甘い事も。しかし、パルミーロが起こしたが引き起こってしまった。万が一また他の輩に可愛い愛娘が言い寄られないとも限らない為、早々に手を打ったのだと。


「勿体ないお言葉、感謝申し上げます。はい。もしもフィラハ国へ伺う際には、私は一介の貴族なだけでございますからが、楽しませていただきます。
きっと、王子が国王となられた暁には、距離があるとはいえ友好国となっているでしょうから、気軽に行き来できるようになると思いますもの。」


 アルフォンシーナは、暗にパルミーロには会わない事を告げたのだ。


「……そうだね。僕は、近い内に国王となる。その為に各国と交流を深めに外遊しているのです。では、お幸せに。
…もっと早くあなたに会えていれば良かった。」

「テレンツィオ王子、今日はこのような機会をありがとうございます。テレンツィオ王子にも、輝かしい未来が待っている事と思います。では、失礼致します。」


 ヴァルフレードが後ろを見ながらそう挨拶をして、バジーリオにも視線を送り、アルフォンシーナの腰に手を添えて先を進んだ。
後ろには、テレンツィオと顔を繋ぎたい貴族が列を成していた。それを逆手に取り、切り上げたのだ。


(最後、何て言った?早くあなたに会えていれば?俺なんて、九年だぞ九年!国の王子がなんだ!
七歳の時のアルフォンシーナなんて、と、騎士になどと敬称を付けてキラキラとした目で俺を見たんだぞ?絶対に渡さないからな!)


 ヴァルフレードは睨みを効かせていたものの公の場である為に表情にはそれほど出していなかった。
しかしその実、王子相手に腸が煮えくりかえる程苛立っていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!

麻竹
恋愛
伯爵令嬢のカレンの元に、ある日侯爵から縁談が持ち掛けられた。 今回もすぐに破談になると思っていたカレンだったが、しかし侯爵から思わぬ提案をされて驚くことに。 「単刀直入に言います、私のお飾りの妻になって頂けないでしょうか?」 これは、曰く付きで行き遅れの伯爵令嬢と何やら裏がアリそうな侯爵との、ちょっと変わった結婚バナシです。 ※不定期更新、のんびり投稿になります。

虐げられてきた妾の子は、生真面目な侯爵に溺愛されています。~嫁いだ先の訳あり侯爵は、実は王家の血を引いていました~

木山楽斗
恋愛
小さな村で母親とともに暮らしていアリシアは、突如ランベルト侯爵家に連れて行かれることになった。彼女は、ランベルト侯爵の隠し子だったのである。 侯爵に連れて行かれてからのアリシアの生活は、幸福なものではなかった ランベルト侯爵家のほとんどはアリシアのことを決して歓迎しておらず、彼女に対してひどい扱いをしていたのである。 一緒に連れて行かれた母親からも引き離されたアリシアは、苦しい日々を送っていた。 そしてある時彼女は、母親が亡くなったことを聞く。それによって、アリシアは深く傷ついていた。 そんな彼女は、若くしてアルバーン侯爵を襲名したルバイトの元に嫁ぐことになった。 ルバイトは訳アリの侯爵であり、ランベルト侯爵は彼の権力を取り込むことを狙い、アリシアを嫁がせたのである。 ルバイト自身は人格者であり、彼はアリシアの扱われた方に怒りを覚えてくれた。 そのこともあって、アリシアは久方振りに穏やかな生活を送れるようになったのだった。 そしてある時アリシアは、ルバイト自身も知らなかった彼の出自について知ることになった。 実は彼は、王家の血を引いていたのである。 それによって、ランベルト侯爵家の人々は苦しむことになった。 アリシアへの今までの行いが、国王の耳まで行き届き、彼の逆鱗に触れることになったのである。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

処理中です...