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エルの話
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どのくらい経っただろう。5分か10分か。咳払いを一つして再び、エルは話し出した。
「それでね、婚約なんて相手がいなければ出来ないだろ?相手を、俺はいつからかティアだったらいいなと思っていたんだ。でもティアは、男が苦手だろ?どうしたもんかと悩んでいたんだ。けど、やっぱ諦めきれない。ティアといると俺は、自分でいていいんだと思えたんだ。ティアが俺の傍からいなくなったら、もう生きている価値がない。ティアと離れて仕事をしていた時は、次にいつ会いに行こうかなって考えながらやっていたんだ。ティア。俺と一緒にこれからもいて欲しいんだ。…どう?」
…うそでしょう?エルがそんな事考えていたなんて。でも、エルの声は、とても冷静で、真面目に話しているように聞こえた。
どうしよう…でもそうよ。私だってエルといると楽しかったわ。物心ついた頃には、よくエルがいたもの。私が領地を回る時もよくついて来てくれて。いろいろと助かったし、いつも傍にいて手伝ってくれた。男の人は怖いけど、エルは怖くないし。…でも。
「私、エルの事あまり知らないわ。」
そう。エルは家庭の事とか何も言わない。私兵団の寮で生活していると言っていて、たまに王都へ行っているみたいだけど。言い出さないからあえて聞かなかった。私と同じようにお兄様がいて、ご結婚されていて。その人にはお子さんもいる、くらいしか知らない。
「そうだよな…。俺を知ったら、遠ざかっていくんじゃないかと言い出せなかったんだ…。」
エルがめちゃくちゃ泣きそうな顔をしている。多分、犬のように尻尾があれば確実に下がっているわね…。
でも、何者だからって、私の態度が何か変わるかしら?エルがどんな人でも、私は接し方を変えたりしないわ!って、犯罪者だったらどうしましょ…お兄様やお父様、泣き出すかしら。
「エル、聞いて。私、あまり口が達者じゃないからうまく言えないけど、エルが犯罪者でも良いのよ。お兄様やお父様が泣いてしまうかもしれないけど、エルがいつも一緒にいてくれて、嬉しかったもの。」
そう言うと、エルはなぜか唇を噛みしめた。
「あ、傷になるわ!」
「ありがとう。ティア…。」
そう言って、エルは私を引き寄せ、抱きしめた。最後の声は掠れていたのでもしかしたら泣いているのかもしれない。泣き顔を見られたくなかったのかもしれないわ。
「エル。今まで、エルは何も話さなかったから、聞いてはいけないかと思っていたの。エルが話せるようになったらでいいわ。家族の事や、もっとエルの事教えて?」
そう私は言って、エルの背中に手を回した。
するとエルは、私の背中をトントンと軽く叩いて、
「ありがとう。ところで、ティアはこの国の国王陛下の顔って見たことある?」
と言われた。
え?いきなり話が飛んだのかしら…?
「いいえ。私はこの領地から出たことないし、見たことないわ。」
「そうか…でも名前は知っているかい?」
「ええ。それくらいは知っているわ。名前はヤヴォル=タスリン国王陛下でしょ?」
「そうだ。そして、その方に弟がいるの知っている?」
「弟?ええと…ダニエル=タスリン王弟殿下だったわよね。お勉強したもの。」
「そうか。偉いな。そして、俺の本名は、ダニエル=タスリンなんだ。」
「ふーん、そうなの。え?同じ名前…?」
「同姓同名は無理だよ。タスリンは、国の名前だからね。意味、分かる?」
えっと…え?エルは確かにお兄様がいると言っていたわ。そして王弟殿下と同じ名前、いえ本人って事?
「え…えーっ!」
そ、そうだったの?でも誰も…
「王族としてでなく、一人の人として接して欲しかったんだ。だからこの領地に来てわざわざ本名は言ってない。私兵団でも自分からは名乗ってないんだ。まぁ、薄々分かって、それでも知らないふりをして接してくれている奴もいるがな。」
そ…そう…。私兵団の人達といるのを遠目で見掛ける時は身分差なんて、上官とか見習い兵とか、そういう団員内の上下しか感じなかったわ。まぁ、私兵団の人達と私はそんなに一緒にはいられなかったので気付かなかっただけかもしれないけれど…。
「俺が王族って、嫌?」
不意にエルがこちらを見て、震える声で呟いた。私は慌てて、
「エルはエルよ!むしろ、犯罪者じゃなくて良かったわ!あ…でも…」
「でも?」
「こんな口の利き方、ダメ?」
「いや…むしろ、2人でいるときは今まで通りがいいな。公の場では口うるさい奴から何か言われるかもしれないけれど。」
「フフ。そっか!エル、私も…」
ピィーーーーーピィーーーピィーーーー
えっ!?
「くそっ!!ティア。ごめん!行かないと。屋敷に戻れるか?」
「私は大丈夫よ。あの笛、私兵団の非常用の笛よね。」
「あぁ。ごめん!俺…いや。やっぱ心配だ。ティアを送ってから行くよ。」
「ダメよ。役割は果たすのが務めよね。私も私のする事をするわ。エル、無事に戻ってきてね。」
「当たり前だよ!せっかくティアと…もう少し話さないといけないからな。ティアも気をつけろよ。」
「ええ。いってらっしゃい!」
さてと。ここにいる人達も、残念だけどお開きよね。
あ、火をくべていた私兵団の団員が、一般町民に指示を出してくれているわ。ではこちらは任せて大丈夫そうね。
私は…うん、行かないと。
「それでね、婚約なんて相手がいなければ出来ないだろ?相手を、俺はいつからかティアだったらいいなと思っていたんだ。でもティアは、男が苦手だろ?どうしたもんかと悩んでいたんだ。けど、やっぱ諦めきれない。ティアといると俺は、自分でいていいんだと思えたんだ。ティアが俺の傍からいなくなったら、もう生きている価値がない。ティアと離れて仕事をしていた時は、次にいつ会いに行こうかなって考えながらやっていたんだ。ティア。俺と一緒にこれからもいて欲しいんだ。…どう?」
…うそでしょう?エルがそんな事考えていたなんて。でも、エルの声は、とても冷静で、真面目に話しているように聞こえた。
どうしよう…でもそうよ。私だってエルといると楽しかったわ。物心ついた頃には、よくエルがいたもの。私が領地を回る時もよくついて来てくれて。いろいろと助かったし、いつも傍にいて手伝ってくれた。男の人は怖いけど、エルは怖くないし。…でも。
「私、エルの事あまり知らないわ。」
そう。エルは家庭の事とか何も言わない。私兵団の寮で生活していると言っていて、たまに王都へ行っているみたいだけど。言い出さないからあえて聞かなかった。私と同じようにお兄様がいて、ご結婚されていて。その人にはお子さんもいる、くらいしか知らない。
「そうだよな…。俺を知ったら、遠ざかっていくんじゃないかと言い出せなかったんだ…。」
エルがめちゃくちゃ泣きそうな顔をしている。多分、犬のように尻尾があれば確実に下がっているわね…。
でも、何者だからって、私の態度が何か変わるかしら?エルがどんな人でも、私は接し方を変えたりしないわ!って、犯罪者だったらどうしましょ…お兄様やお父様、泣き出すかしら。
「エル、聞いて。私、あまり口が達者じゃないからうまく言えないけど、エルが犯罪者でも良いのよ。お兄様やお父様が泣いてしまうかもしれないけど、エルがいつも一緒にいてくれて、嬉しかったもの。」
そう言うと、エルはなぜか唇を噛みしめた。
「あ、傷になるわ!」
「ありがとう。ティア…。」
そう言って、エルは私を引き寄せ、抱きしめた。最後の声は掠れていたのでもしかしたら泣いているのかもしれない。泣き顔を見られたくなかったのかもしれないわ。
「エル。今まで、エルは何も話さなかったから、聞いてはいけないかと思っていたの。エルが話せるようになったらでいいわ。家族の事や、もっとエルの事教えて?」
そう私は言って、エルの背中に手を回した。
するとエルは、私の背中をトントンと軽く叩いて、
「ありがとう。ところで、ティアはこの国の国王陛下の顔って見たことある?」
と言われた。
え?いきなり話が飛んだのかしら…?
「いいえ。私はこの領地から出たことないし、見たことないわ。」
「そうか…でも名前は知っているかい?」
「ええ。それくらいは知っているわ。名前はヤヴォル=タスリン国王陛下でしょ?」
「そうだ。そして、その方に弟がいるの知っている?」
「弟?ええと…ダニエル=タスリン王弟殿下だったわよね。お勉強したもの。」
「そうか。偉いな。そして、俺の本名は、ダニエル=タスリンなんだ。」
「ふーん、そうなの。え?同じ名前…?」
「同姓同名は無理だよ。タスリンは、国の名前だからね。意味、分かる?」
えっと…え?エルは確かにお兄様がいると言っていたわ。そして王弟殿下と同じ名前、いえ本人って事?
「え…えーっ!」
そ、そうだったの?でも誰も…
「王族としてでなく、一人の人として接して欲しかったんだ。だからこの領地に来てわざわざ本名は言ってない。私兵団でも自分からは名乗ってないんだ。まぁ、薄々分かって、それでも知らないふりをして接してくれている奴もいるがな。」
そ…そう…。私兵団の人達といるのを遠目で見掛ける時は身分差なんて、上官とか見習い兵とか、そういう団員内の上下しか感じなかったわ。まぁ、私兵団の人達と私はそんなに一緒にはいられなかったので気付かなかっただけかもしれないけれど…。
「俺が王族って、嫌?」
不意にエルがこちらを見て、震える声で呟いた。私は慌てて、
「エルはエルよ!むしろ、犯罪者じゃなくて良かったわ!あ…でも…」
「でも?」
「こんな口の利き方、ダメ?」
「いや…むしろ、2人でいるときは今まで通りがいいな。公の場では口うるさい奴から何か言われるかもしれないけれど。」
「フフ。そっか!エル、私も…」
ピィーーーーーピィーーーピィーーーー
えっ!?
「くそっ!!ティア。ごめん!行かないと。屋敷に戻れるか?」
「私は大丈夫よ。あの笛、私兵団の非常用の笛よね。」
「あぁ。ごめん!俺…いや。やっぱ心配だ。ティアを送ってから行くよ。」
「ダメよ。役割は果たすのが務めよね。私も私のする事をするわ。エル、無事に戻ってきてね。」
「当たり前だよ!せっかくティアと…もう少し話さないといけないからな。ティアも気をつけろよ。」
「ええ。いってらっしゃい!」
さてと。ここにいる人達も、残念だけどお開きよね。
あ、火をくべていた私兵団の団員が、一般町民に指示を出してくれているわ。ではこちらは任せて大丈夫そうね。
私は…うん、行かないと。
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