上 下
6 / 16

ティアとの出会い エル視点

しおりを挟む
俺は、ダニエル=タスリン。容姿は金髪青目。この国の国王陛下の弟だ。8歳年上の兄とは仲はそれなりに良い。むしろここ十何年は構い過ぎと思うくらいだ。

昔から王宮が嫌だった。

俺が10歳の頃。
母上が亡くなり、父上も体が弱って亡くなって。俺は人間不信になっていたんだ。もしかしたら、母上も父上も、欲望にまみれたやつらが何か手を下したのかもしれないって。

そして兄上が18歳で国王陛下になり。俺はスペアの存在だったのが、邪魔な存在となった。
俺がいると、良からぬ事を考え出す奴がいたのだ。俺に、【本当に国王に相応しいのはあなただ】と言ってくる奴らがいた。そんな気さらさらないのに。

反対に、俺を邪魔だと思う奴もいたな。毒を飲まされそうになったり、部屋に帰るとなぜか見知らぬ女がベッドにいたりもした。俺は、心休まる時が無くなっていった。

そんな時、父上と同世代だったクロベルン辺境伯が【私と一緒に田舎へ行きませんかな?】と言ってくれたのだ。【来るなら、何でも自分で出来るようになっていただく必要がありますがな。】と。俺は、王子だということに嫌気がさしていたし、別に王宮から離れられるならどこでも良かったからついて行く事にしたんだ。
辺境伯が言った言葉は嘘じゃなく、何でも自分で出来るようにと、少し辺境伯の邸でお世話になったあと、辺境伯の私兵団の寮に入れられ、そこで寝食を共に暮らしていた。稽古は辛い事がほとんどだったが、結果的にすごく有難かった。


王宮は、欲望が蠢きすぎる。少しずつ成長する俺に、初めは【兄上のように優秀であれ】と家庭教師を始め、大人達が期待を降り注ぎ、俺がそこそこ成長すると【第一王子殿下を差し置いて国王になりたいのではないか】と猜疑心を持った大人達に心無い言葉を言われたりした。
母上と父上が亡くなったのも、そんな大人達が画策したのではないかと俺は悩んみ、心が荒んでいたんだ。

そんな時だ。辺境伯に言われ、初めは辺境伯の領地の屋敷で一ヶ月ほどか。生活をさせてもらった。初めての田舎生活。戸惑う事も多かったが、澄んだ空気と、あの嫌な大人達の目がない分俺は開放的になれた。
そこには2歳になる辺境伯の娘のミーティアもいた。ミーティアは2歳なのにいつも屋敷の敷地内をうろうろし、姿が見えないといつも捜索されていた。たいていは図書館で本を読み漁っているか、敷地内の庭を散策しているらしかった。
俺は、小さくて可愛いらしく、触れたら壊れそうなミーティアを遠目で見る事しか出来ず、捜索する時にはたまに加わるだけだった。

そんな暇を持て余した俺に、辺境伯は【うちの私兵団で鍛えてみないか】と言ってきた。確かに、何もする事がなくダラダラと過ごしているのは性に合わなかったので、二つ返事でそうする事とした。
しかし、10歳の俺が、体つきの良い屈強な男たちの中に混じってなんてとてもじゃないが練習について行けなかった。だから、死にもの狂いで体力を付けた。屋敷に帰る体力もなく、併設された寮で、私兵と共に生活をした。そこにいる者達は、初めは俺が小さいからかバカにして見向きもしなかった。だが、俺が汗を流し、時には涙も流し基礎体力作りをしていると、【ここはこうした方がいい】などとアドバイスをくれる者が一人、二人と増えてきた。
辺境伯の一人息子のスヴェンは俺より二つ年上で、辺境伯に言われていたのか良く声を掛けてきた。
始めは馴れ合うつもりはなかったが、本音を言える相手がいるのは思いの外心地よく、スヴェンはかなりの魔法の使い手でもあったため共に私兵団で鍛え、たまに森から出てくる〝闇の獣〟と戦う討伐隊に加わる事ができるようになってきた。やっと、生きてていいんだと思うようになったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】前世で私を殺した騎士が、話を聞いてくれと迫ってきます〜辺境伯令嬢に転生した魔女は騎士の執着から逃れたい〜

恋愛
 魔女狩りがおこなわれた世界。最後の魔女となっていた私は、親しくなった騎士に殺された。  その時、私は願った。 「次に生まれ変わるなら、平凡な……普通の人に……」  それなのに、平凡とも普通と程遠い、辺境伯令嬢に生まれ変わっていた。  領地は辺境。それゆえの問題を解決するためと、辺境に婿入りしてくれる令息を探すため社交界デビューをした私。  意気込んで乗り込んだ舞踏会にいたのは、前世で私を殺した騎士が生まれ変わった青年。  関わり合いたくない私は速攻で逃げた。でも、青年は追ってきて――――――  辺境伯令嬢に転生した魔女が、王子に転生したワンコ騎士からの重すぎる愛に気が付かない物語。 ※小説家になろう、魔法のiランドにも掲載

私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?

光子
恋愛
「お前なんかと結婚したことが俺様の人生の最大の汚点だ!」 ――それはこちらの台詞ですけど? グレゴリー国の第一王子であり、現王太子であるアシュレイ殿下。そんなお方が、私の夫。そして私は彼の妻で王太子妃。 アシュレイ殿下の母君……第一王妃様に頼み込まれ、この男と結婚して丁度一年目の結婚記念日。まさかこんな仕打ちを受けるとは思っていませんでした。 「クイナが俺様の子を妊娠したんだ。しかも、男の子だ!グレゴリー王家の跡継ぎを宿したんだ!これでお前は用なしだ!さっさとこの王城から出て行け!」 夫の隣には、見知らぬ若い女の姿。 舐めてんの?誰のおかげで王太子になれたか分かっていないのね。 追い出せるものなら追い出してみれば? 国の頭脳、国を支えている支柱である私を追い出せるものなら――どうぞお好きになさって下さい。 どんな手を使っても……貴方なんかを王太子のままにはいさせませんよ。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

今、婚約発表した2人は聞かせたいことがある!

白雪なこ
恋愛
短編「今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!」に出てきた王弟ジーリアス・エンゲレスの婚約発表の話です。 彼から大事な話があるそうなので、聞いてあげてください。

婚約破棄を言い渡された私は、元婚約者の弟に溺愛されています

天宮有
恋愛
「魔法が使えない無能より貴様の妹ミレナと婚約する」と伯爵令息ラドンに言われ、私ルーナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 家族には勘当を言い渡されて国外追放となった私の元に、家を捨てたラドンの弟ニコラスが現れる。 ニコラスは魔法の力が低く、蔑まれている者同士仲がよかった。 一緒に隣国で生活することを決めて、ニコラスは今まで力を隠していたこと、そして私の本来の力について話してくれる。 私の本来の力は凄いけど、それを知ればラドンが酷使するから今まで黙っていてくれた。 ニコラスは私を守る為の準備をしていたようで、婚約破棄は予想外だったから家を捨てたと教えてくれる。 その後――私は本来の力を扱えるようになり、隣国でニコラスと幸せな日々を送る。 無意識に使っていた私の力によって繁栄していたラドン達は、真実を知り破滅することとなっていた。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処理中です...