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貴族となったアンネッタ
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男爵家に到着したアンネッタは、トマーゾと応接室で対面した。
「よく来てくれたな!今日からアンネッタは、私の娘である。いいかね、君は今日から貴族の仲間入りだ。」
「はい。」
「という事はだね、貴族の事を勉強してもらわないといけないんだ。いいかい?私の言う事をよく聞いて、ロッセッティ男爵家の名に恥じぬよう生活するのがこれからのアンネッタの仕事だよ。」
「はい。」
「いい返事だ!
ではあとは、家の者に任せるとしよう。私も、男爵の仕事が忙しいからね。」
そう言うと、トマーゾは入り口に控えていた侍従に目配せすると、侍従が一礼してアンネッタの傍まで来て言った。
「では、部屋に案内いたします。こちらへどうぞ。」
「はい。」
アンネッタは、御者もだったが先ほどから丁寧な言葉遣いをされ、なんだか自分が偉い人になったような錯覚を覚えた。そして、くすぐったいような変な気分だと思いながら、侍従の後についていこうとしてふと立ち止まり、男爵へと振り返った。
「どうした?」
「いえ、これからよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げたアンネッタに、気をよくしたトマーゾはうんうんと頷きながら呟く。
「アンネッタをよそにやるのは勿体ないなぁ…成長すればきっとさぞかし……。
いや、でも他の家と繋がりを持つために養女としたのだ。どこぞの高位貴族に見初めてもらえでもしたら幸甚の極みであるが…まだそこまでいくにはあと数年掛かるか。
いやぁ勿体ない。」
トマーゾは首を振って唸っている。
「アンネッタ様、どうぞこちらへ。」
アンネッタは、トマーゾの言葉の理解が出来ず首を傾げたが、侍従の言葉に踵を返し、応接室を出て行った。
☆★
まずはその日から、食事の時間に実践しながらマナーを覚える事となったアンネッタ。食事はどれも美味しく、食堂で食べたものよりも品数も多く素晴らしいほどだったが、所作を逐一注意されてゆっくり味わって食べられないのが嫌だった。
だが、一週間もすれば注意もされず食べられるようになったアンネッタは、教えてくれた侍女長と侍従長にえらく褒められ、やっとこれで味わって食べられると喜んだ。
《食堂でお世話になっていたんだもの、いろんな食べ方の人を見てきたわ。
溢しながら食べる人は目を背けたくなったし、綺麗な食べ方の人もいたものね!
ちょっと面倒ではあるけれど、綺麗に食べる事は作ってくれた人にも敬意を払う事だって女将さんも教えてくれたし。》
アンネッタは、食堂でお世話になるまでは調理された料理を食べた記憶が無かった。果物だったり、トマトなどの野菜だったり、あとは稀にバケットなどを食べたような記憶はあったが、それも一日に二回食べれれば良い方であった。母親がどうやってそれを調達してきたかはもうすでに覚えていないし、母親の顔さえ覚えていない。
だからなのか、食堂での生活はとても充実していた。食事は、残り物ではあったが毎日手作りの美味しいものを食べさせてもらえたし、子供には大変ではあったが、少しずつ接客を教えてもらい、言葉遣いも常連客達から教わった。
初めは、女将さんや常連客達の話し方を真似していたが、ある時それではさすがに可愛いアンネッタには似合わないと皆で話し方を教えた。
賑やかな食堂で過ごすうち、淋しいと思う事も薄れ、時には常連客達からいただく贈り物を大切に部屋に置いていた。
そして、その贈り物は、今、アンネッタに与えられた部屋ではなくその奥にある衣装部屋の片隅に陳列されている。
使用人達は、小汚いそれを部屋に飾るのは忍びないと『そのような素敵な思い出は、衣装部屋に飾りましょうね』と言葉巧みに言って専用のキャビネットを作り、アンネッタもそれを喜んでいた。
宛がわれた部屋は、アンネッタが世話になっていた食堂よりも広く、置かれている調度品も重厚感のあるものばかりで、アンネッタは驚く事ばかり。
自分が着る服を置く衣装部屋も、食堂よりも広かったし、服も、これから好きなものを好きなだけ増やしましょうと言われた時には理解するのに時間が掛かった。
《服って、いろんな種類があるのね!》
アンネッタが今まで着ていた服は上下がくっついて一枚になっているもので、薄手のワンピースばかりであった。
それが、衣装部屋にあるものは生地の厚いワンピースであったり、デザインが様々なものであったり、腰の部分から広がっているドレスだったりもあった。サイズは、ここにあるものは既製品であるから徐々にアンネッタに合わせるのだと侍女から教えてもらった。
「全てアンネッタ様のものでございます。後々、ドレスはサイズを測ってアンネッタ様仕様に作ってもらいましょう。」
そう聞き、自分のサイズを測って自分用にだなんてとアンネッタは目を見開いた。
「アンネッタ様が、作法を覚えられればすぐにでも社交の場に出られるでしょう。ですから、頑張りましょう!」
「さほう?」
「そうでございます。貴族は、社交の場といって、他の貴族達と交流する場があるのです。そこで、アンネッタ様はいろいろな方と交流するのです。けれどもそこでは、様々な作法…やり方といいますか、ルールを覚えていただかないと出席出来ないのです。」
「…わかりました。」
「アンネッタ様、私どもにはそのような口調でお話にならないで下さいませ。そうですね、ではそのようなところから…」
こうして、次にアンネッタは男爵家で作法や細かい仕草などを学んでいった。
☆★
アンネッタが男爵家へ来て三ヶ月。
所作もだいぶ様になってきて、トマーゾは早くも皆にアンネッタを見せたいととある子爵家のガーデンパーティーにやってきた。
「いいかね、私の隣で先ほど教えた挨拶をして、微笑んでいればいいからね。分かったね?」
「はい、わかりました。お義父さま。」
「おお、良いねぇ!
可愛いなぁ…本当に勿体ない。」
トマーゾはデレデレと鼻の下を伸ばし、気分を変えるように首を振ってから会場を見渡した。
「まだ子爵は来ておらんな。よし、あちらから挨拶にいこう。」
始まりまではまだ時間がある為、トマーゾはアンネッタを連れて挨拶に回る。
アンネッタは、桃色の髪を緩く巻いており、そんな髪をフワフワと揺らしながら遅れないように必死について行く。そんな健気な姿に、誰もが振り返り、トマーゾに声を掛ける。
「おや、トマーゾ男爵。お久しぶりですな。」
「おやおや、これはこれは!お久しぶりでございます。
こちらは、此度私の娘となりました、アンネッタと言います。」
「ほう…これはまた可愛らしい!」
そう話している傍から違う貴族に話し掛けられる。
「トマーゾ男爵、お久しぶりです。そちらは?娘さん、ですかな?」
「どうも、トマーゾ男爵。たいそう綺麗な子ですね。私もお話に混ぜていただきたい。」
「お久しぶりですトマーゾ男爵。
そちらは、どんなご関係で?」
トマーゾは、こんなに一気に話し掛けられた事はなく、気分よく返事をする。
「これはこれは!皆さんお久しぶりです。
こちらは、私の娘となったアンネッタです。ほれ、アンネッタもご挨拶を。」
「はい、お義父さま。
皆さま、お初にお目に掛かります。アンネッタと申します。どうぞ、よろしくおねがいいたします。」
拙い感じではにかみながら口上すれば、アンネッタの父親よりも上の年代の彼らはほう…とため息を吐く。まだ成人もしていない年齢であるが、顔つきもとても可愛らしく、一同は皆、守ってあげたくなるようなそんな思いさえ沸いてくるようだった。
誰も彼もトマーゾとアンネッタとの関係が知りたいと、二人を囲み始める。トマーゾは自分の企みが上手くいったと高笑いしたいのを堪え、一人一人丁寧にアンネッタを紹介したのだった。
アンネッタは、この三ヶ月教わった事といえば貴族としての所作や作法、それから困った時の対処法ーーー主に恥ずかしそうに俯く、にっこりと微笑んだり、自分では答えられないから義父に聞いて欲しいと上目遣いで相手を見つめるなどーーーだけで、貴族の一人一人の名前まで教わっていなかったため、失敗しないように言葉を選びながら自己紹介をするのに精一杯で、誰一人として相手の名前を覚えられなかった。
そして、その日からトマーゾの家に様々な贈り物が届くようになり、アンネッタは貴族の家で開かれるガーデンパーティーに招待されるようになったのだった。
「よく来てくれたな!今日からアンネッタは、私の娘である。いいかね、君は今日から貴族の仲間入りだ。」
「はい。」
「という事はだね、貴族の事を勉強してもらわないといけないんだ。いいかい?私の言う事をよく聞いて、ロッセッティ男爵家の名に恥じぬよう生活するのがこれからのアンネッタの仕事だよ。」
「はい。」
「いい返事だ!
ではあとは、家の者に任せるとしよう。私も、男爵の仕事が忙しいからね。」
そう言うと、トマーゾは入り口に控えていた侍従に目配せすると、侍従が一礼してアンネッタの傍まで来て言った。
「では、部屋に案内いたします。こちらへどうぞ。」
「はい。」
アンネッタは、御者もだったが先ほどから丁寧な言葉遣いをされ、なんだか自分が偉い人になったような錯覚を覚えた。そして、くすぐったいような変な気分だと思いながら、侍従の後についていこうとしてふと立ち止まり、男爵へと振り返った。
「どうした?」
「いえ、これからよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げたアンネッタに、気をよくしたトマーゾはうんうんと頷きながら呟く。
「アンネッタをよそにやるのは勿体ないなぁ…成長すればきっとさぞかし……。
いや、でも他の家と繋がりを持つために養女としたのだ。どこぞの高位貴族に見初めてもらえでもしたら幸甚の極みであるが…まだそこまでいくにはあと数年掛かるか。
いやぁ勿体ない。」
トマーゾは首を振って唸っている。
「アンネッタ様、どうぞこちらへ。」
アンネッタは、トマーゾの言葉の理解が出来ず首を傾げたが、侍従の言葉に踵を返し、応接室を出て行った。
☆★
まずはその日から、食事の時間に実践しながらマナーを覚える事となったアンネッタ。食事はどれも美味しく、食堂で食べたものよりも品数も多く素晴らしいほどだったが、所作を逐一注意されてゆっくり味わって食べられないのが嫌だった。
だが、一週間もすれば注意もされず食べられるようになったアンネッタは、教えてくれた侍女長と侍従長にえらく褒められ、やっとこれで味わって食べられると喜んだ。
《食堂でお世話になっていたんだもの、いろんな食べ方の人を見てきたわ。
溢しながら食べる人は目を背けたくなったし、綺麗な食べ方の人もいたものね!
ちょっと面倒ではあるけれど、綺麗に食べる事は作ってくれた人にも敬意を払う事だって女将さんも教えてくれたし。》
アンネッタは、食堂でお世話になるまでは調理された料理を食べた記憶が無かった。果物だったり、トマトなどの野菜だったり、あとは稀にバケットなどを食べたような記憶はあったが、それも一日に二回食べれれば良い方であった。母親がどうやってそれを調達してきたかはもうすでに覚えていないし、母親の顔さえ覚えていない。
だからなのか、食堂での生活はとても充実していた。食事は、残り物ではあったが毎日手作りの美味しいものを食べさせてもらえたし、子供には大変ではあったが、少しずつ接客を教えてもらい、言葉遣いも常連客達から教わった。
初めは、女将さんや常連客達の話し方を真似していたが、ある時それではさすがに可愛いアンネッタには似合わないと皆で話し方を教えた。
賑やかな食堂で過ごすうち、淋しいと思う事も薄れ、時には常連客達からいただく贈り物を大切に部屋に置いていた。
そして、その贈り物は、今、アンネッタに与えられた部屋ではなくその奥にある衣装部屋の片隅に陳列されている。
使用人達は、小汚いそれを部屋に飾るのは忍びないと『そのような素敵な思い出は、衣装部屋に飾りましょうね』と言葉巧みに言って専用のキャビネットを作り、アンネッタもそれを喜んでいた。
宛がわれた部屋は、アンネッタが世話になっていた食堂よりも広く、置かれている調度品も重厚感のあるものばかりで、アンネッタは驚く事ばかり。
自分が着る服を置く衣装部屋も、食堂よりも広かったし、服も、これから好きなものを好きなだけ増やしましょうと言われた時には理解するのに時間が掛かった。
《服って、いろんな種類があるのね!》
アンネッタが今まで着ていた服は上下がくっついて一枚になっているもので、薄手のワンピースばかりであった。
それが、衣装部屋にあるものは生地の厚いワンピースであったり、デザインが様々なものであったり、腰の部分から広がっているドレスだったりもあった。サイズは、ここにあるものは既製品であるから徐々にアンネッタに合わせるのだと侍女から教えてもらった。
「全てアンネッタ様のものでございます。後々、ドレスはサイズを測ってアンネッタ様仕様に作ってもらいましょう。」
そう聞き、自分のサイズを測って自分用にだなんてとアンネッタは目を見開いた。
「アンネッタ様が、作法を覚えられればすぐにでも社交の場に出られるでしょう。ですから、頑張りましょう!」
「さほう?」
「そうでございます。貴族は、社交の場といって、他の貴族達と交流する場があるのです。そこで、アンネッタ様はいろいろな方と交流するのです。けれどもそこでは、様々な作法…やり方といいますか、ルールを覚えていただかないと出席出来ないのです。」
「…わかりました。」
「アンネッタ様、私どもにはそのような口調でお話にならないで下さいませ。そうですね、ではそのようなところから…」
こうして、次にアンネッタは男爵家で作法や細かい仕草などを学んでいった。
☆★
アンネッタが男爵家へ来て三ヶ月。
所作もだいぶ様になってきて、トマーゾは早くも皆にアンネッタを見せたいととある子爵家のガーデンパーティーにやってきた。
「いいかね、私の隣で先ほど教えた挨拶をして、微笑んでいればいいからね。分かったね?」
「はい、わかりました。お義父さま。」
「おお、良いねぇ!
可愛いなぁ…本当に勿体ない。」
トマーゾはデレデレと鼻の下を伸ばし、気分を変えるように首を振ってから会場を見渡した。
「まだ子爵は来ておらんな。よし、あちらから挨拶にいこう。」
始まりまではまだ時間がある為、トマーゾはアンネッタを連れて挨拶に回る。
アンネッタは、桃色の髪を緩く巻いており、そんな髪をフワフワと揺らしながら遅れないように必死について行く。そんな健気な姿に、誰もが振り返り、トマーゾに声を掛ける。
「おや、トマーゾ男爵。お久しぶりですな。」
「おやおや、これはこれは!お久しぶりでございます。
こちらは、此度私の娘となりました、アンネッタと言います。」
「ほう…これはまた可愛らしい!」
そう話している傍から違う貴族に話し掛けられる。
「トマーゾ男爵、お久しぶりです。そちらは?娘さん、ですかな?」
「どうも、トマーゾ男爵。たいそう綺麗な子ですね。私もお話に混ぜていただきたい。」
「お久しぶりですトマーゾ男爵。
そちらは、どんなご関係で?」
トマーゾは、こんなに一気に話し掛けられた事はなく、気分よく返事をする。
「これはこれは!皆さんお久しぶりです。
こちらは、私の娘となったアンネッタです。ほれ、アンネッタもご挨拶を。」
「はい、お義父さま。
皆さま、お初にお目に掛かります。アンネッタと申します。どうぞ、よろしくおねがいいたします。」
拙い感じではにかみながら口上すれば、アンネッタの父親よりも上の年代の彼らはほう…とため息を吐く。まだ成人もしていない年齢であるが、顔つきもとても可愛らしく、一同は皆、守ってあげたくなるようなそんな思いさえ沸いてくるようだった。
誰も彼もトマーゾとアンネッタとの関係が知りたいと、二人を囲み始める。トマーゾは自分の企みが上手くいったと高笑いしたいのを堪え、一人一人丁寧にアンネッタを紹介したのだった。
アンネッタは、この三ヶ月教わった事といえば貴族としての所作や作法、それから困った時の対処法ーーー主に恥ずかしそうに俯く、にっこりと微笑んだり、自分では答えられないから義父に聞いて欲しいと上目遣いで相手を見つめるなどーーーだけで、貴族の一人一人の名前まで教わっていなかったため、失敗しないように言葉を選びながら自己紹介をするのに精一杯で、誰一人として相手の名前を覚えられなかった。
そして、その日からトマーゾの家に様々な贈り物が届くようになり、アンネッタは貴族の家で開かれるガーデンパーティーに招待されるようになったのだった。
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