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3 薬草

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「いや…それが…良く分からなくて…。」

なんだかさっきから、歯切れが悪いわよね。こんなにオドオドと話されたら、私が尋問しているみたいだわ。

ウォルターだと名乗ったその男の子は、私と同じ位か年下に見える。
黒髪で、無造作に肩まで伸ばした髪は、幼さを残す顔と細身で華奢な体躯と相まって見ようによっては女の子にも見える。
前髪も、目を隠す位伸びているので、瞳の色は分からない。

私は赤茶色の髪で、お父様も赤茶色だったから、黒髪は珍しいなと思った。
最も、私もあまり人には会わない生活をしているけれど、街の人達はもう少し色の付いた髪色だった。

「あなたそれでよく、探そうと思ったわね!いいわ。少し待っていなさい!そこにお茶を煎じたポットがあるから、コップはそこの棚ね。お茶でも飲んで待っていて。」
そう声を掛け、奥の調合室に行って棚を確認する。

確か、作り置きがあったはずなのだけど…

あ、あった!


「はい。これでいいかしら。これは少し苦いけれど水と一緒に飲めば、効くはずよ。」
と、数種類の薬草をすり潰し調合した物を入れた小瓶をウォルターへと渡した。

「え…」

すると、彼は驚いて時が止まったようにピクリとも動かない。

「えっと…ウォルター?大丈夫??おーい。」

と、私は彼の顔の前で片手を振った。

「あ!あ、あぁ…。いやいきなり薬が出てきたから。えっと…これは?」

「だから、ベッテルに効く薬よ。私が作ったの。水と一緒に飲ませてね。その人は水分は取れてるの?」

「いや…。」
とても暗い表情で俯いた。症状は芳しくないのかしら。

「そう…。水分は取れないのは良くないわ。意識はあるのかしら?ガーゼなどに水を含ませて少しずつ口に含ませるのも、一つの方法よ。」
そう言うと、彼は顔を上げた。

「うん、分かった。やってみるよ!」
とやっと、私が差し出した小瓶を手に取った。

「早く帰って薬を飲ませた方が良いのじゃないかしら。」

「そうだよね、いろいろとありがとう!その…えっと、済まなかった。」
お父様の事を含めて言っているのかしら。

「ええ。いいわ。困っている人がいるなら助けないとね。」

「ああ!ありがとう!!」
そう言ったウォルターは顔を上げて、やっと私の顔を見て、素敵な笑顔を向けた。

…やだわ。意外にも整った目鼻立ちね。瞳は水色だったから、髪の色は暗いのに、優しい印象だわ。髪の毛、短く切ればいいのに。

そんな事を思いながら、ウォルターを見送った。




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