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5. 社交へ出掛ける前のいつもの出来事

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「シンシア。あなたのドレス、素敵じゃないの。それ、私にちょうだい。」

 …また始まった。

 この時は、私が十一歳頃だったと思います。お姉様が学院に通っている頃でしたか。

 お姉様は、私と顔を合わせると大抵こんな会話をしてきます。いい加減他の会話は出来ないのでしょうか。
それに今ドレスを脱いで渡したら着替えも含めると確実に遅刻してしまいます。

「ねぇ、シンシアいいでしょう?私、病弱だから、せめてドレスで華やかな気分になりたいのよ。」

「そうよ、シンシア!そのドレス、ダリアにあげなさい!そうしたらダリアもきっと元気になるわ!」

 お母様、お姉様はこんなにキャンキャンと吠え立てるように話しているのですよ。どこが病弱なのでしょうか?『きっと元気になる』って、充分元気に見えますけれど。

 それに…私は金髪に緑の瞳ですから、この緑色のドレスが似合うと思うのですけれど。

 お姉様は、お母様と同じこげ茶色の髪にこげ茶色の瞳ですよね。
うーん、まぁ…それはそれで似合うと思いますけれど、私はお姉様のようにデコルテはかなり開いて作っておりませんよ?
今着ているデコルテのかなり開いた真紅のドレスはダリア姉様にとってもお似合いだと思いますわよ。

「…はぁ。お姉様。淑女たるもの、人の物を無闇に欲しがってはいけないのですよ。お母様も、私のドレスをもらってお姉様が果たして本当に喜ぶと思いますか?私のドレスは、お姉様みたいに胸元は開いておりませんし、お姉様の今お召しになっているドレスは、とてもよくお似合いですけれど。」

 ただ、今は昼間で、これから庭園で開かれるガーデンパーティーに行くのですから、なぜ今そのような夜会に着ていくようなドレスを着ているのか疑問ではありますけれど。
ああ、でももう馬車に乗る時間ですわね。まさかそれを着て出席するのですか!?

 ………一緒に居たくないわ。

 会場に行けば、お父様が待っておられるでしょうからそれまでの我慢ですわね。私は今の所後継者として、そのような社交の時は大抵お父様の傍にいるようになったもの。
セインがもう少し大きくなれば、セインが取って代わるでしょうけれど。

「まぁ!私に歯向かうつもり!?でもまぁ、このドレスが似合うと褒めてくれたのだけは、許してあげるわ!じゃあ、そのイヤリングでいいわ。小さくて見えないくらいだけれど、それで我慢してあげる。貸しなさい。」

「お姉様、今あなたは耳がちぎれんばかりの大きな三日月のイヤリングをしていると思うのですけれど。私のも重ねてつけるおつもりですか?耳が取れないといいですわね。」

「そ、そうよ!シンシアのは石ころみたいに小さいけれど、宝石が真ん中にあるのでしょ?それも合わせたら、もっと素敵になりそうじゃない!ほら、早く!」

 …全く、面倒ですね。一度駄々をこね始めると、気が収まるまで言い続けるのですから厄介なものです。これで本当に私よりも年上なのでしょうか。

 まぁ、でも早く馬車に乗らなければいけないですものね。
本当は別々に向かえるといいのですけれど…。馬車をもう一つお願いするなんて贅沢はできませんものね。

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