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9. 学院の愚痴

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「学院はとてもいい所です。ただ…年配の先生がとても良く褒めて下さるのです。素晴らしい!偉いねって。僕は、そこまでまだ優秀ではありません。けれど、少し答えただけで褒めちぎらんばかりに喝采して下さるのです。で、昨日授業後に職員室へ行って聞いてみたのです。『僕は優秀ではないのになぜそんなに褒めて下さるのですか?』と。そうしたら、『だってクレムフィス伯爵家のお姉様は、こう言っては何ですがそれはもう歴代の学院きっての散々な方でしたから。セインさんは比べてそれはもう素晴らしいですからね。』と先生が口々に言うのです!クレムフィスのお姉様って、シンシア姉様は学院に通っておられませんでしたから絶対にあいつの事ですよね!シンシア姉様!僕はもう恥ずかしくて…!」

 と、セインは顔を真っ赤にして怒っていたと思ったら、涙を流し始めました。あらあら、唇をそんなに噛んだら血が出てしまいます。

「セイン…。そうだったの。私はそこまでだとは知らなかったわ。ごめんなさいね。セインが本当に辛くて、辞めたいなら辞めてもいいと思うわ。けれど、学院でもいい出会いがあったならそれは嬉しい事だと思うの。セインの好きなようにしていいとは思うけれど、せっかく先生方にそう言ってもらえるのなら、優秀になればいいのよ。セインは、頑張り屋で、真面目で。褒められるに値する人物だと思うわ。お友達に揶揄われたりは?どう?」

 そう言って、私はセインの膝の上で拳を握り締めていた両手をつかみ、優しくさすりながら言った。

「…はい。今の所友達からはありません。たまに柄の悪い男の先輩から、視線を浴びたり『姉さんによろしく!』と声を掛けられたりしたのですが、それがあいつのせいかと思ったらもう…!」

 あいつ…いつからかセインは、お姉様をそう呼ぶようになってしまったのよね。

「そうだったの…。辛かったわね。」

 そう言って私は、セインの背中をしばらく上下にゆっくりとさすった。すると、気が楽になったのか私の方を向いて、

「シンシア姉様…。ありがとうございます。シンシア姉様は本当に優しいですね。あいつとは雲泥の差です!僕、頑張ります!シンシア姉様に話して少し気が楽になりました。学院に通えなかったシンシア姉様の代わりに人脈を広げなければなりませんから、学院は続けます。そして、僕はシンシア姉様には到底及びませんが、傍で領地経営の補佐をしますから。」

「まぁ!セイン…無理をしてはダメよ。学院は始まったばかりだから、セインもきっと私よりはるかにたくさんの知識を学べると思うわ。そう言ってくれて嬉しいけれど、跡継ぎはお父様が決めるのですからどちらになるのか分かりませんが、セインが継ぐ場合もあるのですからよろしくお願いしますね。その時は、私が補佐をいたしますわ。」

 私達はそう言い合いお互いに見合うと、どちらからともなく吹き出し、笑い出した。

 その笑い声に湿っぽさはなく、セインの声もいつの間にか乾いて響き渡った。
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